【第43話:異国船、大洋へ敗走】
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敵はすべて去り、ついに平和が戻ります。
去りゆく故郷の船を見つめるお咲ちゃんの胸に去来する思いと、
訪れる最高の結末をご覧ください!
「おい! 見ろべ, 見ろべ!
あの不気味で巨大な異国の黒船が、
ついに重い錨を上げて動き出したぞ!」
「勝った……!
俺たち、本当に勝ったんだべさ!
お上の威光や大筒の響きを後ろ盾にして、
あの異国の軍勢を本当にこの砂浜から追い払っちまったんだべさ!」
「名主の旦那! 組頭様! 見てけろ!
あいつらの不気味な白い帆が、オラたちの外房の広大な海原から、
じりじりと遠ざかっていくべ!」
「ガハハハ!
これに懲りたら、二度と日ノ本の、
この外房の隠れ里の『宝』に指一本触れようなんて、
そんな大それた泥棒みたいな真似は起こさぬことだべさ!
異国の泥ドジョウども、さっさと己の巣へ帰りやがれ!」
奉行所の巡検船による厳重極まる威嚇射撃の構えと、
網の中で泥まみれになり果てた使節の隊長を這う這うの体で
回収した異国の武装帆船。村人たちが放つ剥き出しの圧倒的な生命力と、
お咲が魅せる神々しいまでのお色気、
そして名主や組頭が一致団結して迫った凄まじい熱気に
完全に圧倒されたその巨船は、
ついに重い錨を上げ、外房の美しい海からすごすごと去っていくより
ほかなかったのである。
ギチギチ、ギィィと重苦しい音を立てて帆綱が限界まで絞られ、
巨大な白い帆が夕日に赤々と染まりながら、
大洋の果てしなき水平線の彼方へと、
徐々に、しかし確実に小さくなっていく。
昨夜までの侵略の脅威は、今や完全に波の彼方へと消え去ろうとしていた。
「そら、野郎ども! 出し惜しみするんじゃねえぞ!
お咲のネエちゃんの完全勝利と、オラたちの村の明日のために、
盛大に勝鬨の声を上げろ!」
「へいきた、太助の兄ちゃん!
そら、異国の兵隊さんよ、
二度とこの浜に戻ってくるんじゃねえべさ! せいぜい達者でな!」
浜辺で見守る太助、次郎、若者組の男たち、
性能そして濡れた白い磯着を夕暮れの
心地よい潮風に揺らす海女のおなごたちの間から、
割れんばかりの地鳴りのごとき歓声が沸き起こった。
天を突くような勝鬨の嵐が、幾重にも重なって外房の空へと巻き起こる。
お咲は、すぐ隣に佇むよね婆の、皺だらけだが
世界で一番温かい手を両手でしっかりと繋ぎ合わせながら、
夕暮れの光の中に消えゆくかつての故郷の船を、じっと静かに見つめていた。
それは、かつて自らの優れた和漢洋の知恵と草根の知識を
「魔女の呪いだ」「悪魔の業だ」と罵り、
暗く冷たい地下室へと閉じ込め、最終的には冷酷に嵐の海へと追放した、
因習と頑迷な邪推に満ちた故郷の国であった。
「(……アウフ・ヴィーダーゼーエン。さようなら、私の暗く冷たい過去……)」
しかし、いま現在のお咲の胸の奥底を占めていたのは、
かつての迫害者たちへの烈しい怒りや、呪うような憎しみでは決してなかった。
言葉は完全には通じなくとも、ありのままの彼女を認め、
愛し、その豊満な肉体の色香をも太陽のように誇らしげに笑い飛ばしながら、
自らの命と村の未来を懸けて守り抜いてくれた人々がいる。
この世界で一番温かくて、お節介で、そして無鉄砲な、
絶対的な「安住の地」への、
枯れることのない深い感謝の念だけであった。
「お咲ちゃん、ほら、もうあの不気味な黒い影は、
海のどこを探しても見えなくなっちまったべさ」
よね婆の優しい声に、お咲は我に返った。
「ええ……。
よね婆、本当に、本当に私、今とっても幸福よ……!」
船の不気味な黒い影が、赤く燃える水平線の彼方へと
完全に消え去ったまさにその瞬間、
お咲は頭に巻いていた大きな藍染めの手ぬぐいを、
空に向けて高く、どこまでも高く放り投げた。
夕日に照らされたまばゆい黄金の髪が、
外房の荒々しくも優しい夕風に美しく、かつ艶やかに波打つ。
彼女の美しく涼やかな青い瞳からは、止めどなく大粒の涙が、
雪のような白肌を伝ってきらきらとこぼれ落ちていった。
しかし、その肉感的な紅い唇には、
かつての忌まわしき記憶を吹き飛ばすほどの、
最高に眩しい、満開の笑顔が咲き誇っていた。
「私のユピアは、ここよ!
私はこの温かい村で、みんなの『お咲』として、ずっとずっと生きていくわ!」
お咲のその凛とした、大迫力の決意の言葉を聞いた瞬間、
すぐ隣に立っていた太助と次郎は、
お互いに顔を見合わせてニカッと悪戯っぽく笑い合った。
そして、お咲の柔らかく白い肩を、左右からポンと力強く叩いた。
「へっ、当たり前だべ、お咲のネエちゃん!
お前さんは最初から、オラたちの無敵の家族だべさ!
どこにも行きやしねえって信じてたべ!」
「そうだべ!
これからは毎日、おいらが海に潜って獲ってきた
特大の伊勢海老やアワビを、お腹いっぱい食べさせてやるべさ!
魔女なんて呼ぶ奴がいたら、オラが全員海に沈めてやるべ!」
「ふふふ……! タスケ、ジロー!
あなたたち、本当に、本当に大好きよ!」
お咲は胸に湧き上がる酔ったような勢いと、
彼らへの溢れる愛おしさを抑えきれず、
太助と次郎の浅黒く力強く鍛え上げられた首の後ろへと、
その柔らかく白い両腕を優しく、しかし力強く絡みつかせた。
そして、自らの豊かな胸元を兄弟の胸へと
ぴったりと押しつけるようにして、
濡れた瞳で最高の抱擁を交わしたのである。
薄手の磯着越しに伝わる、彼女の圧倒的な肉体の質量と温もり。
お咲の肉体から放たれる甘い潮の香りと、
息をのむほどになめらかな感触に包まれた瞬間、
太助と次郎はあまりの刺激に激しく鼻血を噴き出しそうになり、
その場に石地蔵のごとく完全に硬直してしまった。
真っ赤になった二人の顔は、まるで茹で上がったタコのようであった。
「ガハハハ! 見たか見ろべ!
太助と次郎の奴ら、最後の最後でお咲ちゃんに
思いっきり抱きつかれてカチコチになってやがるべさ!
情けねえ面だべ!」
「羨ましいぞ、悪童兄弟!
お咲ちゃんのその柔らかい腕と抱きつきは、村の働き盛り全員へのご褒美だべ!
二人だけで独り占めはずるいぞ!」
「よね婆、この真っ赤になって固まってる悪ガキどもの頭に、
冷てえ井戸水でも容赦なくぶっかけてやりな! 目を覚まさせろ!」
周囲を取り囲む海女の衆や若者組の男たちから、
地鳴りのようなドッと大きな笑い声と、賑やかな冷やかしの叫びが沸き起こる。
その声は、夕焼けに染まる美しい夕空へと高く響き渡っていった。
うら寂しかった外房の漁村を優しく包み込む夕暮れの黄金の光は、
これまでにないほど美しく輝いていた。
そして黄金の髪を持つ異国の女神と、
この隠れ里の無敵の家族たちが紡ぎ出す、新しい時代の幸福な始まりを、
艶やかに、色鮮やかに色づかせていくのだった。
異国船の敗走、本当にお見事でした!
お咲ちゃんが過去を完全に振り切り、
本当の笑顔を取り戻した姿に編集者も涙が止まりません。
次回、逃げる船からまさかの「黄金のプレゼント」が!?




