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狛犬に娶られました  作者: 九条 睦月


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月川神社の護り(3)

「朔さん、体調がよくないんじゃ……?」

「そんなことはない」

「でも、すごくお疲れみたい」

「仕方がない。明日は満月だからな。最近、悪霊たちはおとなしいみたいだが、できれば今夜もおとなしくしてもらいたいところだ」

「満月だから……?」


 更紗は小さく首を傾げる。

 満月になると、身体が疲れるのだろうか。体調が悪くなったりする? 

 月の満ち欠けと人の身体には関係性があるというし、朔はそれを強く感じたりするのだろうか。

 更紗が尋ねようとすると、朔は離れてしまい、カフェオレのカップとクッキーの小皿を手にし、ソファから立ち上がった。


「そろそろ仕事に戻る」

「あの……」

「大丈夫だ。心配するな」


 朔はほんの僅か口角を上げ、更紗に背を向ける。その小さな微笑みに、先ほどよりも鼓動が高まった。


「ずるいな……朔さんは」


 更紗の方は朔の一挙手一投足にこんなにも振り回されているというのに、朔は相変わらず淡々としている。少しずつ表情の変化が読み取れるようになってきたとはいえ、朔は更紗ほど気持ちの上下はないと思われる。それが少し悔しい。

 自分は朔にどう思われているのだろうか。

 それが知りたくて、知りたくない。もし義務としか思われていないのだとしたら……そう考えただけで、胸が締め付けられる。


「たった一ヶ月で……好きになっちゃったのかな」


 ここは居心地がいい。朔は淡々としているが、嘘や誤魔化しがなく、一緒にいて楽だし、更紗自身も正直でいられる。できれば、ずっと側にいたい。

 しかしこの気持ちは、果たして恋愛感情なのだろうか。

 更紗もまだ自分の気持ちに確信が持てないでいた。


 そして、夜を迎える。いつものようにベッドに入ろうとした時、朔が突然鋭い視線で窓の外を見た。


「朔さん……?」

「おかしな気配を感じる。外を見てくる」


 悪霊だろうか。

 上着を羽織り、急いで寝室を出ようとする朔を引き留め、更紗は朔を見上げる。


「屈んでください」

「少し見てくるだけだ」

「ダメです。悪霊がいたら、そのまま祓うんでしょう? 屈んで」


 渋々屈んだ朔の額に、更紗は自分の額を当てる。そして、祈りをこめる。

 これは、春南から教わった、悪霊退治前の加護の方法だ。

 弱い霊なら問題はないが、強い霊の場合は護りの力を大量に消費する。そのため、事前に加護を与えパワーチャージしておくに越したことはないのだ。

 朔もすぐに出て行こうとしたし、たいしたことはないのかもしれない。だが、朔の体調は万全とは言えないものだった。だから、いつもより加護を念入りにする。

 更紗はそっと額を外す。朔は視線を緩め、ほんの一瞬、更紗を引き寄せた。


「……っ!」

「行ってくる」


 いってらっしゃいと声をかけるのも忘れ、更紗は朔を見送る。その顔は、真っ赤に染まっていた。


「どうして……」


 加護を与えた後、引き寄せられた。その時に感じた額の温もりを思い出し、小声で呻く。


「ウォン」


 いつの間にか、ツキが側に来ていた。不思議そうに更紗を見ている。

 更紗はツキを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめる。


「怪我してるわけじゃないのに……。ツキ、どうしよう。心臓が壊れそう……」


 あの時感じた温もりは、間違いなく朔の唇だった。思いがけない朔の行動に、更紗は胸がいっぱいになる。

 どういうことなのか聞きたい。朔の気持ちが知りたい。


「ツキ~~~っ」

「クゥーーーン」


 更紗の言葉を真似するように鳴くツキをさらに強く抱きしめ、更紗は窓の外に視線を移し、朔の姿を追うのだった。

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