忍び寄る影(2)
「しばらくおとなしくしていた悪霊どもが急にあんなに集まって、おまけに妖怪に擬態するってことがもう異常だ。悪霊を強烈に引き寄せるようなものが敷地内のどこかにあるか、もしくは、誰かが誘導しているのか。なんにせよ、厄介だな」
司狼の言葉に、全員が黙りこくる。そんな中、ツキだけがのんびりと春南の膝の上で寛いでいる。
更紗はツキの鼻をちょんとつつき、小声で呟いた。
「ツキ、そんなにリラックスしてて大丈夫?」
「クゥン?」
きょとんとした顔をするツキの尻尾がパタパタと揺れる。
ツキはどうやら呑気に構えているようだ。だとすれば、それほど気にする必要はないのだろうか。
そんな風に思っていると、春南がこそっと耳打ちしてくる。
「ツキって、ギリギリまでのんびりしてるの。そのくせ、いざとなったら別人みたいに変わっちゃうんだから。人じゃないけど。ね、ツキ」
「ウォン」
「ということは、ギリギリまでツキの力は発動しないってことなんですね」
「そうなの。月川神社の護りは、あくまで獅子と狛犬の二人だから」
更紗はもう一度ツキの鼻をつつく。今度は、さっきよりも少し強めにだ。
「もっと早く助けてくれたらいいのに」
「クゥン」
「そんなこと言われても困るって、ツキが言ってるわ」
「そうなんですけど……」
こちら側でそんな会話を繰り広げている間に、男性陣の話し合いは終わったようだ。三人が立ち上がった。
「春南、俺と朔は敷地内の探索に行く。ツキ、お前も来い」
「ウォン!」
ツキは春南の膝を下り、陽の側に駆けていく。
春南も陽のところへ行き、互いに額を合わせた。更紗も朔の元へ行こうとしたが、すでに朔が目の前に来ていた。
「朔さん」
「頼む」
「はい」
静かに額を合わせ、力を注ぐ。できるだけ多く、大きな力を朔に──。
「今日は満月です。絶対に無理しないで」
「わかっている」
満月の今日、朔は狛犬としての力はほとんど発揮できない。
更紗は額を離した後も、心配でたまらない。それでつい、無意識に行動してしまった。
「……っ」
「無事で」
朔の頬がほんの一刷毛、朱に染まっている。
それを見て、陽が軽く口笛を吹いた。
「額にちゅーって、なんかいいなぁ! 春南、俺にも!」
「新月の時に、覚えてたらね」
「えー、ケチ!」
「ほら、さっさと行くっ!」
春南の方は容赦がない。それもそうだ。満月といえば、陽の力が一番大きくなる時で、よほどのことがない限り、何かあるとは思えないからだ。
春南に追いやられ、陽は渋々部屋を出て行く。朔は背を向ける前に更紗の髪を一撫でし、陽の後を追った。
そんな朔を見て、春南は微笑ましそうに目を細めた。
「いつの間にか、ラブラブって感じ?」
「そんなんじゃっ……!」




