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外房漂着ブロンドちゃん 〜床下の菩薩、若者組と海女(アマ)になる〜  作者: 塩塚 蘭仮名


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【第39話:漁網の中の『フェボアテン』】

いつも応援ありがとうございます! ゲリラ戦もいよいよ大詰め。

網にかかった異国の隊長に対し、お咲ちゃんが最高に痺れるゲルマン語の

「ドヤ顔」を叩き込みます。お見逃しなく!

「おのれ、離せ! 

我が精鋭小隊をこのような汚らわしい魚の網で縛り上げるとは、

なんという野蛮な国じゃ! 恥を知れ、東洋の田舎者どもめ!」


「ガハハハ! 何が野蛮だべ、使節の旦那! 

泥とイワシの油まみれで砂浜に転がってるお前さんたちのほうが、

よっぽど泥ドジョウみたいで見苦しいべさ!」


「おい次郎、

大筒をチラつかせて威張ってた割には、

地引き網に絡まると指一本動かせねえんだな。


ほら、鍬の先っぽが顔のすぐ前に落ちてるべ、

うっかり動くんじゃねえぞ!」


「へへっ、兄ちゃん、

こいつらの自慢の鉄砲も、今じゃただの泥まみれの鉄の棒だべさ! 

ざまあみやがれ!」


 朝靄の晴れゆく、うら寂しい外房の白い砂浜。

 太く頑丈な漁網の網の目に幾重にも絡まり、

泥と魚臭い油にまみれて完全に身動きが取れなくなった異国小隊の頭領の周囲を、

太助と次郎、あるいは村の若者組の男たちが隙間なく取り囲んでいた。


彼らが容赦なく突きつける櫂や鍬の先、そして勝利の熱気が、

身動きの取れぬ使節を精神的にも肉体的にも圧倒していたのである。


「みんな、道をあけておくれ。

長屋の影から、お咲ちゃんの、ご本尊様のお出ましだべさ」


「タスケ、ジロー……、みんな本当に怪我はなかった……? 

神様、みんなを守ってくれて本当にありがとう……」


 長屋の陰から、よね婆に伴われたお咲が、

ゆっくりと確固たる足取りで正面へと歩み出た。


 頭の手ぬぐいをバサリと外し、朝日にそのまばゆい黄金の髪を妖しく、

かつ神々しく海風になびかせるお咲の姿は、

薄手の白い磯着の襟元から覗く豊かな胸元の色香も相まって、

まるで荒ぶる海を一瞬で鎮めるために現れた本物の菩薩のようであった。


「お、お咲……! この悪魔に魂を売った金髪の魔女め! 

そなたには今すぐ本国へ戻り、

我らの領邦の流行病を治す絶対の義務があるはずじゃ! 

大人しく我らに従え!」


「……ギム? そんな勝手な言葉、今の私には爪の先ほども響かないわ」


 網の中でなおも往生際悪く傲慢に叫ぶ頭領を見つめるお咲の瞳からは、

一切の温度が消え去っていた。


 瞳から一切の光を消し去った氷の笑みを浮かべ、

お咲は薄手の木綿布越しに豊かな胸元をぐっと反らせると、

これ以上ないほど誇らしげな佇まいで見下ろしてみせたのだ。


「大した道理も、まともな戦練の知恵もなしに、

この素晴らしい理想郷(ユピア)から私を力ずくで奪えると思ったの?

 

恥を知りなさい、異国の傲慢な大人の人たち。

はい――『フェボアテン(禁止)』ね」


 お咲が肉感的な紅い唇から放ったその冷徹な一言と、

完璧に計算された小悪魔的な目配せの威力に、


使節の頭領はぐうの音も出ず、

ただただ絶望の表情を浮かべて白い砂浜にへたり込むしかなかった。


「う、うわああ! ネエちゃん、今のおしまいって意味だよな!? 

あの『バツ印』の次は目配せだべ!」


「兄ちゃん、お咲のネエちゃんが凛々しすぎて、

おいらまた鼻血がだくだくと噴き出してきそうだべさ! たまらねえべ!」


「全くだ! 異国の生臭坊主ども、ネエちゃんの一言で

完全に骨抜きにされちまってやがるべさ!」


 言葉は完全には通じなくとも、お咲の放った圧倒的な知性と、

誰もが心を奪われる艶やかな魅力に、

周囲の若者組や白い磯着の海女たちは地鳴りのような大興奮の歓声を上げた。


その時、沖合から白波を激しく蹴立てて、

奉行所の立派な家紋を掲げた巡検船が、厳かに砂浜へと接岸してきたのである。


「これこれ、皆の衆! 

お上の御前であるぞ、不敬なる騒ぎは静まりおれ!」


「ひぇっ!? 庄屋の糞ジジイだべ! 

奉行所の役人様をたくさん連れてきやがった!」


 舟の舳先(へさき)から、すっかりお咲の和漢洋の知恵と

草根の漢方茶の信者となった庄屋が、

これまでにないほど立派に胸を張って姿を現した。


お堅い庄屋は、引き連れてきた奉行所の役人たちの前で、

網の中の異国人たちをキロリと鋭く睨みつけると、

朗々たる声で大見得を切ったのだ。


「我が外房の領内において、

不届きな異国人が刃物を振り回して大暴れするなど、断じて許されんべ! 


ましてや、この金髪の女子は、我が村の恐ろしい病を払い、

年寄りをたくさん救ってくれた、なくては保存せぬ『領内の宝』じゃ!


異国の使節とやら、これ以上の狼藉を働くならば、長崎奉行へ直々に通報し、

国を挙げての厳罰に処す!

直ちにその黒船ごと、大洋(おおうみ)の彼方へ退散せよ!」


「ぬ、ぬうう……おのれ、

日本の役人や庄屋までがこの魔女の味方をするというのか……!」


 村人たちの剥き出しの生命力とお色気作戦、

お咲の卓越した知性の道理、精度、そして村が一味同心となった強固な団結力が、

お咲を磔獄門の危機から完全に救い出した、最高の瞬間であった。


プライドを完膚なきまでに粉々に砕かれた異国船は、

網から解放されるや否や、すごすごと遠い太平洋へと

敗走の準備を始めるしかなかったのである。

お咲ちゃんの冷たい目の『フェボアテン』、最高でしたね!

庄屋さまの大見得も決まり、ついに勝利を収めました。

次回は戦いを締めくくる、最高に熱い大祝勝会です!

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