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狛犬に娶られました  作者: 九条 睦月


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神様の思し召し(11)

「あなたの安全と衣食住を私たちが確保する代わりに、あなたは、あなたが得た力でもって、朔の支えになっていただきたい」

「それはっ……」


 ──朔の嫁になるということか。

 目を見開いたまま固まる更紗に、司狼は畳みかけるように続ける。


「と言えど、結婚を無理強いすることなどできますまい。ですので、しばらく朔とともに暮らしていただきたい。それだけで構いません。これは、私たちとあなただけの契約です。期限は三ヶ月。三ヶ月経っても朔と心を通わせることができず、更紗さんが朔との結婚を拒むなら……残念ですが、あなたを諦めることにします」

「三ヶ月……」

「契約結婚、とでも言えばいいのでしょうか。契約期間内は、生活について何の心配もいりません。今の部屋の解約やら、ここへあなたの荷物を運び込むのも、陽と朔にやらせます。昨夜の彼のことがありますからね、更紗さんは、当分ここを動かない方がいい」

「でも、アルバイトは……」

「アルバイトも必要ありません。その時間を朔の嫁として、朔に尽くすことに専念してください」

「尽くすって……」


 具体的に何をすればいいのだろうか。

 更紗の視線は、無意識に春南に向いていた。春南と目が合い、我に返る。そっと俯くと、朔が再び更紗の髪を撫で始めた。

 身体の多くが触れているからだろうか。更紗の気持ちが全て朔に伝わっているかのようだ。司狼はその様子を見て、満足そうに微笑んでいる。

 司狼は更紗の答えに期待している。いや、そうではない、確信だ。更紗が断らないだろうと踏んでいる。そしてそれは、悔しいがそのとおりなのだ。更紗には、行き場所がないのだから。


「何をすればいいのかは、私が教えます。私に任せてください」


 更紗の不安を払拭するように、春南が声をかけてくる。


「春南さん……」

「不安ですよね。私も最初はそうでした。でも、大丈夫ですよ。きっと悪いようにはなりませんから」


 そう言って、その名が示すとおり春の陽だまりのように微笑み、力強く頷く。そんな春南を見て、更紗の心は決まった。


「……わかりました。私に何ができるのかわかりませんが、三ヶ月間、どうぞよろしくお願いします」


 更紗は朔から少し離れ、司狼たちに向かって深く頭を下げる。そして朔を振り返り、朔にも頭を下げた。

 ゆっくりと顔を上げ、朔を見つめる。

 三ヶ月の間とはいえ、私はこの人の妻になる──。


「ありがとうございます、更紗さん! それでは、その用紙にサインをお願いできますか」

「はい……」


 これは契約だ。便箋には司狼の名前が記されている。

 更紗は司狼の名前の下に、自分の名前を書いた。使い慣れない万年筆なものだから、字が小刻みに揺れている。それが、まるで今の自分の気持ちを表しているかのように見えた。

 便箋を司狼に渡す。司狼はサインを確かめ、深々と頭を下げた。


「どうか、朔をよろしくお願いします」

「いえ、あの……はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 話がまとまった直後、善は急げとばかりに陽が立ち上がる。それを見て、春南が笑いながら言った。


「更紗さんが住むのは、朔さんの家です。荷物はそっちに運んでもらいますね」

「朔、それじゃ早速更紗さんの家に行くか! 更紗さん、家の住所を教えてください。あと、鍵を。それと、大家さんに連絡を入れておいてもらえますか?」

「はい、わかりました」

「朔、行くぞ」

「あぁ」


 更紗から住所のメモと鍵を預かると、二人は慌ただしく部屋を出て行く。それを見送り、更紗は大きく息をついた。

 本当に……ここに住むのだ。

 聞けば、陽と朔の家は別々にあるらしい。月川神社自体はそれほど大きくはないが、その敷地は広い。三人の家は、敷地内にそれぞれ建っていた。

 司狼が一番大きな母屋に住み、その家を挟むように、陽と朔の家があるのだという。向かって右側が陽の家、左側が朔の家。こんなところも、獅子と狛犬と同じだ。

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