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狛犬に娶られました  作者: 九条 睦月


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月川神社の護り(5)

 庭に出てみるが、すでに朔の姿はない。更紗は辺りを注意深く見渡しながら、あちこちを探し回る。そして神社の敷地に入った時、誰かとぶつかった。


「おっと……」


 ぶつかった勢いで倒れそうになる身体を支えられ、更紗はその腕につかまりながら見上げる。朔だと思ったが、陽だった。


「大丈夫?」

「はい。あの、どうして……」


 どうしてこんな時間に陽がここにいるのか。

 それを尋ねようとしたが、陽は表情を引き締め、辺りを見渡している。ピリピリとした雰囲気に何も言い出せなくなり、更紗も同じようにしてみるが、やはり朔の姿は見当たらない。

 不安は増していき、更紗は陽から離れようとする。別の場所を探そうと思ったのだ。だが、すぐにそれを察した陽によって遮られる。


「陽さん?」

「できれば家に戻ってほしいけど、一人で帰せない。申し訳ないけど付き合ってもらうね」

「あの……」

「シッ。集中するから静かに」


 そう言われ、更紗は即座に口を閉じる。

 陽は瞳を閉じ、意識を集中させていた。陽の身体に触れているせいか、陽の纏う緊張したオーラのようなものを感じる。

 これほど切迫する陽を見るのは初めてだった。陽はその名のとおり、いつもニコニコと明るく、まさしく太陽のような存在だ。楽観的で自由奔放、そんなイメージだった。だが今は、そんな雰囲気のほんの一欠片さえ見られない。更紗にまでその緊張は伝わり、身体が震えてきた。

 朔の身に何かあったのだろうか。

 不安に押し潰されそうになってぎゅっと目を閉じた瞬間、いきなり陽に抱き上げられた。


「きゃあっ!」


 陽は更紗を抱いたまま、一目散に駆けだす。すごいスピードだ。景色の流れが速すぎて、どこへ向かっているのかわからない。

 更紗は落とされないよう陽の服を強く掴み、再び目を閉じる。目まぐるしく動く景色を見ていると、酔ってしまいそうだったからだ。


「朔!」


 陽の声に目を開けると、そこに朔がいた。しかし同時に、朔と対峙しているものが目に飛び込んできた時、更紗は恐怖のあまりガチガチと歯を鳴らす。

 月川神社のちょうど真裏にあたる場所だった。朔と対峙していたのは、グロテスクな姿をした巨大な蜘蛛。口から涎のような液体が出ており、地面に落ちた瞬間にジュッという嫌な音を立ててその場所を焦がしている。硫酸のようなものだろうか。

 何本もある手足には鋭い棘のようなものが生えている。ところどころ抜けた跡があることから、この棘を操って攻撃できるのかもしれない。


「ガアアアアアッ」


 巨大蜘蛛が大きく口を開け、そこから何かが出てきた。朔は咄嗟に避けて事なきを得るが、かなりのスピードで連続攻撃を仕掛けられるものだから、避けることで精一杯だ。それでも隙をついて蜘蛛に向かって攻撃を放つ。だが、蜘蛛の手足にいとも簡単に払われてしまう。


「朔さんっ!!」


 たまらず叫ぶと、朔が一瞬だけこちらを見た。だがすぐに蜘蛛に視線を戻すと、意識を集中させる。すると、朔の姿が獣へと変わっていく。しかし──。


「どうして……」


 獣に変化したと思っても、すぐに人の姿に戻ってしまったのだ。朔は悔しげな顔で舌打ちしている。

 最初に更紗を助けた時は、あっという間に獣になり、悪霊の喉笛に噛みついたというのに。


「更紗さん、絶対にここを動くなよ」

「……っ」


 そう言うなり、陽は巨大蜘蛛に向かって一目散に駆けて行った。

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