忍び寄る影(1)
「昨夜は、またすごいのが出てきたみたいだな」
胡坐をかいて腕を組む司狼に、陽と朔は神妙な顔で頷く。
昨夜の悪霊について話し合おうということで、夕食の後、和室に集まって全員が顔を突き合わせていた。春南と更紗は後ろに控えている。ツキが春南の膝の上にちょこんと乗っていた。
「あれはもう、悪霊って感じじゃなくて……半分妖怪だな。集まっていた悪霊たちの力がそれほど強くなかったから、俺一人でも何とかなったけど、それなりに力があったら危なかった。ツキの助けが必要だったわ」
「ワォン!」
自分が呼ばれたのかと、ツキは元気よく返事をする。それにクスリと笑みを漏らし、春南がツキの頭を優しく撫でる。更紗の方もじっと見てきて、その顔が更紗にも撫でてほしいとねだっているようで、ついつい笑ってしまった。
「ツキが羨ましい……」
「おいこら、スケベオヤジ!」
「陽! 言うに事欠いて、スケベオヤジは酷すぎないか!? なら、お前はどうなんだ! 羨ましくないとでも言うのか!」
「なに逆ギレしてんだよ……」
「朔! お前はどうだ!」
「……羨ましい」
「うわ! 朔がそんなこと言うなんて!」
陽が軽く引いている。朔はというと、いつもと変わらず淡々としている。「それがなにか?」とでも言いそうな顔だ。
「とか言いながら、陽だって絶対に羨ましいって思ってるのよ。ねぇ、ツキ」
「ウォン!」
「ほら、ツキもそうだって言ってる」
「春南~~~っ」
深刻な雰囲気が崩れるが、それもまたあっという間だった。司狼が、気になることを話し始めたからだ。
「実はな、最近、ここらに限らずなんだが、海の事故が多発しているらしい」
月川町は海沿いの町で、漁業に携わる町民も多い。当然、海の事故の話も耳にすることはあるが、その数が増えているのだという。
「そういえば、ニュースでよく聞くな」
「俺も少し気になっていた」
朔はあまりテレビは見ないが、仕事柄、ネットニュースなどはよく見るのだろう。更紗も春南とそういった話をしていたこともあり、顔を見合わせ、眉尻を下げた。
「漁業組合の連中が来て、祈祷をしてほしいと言ってきてな。明日、やることになった」
「月川町でも、いろいろあるのか?」
朔が尋ねると、司狼は苦虫を嚙み潰したような顔で小さく唸る。
「あぁ。幸い命がどうのって事故はまだないが、ちょっとしたものは頻発しているらしい。船の機材で怪我をしそうになったり、危うく海に落ちそうになったりな。皆気を付けているようなんだが、いつもなら絶対にやらないようなポカをやらかすらしい」
「それ、ちょっと怪しいな」
「あぁ」
陽と朔の表情が厳しくなる。
昨夜のことも考え合わせると、何かよからぬことが起こっている。二人がそう考えていることは、火を見るよりも明らかだった。




