↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外房漂着ブロンドちゃん 〜床下の菩薩、若者組と海女(アマ)になる〜  作者: 塩塚 蘭仮名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/38

【第37話:イワシの油と滑る銃身】

いつも応援ありがとうございます!

ここからは異国小隊との大興奮の夜間ゲリラ戦に突入です。

太助たちの悪ガキ仕込みの罠が炸裂します!

「足元に気をつけろ。朝靄のせいで路地が酷く湿っておるぞ。

油断せず、お咲を拉致して一気に黒船へ連れ戻すのじゃ! 

遅れるな!」


「へい! 

家を取り囲み、逆らう日ノ本の土民どもは

銃床で一人残らず叩き伏せてくれん! 踏み込め!」


「……おい次郎、

霧の向こうから、あいつらの頑丈な革靴の重てえ足音が

じりじりと近づいてくるべ……」


「へへっ、兄ちゃん、おいらの胸の高鳴りも最高潮だべさ! 

この日のためにたっぷり溜め込んだ、特等席の仕掛けを、

あの異人の野郎どもに盛大に喰らわせてやるべ!」


 朝靄の白闇(しろやみ)が色濃く立ち込める、

うら寂しい外房の漁村の細く狭い路地裏。


 お咲を何が何でも奪い返すべく、

力ずくで村へ踏み込んできた異国の精鋭小隊が、

音もなく不気味に侵入してくる気配を察知し、


長屋の陰に身を潜めていた太助と次郎は、

不敵な笑みを深く交わし合った。


彼らはこの決戦の時のために、

村の若者組の精鋭たちを要所の屋根上や長屋の木戸の裏へと、

網の目のように完璧に配置していたのだ。


「今だべ、野郎ども! 

出し惜しみするんじゃねえ、一斉にやっちまいな!!」


「へいきた、太助の兄ちゃん! 

そら、異国の兵隊さんよ、特製の熱い朝飯だべさ! 

受け取りな!」


 先頭の兵士が

路地の最も狭く見通しの悪い角へ踏み込んだ瞬間、

太助の鋭い号令が響き渡り、

長屋の二階の窓や荷車の上から、

若者たちが一斉に動き出した。


 朝靄の宙を舞い、

地面へと容赦なくぶちまけられたのは、

村の特産品であり、長年大釜で煮詰めて蓄えていた、

おびたただしい量の「イワシの油」であった。


「う、うわあああっ!? 

なんだ、この鼻を突く凄まじい魚臭さは……! 

目が痛むぞ!」


「ひ、光る、地面が朝日に照らされてキラキラと妖しく光って……、

うわっ!? 足が、足が滑る!」


「ズドン!! ドサッ!」


 強烈な生臭さが路地一帯を瞬時に支配すると同時に、

信じられないほどの凶悪な滑り気が、

異国の兵士たちの足元を完全に奪い去った。


 硬く重い革靴を履いた兵士たちは、

一歩も前に進むことすらできず、

まるで薄い氷の上に乗せられたかのように四肢をバタつかせ、


お互いに激しく衝突しながら

ドタバタと砂塗れになって無様に転倒していった。


銃を構えることすらままならず、

朝靄の路地は、兵士たちの悲鳴と

ゲルマン語の怒号が入り乱れる大混乱の渦へと叩き落とされたのだ。


「その隙を絶対に逃すんじゃねえべ! 

次郎、若者組、一気に突撃だべぇえ!!」


「おうよ! 外房の男の意地を見せてやるべ! 

異人の野郎ども、大人しく観念しやがれ!」


 次郎率いる若者組の男たちが、

待ってましたとばかりに長屋の闇から一斉に躍り出た。


 彼らは皆、はだけた胸元から汗ばんだ逞しい筋肉を覗かせ、

若者らしい剥き出しの圧倒的な生命力と気勢を爆発させながら、

地面に転がって泥まみれになっている兵士たちへと

次々に飛びかかり、その巨体を強固に組み伏せていった。


西欧の厳格な教会の戒律や、絶対的なお上の命令に

縛られた軍隊とは違い、

自由と大切な仲間を心から愛する若者たちの突撃は、

まるで飢えた狼のごとき野性味に溢れていた。


「て、てん、天晴れだべ……! 

これなら異人の鉄砲も形無しだべさ! 

ざまあみやがれ!」


「おい、添頭(そえがしら)の野郎が

往生際悪く刀を抜こうとしてろぞ! 

太助、気をつけろ!」


「へっ、

滑る地面なら、毎日泥と塩まみれで

歩いてる俺たちの無敵の縄張りだべ! 

へっちゃらだべさ!」


 太助は、兵士たちがまともに立てない油まみれの地面を、

履き慣れた藁靴(わらぐつ)で器用に、かつ滑らかに駆け抜けた。


そして、腰のサーベルを引き抜こうとしていた小隊の

添頭の目の前へと一息に肉薄すると、

手にした分厚い櫂(かい)を凄まじい風切り音と共に振り下ろし、

その手首をガツンと力強く強打したのだ。


「ぎゃああああっ! 

我が、我が手首が……! 折れる!」


「そいあつは危ねえから預かっておくべ、使節の旦那! 

お前らににゃあ勿体ねえ代物だ!」


 添頭が悲鳴を上げて武器を取り落とした瞬間、

太助はそのサーベルを鮮やかに奪い取り、

若者組の仲間たちへと高く掲げてみせた。


 一方その頃、太助たちのあばら家の、

頑丈に閉じられた畳の下の床下(芋つぼ)で

待機を命じられていたお咲は、すぐ上の暗闇の中で、

胸の高鳴りを抑えきれなくなっていた。


 外から聞こえてくる、

イワシの油に無様に滑る兵士たちの罵声や、

太助たちの勇ましく泥臭い怒号。


言葉は完全には通じなくとも、

自分のために命を懸けて大軍を相手に戦ってくれている、

村の若者たちの熱き情熱と生命力の熱気が、


床板の隙間を通じて、彼女の雪のような白肌へと

びりびりと伝わってきたのだ。


「(みんな……、タスケ、ジロー……。

神様、どうかお願い、誰も傷つかないでちょうだい……!)」


 お咲は、よね婆から借りていた重い薬草のすり鉢を、

豊かな胸の前にきゅっと抱きしめ、

暗闇の中で彼らの無事を祈り続けていた。


しかし、お咲の祈りとは裏腹に、

外の戦況はさらに激しさを増していた。


「おい! 大変だべ! 

路地の騒ぎに紛れて、敵の別働隊の野郎どもが、

長屋の裏を回って海岸線へと迫ってきてるぞ!」


「なんだと!? 

あっちには、お咲ちゃんを守るために

海女の姉ちゃんたちが陣取ってるはずだべ!」


「急げ、太助! 

おなごたちの方へ、使節の奴らが容赦なく突撃していくべ!! 

早く行ってけろ!」


 朝靄の白闇を切り裂くようにして、

長屋の裏手から新たな軍靴の音が不気味に響き渡る。


お咲を囲む若者たちの勝利の歓声は一転し、

外房の白い砂浜を舞台にした、さらに烈しく過酷な大攻防戦の火蓋が、

今まさに再び切って落とされようとしていた。

太助たちのイワシ油作戦、大成功です!

若者たちの筋肉と熱気が夜の漁村に映えますね。

しかし敵もさるもの、別動隊が海側から迫ります。

次回は最強の海女連合が魅せます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。