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狛犬に娶られました  作者: 九条 睦月


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月川神社の護り(4)

 朔は、庭の辺りをウロウロと歩き回っている。

 更紗には悪霊の気配はわからないが、向こうが姿を現せば見える。見えるだけで、相手に干渉したり攻撃できたりするわけではないのだが、せめて気配くらい察知できればいいのに、と思う。そうすれば、少しでも朔の力になれるのに。


「ツキ、お前はわかる?」

「クゥーン」


 ツキは更紗に話しかけられるのが嬉しいようで、尻尾をパタパタと振っている。


「うーん……わからなそう。でも、ツキって朔さんたちのサポートでしょ? わかってもいいと思うんだけどなぁ」

「ウォン!」

「あと、悪霊退治はいつも二人で行けばいいのにね」

「ワォン!」


 更紗の言うことがわかっているのかいないのか、相変わらずツキは尻尾をブンブンと振っていた。時折更紗の頬をペロリと舐める。遊んでもらっていると思っているのかもしれない。

 更紗は、気配の正体を確かめている朔を眺めながら、小さく溜息をついた。


 悪霊退治は月川神社、月読命の護りである獅子と狛犬の仕事だ。現世と幽世の境目であるこの場所で、悪霊が出没する頻度は高い。だが、毎日というわけではない。だから、陽と朔はその仕事を交代で行っていた。大抵の悪霊は一人で対処ができるというのもその理由だ。

 もちろん、あまりにも数が多くて大変だったり、相手が強大だったりすれば、二人で立ち向かう。二人で足りなければ、ツキも加わる。

 ツキは、二人の力が限界を超え、どうにもならなくなった時に、はじめて本来の姿になるのだという。それほどギリギリにならない限り、解放してはならない力を秘めているのだ。


 更紗はツキを抱きしめながら、目線は朔を追い続ける。

 今この瞬間、悪霊が飛び出してきたら。朔の背後を取り、攻撃を仕掛けてきたら。

 簡単にやられるはずがないと信じてはいるが、胸がざわめく。

 心配なのだ。悪霊退治を終えた朔は、小さな傷を作って戻ってくる。小さな傷であるうちはいいが、いつ大怪我をして戻ってくるかわからない。いや、戻ってこれたらいい、最悪は戻ってこれない場合も──。

 そんなことを考えると、胸が圧し潰されそうになる。

 朔のために更紗ができるのは、少しでも多く、そして大きな力を朔に分け与えること。だが、今の結びつきからすると、たいした力を分けられていないと思う。それがとてももどかしい。

 今日みたいにあまり調子がよくない日にも、おかしな気配を少しでも感じれば、危険を顧みずに確認に行く。こんな時くらい、順番を変わってもらえばいいのにと思わずにはいられない。

 と、ここまで考え、更紗は気付いた。


「あれ……? 順番、変わったことがあった気がする……」


 あれはいつだったか。二週間ほど前、一度だけ順番を変わった気がする。陽が対応する日だったが、朔に変わった。理由は聞かなかったのだが、あの日は陽の体調がよくなかったのだろうか。


「理由、聞いとけばよかった!」

「ウォン?」

「ツキ、陽さんと朔さんの順番、変わったことがあったよね?」

「ワォン!」

「……」


 ツキが言葉を話せればいいのに、と思いながらも、耳をピンと立て、つぶらな瞳で更紗をじっと見つめるツキを見ると、つい和んでしまう。


「可愛いって罪……」


 そう呟きながら、一瞬外してしまった視線を再び窓の外に移す。しかし、そこに朔の姿はなかった。


「え? 朔さん、どこへ行ったんだろう?」


 ここから見えない場所にまで足を伸ばしたのか。それとも、戻ってくる最中なのか。


「迎えに行こう」


 更紗はツキを下ろし、玄関に駆けていった。


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