【第8話:泥だらけのビタミン大作戦】
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頑固な農村へ潜入したお咲ちゃんたち。
お化けの呪いだとして暗い納屋に監禁されている子供たちを見たお咲ちゃん、あまりの不条理に怒りの鉄槌を下します!
じっとりと湿った山の空気が、藍染めの手ぬぐい越しにお咲の額を濡らしていた。
漁村の裏手に位置するその農村は、鬱蒼とした雑木林に囲まれ、日当たりも悪くどこか陰鬱な空気が漂っている。
広場へ足を踏み入れた瞬間、お咲、太助、次郎の三人を迎えたのは、歓迎の声ではなく、低く地を這うような子供たちの怯えた泣き声だった。
「うう、おかあちゃん、真っ暗だよぉ……」
「おめめが、おめめが見えないよぉ……っ!」
声の主は、広場の隅にポツンと佇む、頑丈な丸太で閉ざされた薄暗く不衛生な納屋だった。
窓には外からボロ布が幾重にも打ち付けられ、一筋の光すら通さないよう徹底的に遮断されている。
「ひぃっ、近づいちゃならねえ! あれは祟りじゃ!」
「仏様の呪いじゃ! 近寄ればお前たちまでお化けに目をくり抜かれるぞ!」
周囲を取り囲む村の大人たちは、怯えきった顔で数珠を揉み、地面にひれ伏してブツブツと祈祷を繰り返すばかり。
その淒惨で不条理な光景を目にした瞬間――お咲の青い瞳から、すべての生気が完璧に消え失せ、冷徹な深淵のようになった。
「ネ、ネエちゃん……?」
隣にいた次郎が、思わず背筋を凍らせて声を漏らす。
合理的でない因習を何よりも嫌う彼女の逆鱗に、村の有様が完全に触れたのだ。
お咲は怒りのあまり、不慣れな日本の着物の胸元を激しく上下させ、地響きのようなドスの効いた声で吐き捨てた。
「――『ウンメーリヒ(あり得ない)』。本当に、どこまで愚かなの……!」
「おい、こら漁村の若造ども! そんな怪しげなほっかむり女を連れて何をしにきた! 呪いが伝染る前にとっとと失せろ!」
鍬を手にした村の頑固な長老が怒鳴り散らしながら立ち塞がる。だが、お咲の歩みは止まらない。
「どきなさい。そこにいる哀れな大人たち!」
「な、なんじゃこの女は! 何を言って――ぶふぉっ!?」
お咲は突き進む勢いのまま、邪魔な長老の胸元を白い手で力任せに突き飛ばした。
どさりと泥の中に転がる長老。お咲はそのまま、着物の袖を男らしく二の腕まで一気にまくり上げた。
ランプの光とは違う、山の木漏れ日を浴びて、彼女の白く肉感的な両腕が眩しく露わになる。
彼女は地面に転がっていた、大人の男でも持ち上げるのを躊躇うような太い割木を容赦なく両手で掴み取った。
「タスケ! ジロー! 手を貸しなさい!」
「お、おう! やっちまえネエちゃん!」
「因習の塊なんか、ぶち壊しだ!」
お咲は太い薪を大きく振りかぶると、納屋の頑丈な木戸に向かって、渾身の力で叩きつけた。
バキィィィン!!
凄まじい破壊音が山村に響き渡る。
一度、二度、三度。太助と次郎も体当たりで加勢し、ついに納屋を閉ざしていた閂が派手に弾け飛んだ。
お咲は割木を放り投げ、カビと糞尿の臭いが立ち込める暗闇の中へと躊躇なく飛び込んだ。
中では、数人の子供たちが埃にまみれ、お互いに抱き合って震えていた。
「もう大丈夫よ、可哀想に。お日様の光の元へ行きましょう」
お咲は両腕に二人の子供をしっかりと抱きかかえ、まばゆい太陽が照らす広場へと堂々と連れ出した。
突然の光に、子供たちは目を細めて泣きじゃくる。
「これを見なさい! 子供たちに必要なのは、そんな無意味な祈祷じゃないわ! これよ!」
お咲が鋭い眼差しで太助を振り返る。
「タスケ、あれを出して!」
「待ってました! ほらよ、ネエちゃん!」
太助が背負ってきた風呂敷から取り出したのは、小さな木桶だった。
中に入っているのは、お咲の指示で漁村の若者組が総出で集めておいた、新鮮なイワシやタラの「魚の肝の油」――すなわち、天然のビタミンが豊富に含まれた肝油である。
独特の強烈な生臭さが広場に漂う。
「さあ、これを飲みなさい。ロジックの通りに、あなたたちの目はすぐに治るわ」
「う、うわぁん! くさいよぉ、いらないよぉ!」
嫌がって首を振る子供たちの前に、お咲は泥だらけの膝を地面に突いて視線を合わせた。
まくり上げた袖の隙間から、汗が白肌を伝って流れ落ちる。
山村の目の粗い赤泥が衣服を汚し、汗で濡れた着物が彼女の豊満で健康的な肉体の起伏を露骨に浮き彫りにしていた。
だが、お咲は自身の肉体美が衆目に晒されることなど一瞬たりとも気に留めず、泥まみれの指で優しく子供の顎を支えた。
「痛くないわ、これを匙一杯だけ。ね? 信じなさい」
その青い瞳には、絶対的な慈愛と、医療者としての気高い輝きが満ちていた。
お咲は嫌がる子供たちの口元へ、優しく、しかし的確にその黄金の油を流し込んでいく。
「にがい……。でも、なんだか、お腹がぽかぽかする……」
「そうよ、それでいいわ。水分を摂って、少し横になりなさい。数日もすれば、暗闇なんて怖くなくなるわ」
お咲は一人一人の子供の頭を抱きしめ、泥に汚れながらも必死に看病を続けた。広場は、静まり返っていた。
「……あ、ああ……」
最初に突き飛ばされた長老が、泥まみれになりながら、お咲の姿を呆然と見上げていた。
そこにあるのは、お化けの呪いなどという生温かい迷信を完膚なきまでに叩き潰す、圧倒的な知性と「清潔なロジック」の姿だった。
そして、他人の村の子供のために、汗と泥にまみれて髪を振り乱し、命を救おうとする異国の少女の、神聖なまでの美しさ。
「……呪いじゃねえ。あの娘御は……本物の、お医者様じゃ……」
一人の母親が耐えかねたように泣き崩れ、お咲の前で砂利にひざまずいた。
それを皮切りに、最初は「祟りだ」と武器を構えていた農民たちが、次々と鍬を放り投げ、涙を流して地面に平伏していく。
「お咲様……! 子供たちを、子供たちを助けてくだせえ……!」
「お咲様、申し訳ございませんでした……!」
何十人もの大人がひれ伏す真ん中で、お咲はふぅ、と汗ばんだ首筋を拭い、泥だらけの着物の裾を直した。
そして、後ろで鼻高々に胸を張る太助と次郎に向けて、少し疲れたように、しかしこれ以上ないほど誇らしげな不敵の笑みを浮かべ、目配せしてみせた。
「言ったでしょう、タスケ、ジロー。病気はロジックで倒すものよ。はい――これにてビタミン大作戦、大成功ね」
山の因習村に深く根付いていた暗い迷信の霧が、お咲の放つ圧倒的な光によって、跡形もなく消し去られた瞬間だった。
納屋の戸を叩き壊すお咲ちゃん、最高に男前でセクシーでしたね!
泥だらけのビタミン大作戦は大成功。
次回、お咲ちゃんの医術によって、犬猿の仲だった二つの村の関係が劇的に変化します!




