【第36話:異国医師との、命懸けの医術比べ】
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決戦の幕開けは、武力ではなく知性の殴り合い。
異国船のお抱え医師が、お咲ちゃんの最新医術を「魔女の紛い物」と罵り、
医学論争を挑んできます!
「待たれよ、使節の重立ち(おもだち)よ!
我が軍兵の神聖なる銃弾を、
このような未開の地の野蛮人どもに浪費する必要はございらん!
銃を下ろされよ!」
「ぬう……、お抱え医師殿、
いきなり割って入って何をしゃしゃり出てくるか!
邪魔をするな!」
「この女が村人どもをたぶらかしたという薬草の手法など、
泰西の緻密なる理の欠片もない、
悪魔の紛い物に過ぎませぬ!
和漢の浅知恵に惑わされるなと、
ワシが本国の権威にかけて直々に証明してみせましょう!」
若者組の逞しい肉体の壁と海女たちが武器を固く握り締め、
まさに血を見る武力衝突が始まろうとしたその刹那、
沖の黒船から降り立っていた異国船のお抱え老医師が、
大仰に白髭を揺らしながら前に進み出た。
彼は本国の最高権威を自負する傲慢な男であり、
通訳を介して、集まった村人たちや奉行所の役人の前で
お咲を激しく指差し、罵り始めたのだ。
「おい、あの白髭の爺さん、何をごちゃごちゃと偉そうに喚いてやがるんだべ?
顔を真っ赤にしてよ!」
「何でも、お咲のネエちゃんの優れた医術を『嘘っぱちだ』って、
馬鹿にしてるらしいぞ、兄ちゃん!」
「んだと!? クソ爺、お咲のネエちゃんの南蛮茶のおかげで、
若者頭の気鬱がどれだけ綺麗に治ったか知らねえから
そんな口が叩けるんだべ!
海に叩き落としてやるべさ!」
太助と次郎が悔しげに拳を強く握り締める中、
お咲は怯むどころか、ふっくらとした紅い唇に
小悪魔的な薄笑いを浮かべて老医師をじっと見つめていた。
「ふふふ……。
黴の生えた古い医書にしがみついているだけのお頭の仕組み、
完全に――『フェボアテン(禁止)』ね」
「何だと!?
この生意気な小娘が!
ワシの由緒ある医学を愚弄するか!」
「よね婆、あれを持ってきてちょうだい。
みんなに見せてあげるわ」
「へいへい、お咲ちゃん、これだべさ!
毎晩遅くまで一緒に徹夜して書き進めた、村の特別なお宝だべ!」
お咲はよね婆から手渡された分厚い冊子を、
老医師の目の前の白い砂浜へと、
パシィンと小気味よい音を立てて力強く叩きつけた。
それは、お咲が外房の固有の薬草を一本一本自らの手で調べ上げ、
泰西の高度な理――草根の精髄を抜き出す乾坤の術や、
病床の清浄を保つ厳格な工夫を完璧に融合させた、
世界に一冊しか存在しない「最新の医学調合書」であった。
そこからは、言葉の壁をも完全に超越した、
圧倒的な「究極の医術競べ」の始まりだった。
「お、おい! 大変だべ!
長屋の三吉坊主が、また激しい熱病でひっくり返っちまったべ!」
「うわあ、身体が火の塊みたいに熱いぞ!
息も絶え絶えだべさ!
名医の爺さん、早く診てけろ!」
「ふん、丁度良いわ。ワシの泰西の最高技術を見せてやろう。
このような悪しき熱病には、体内の悪しき血をすべて体外へ排出すべきじゃ。
さあ、剃刀を持ってこい!
腕の血管を切り開き、悪い血をすべて抜き出すのじゃ!」
少年の細い腕に冷たい刃を当てようとした老医師の前に、
お咲は烈しい勢いで立ちはだかった。
「そんな野蛮で時代遅れな放血療法なんて、
絶対に――『ウンメーリヒ(あり得ない)』よ!」
「何を! 血を抜かねば熱は下がらん!
それが本国の絶対の医学じゃ!」
「血を抜したら、この小さな身体の体力がなくなって死んでしまうわ!
焦ってはダメ。熱を下げるには、
この外房の崖に生えている、的確な解熱の本草と、
殺菌効果のある薬草茶を飲ませるのが一番よ!」
お咲は海女の頭領から素早く受け取った特製の薬草茶を、
苦しむ少年の唇へと優しく、しかし確固たる手つきで注ぎ込んだ。
さらに、よね婆が沸かしてくれた綺麗な真湯で木綿の布を濡らし、
少年の額や全身を優しく拭いながら、
病床の衛生を保つための理を完璧に実践してみせたのだ。
「おい、見ろべ……。
三吉の顔から、さっきまでの禍々しい赤みがスーッと引いていくぞ……!」
「兄ちゃん、本当だべ!
呼吸もすっかり穏やかになって、スースーと気持ちよさそうに
寝息を立て始めたべさ!
お咲のネエちゃんは本物の神様だべ!」
数刻の後、あんなに激しい高熱で苦しんでいた少年は、
劇的に熱が下がり、ぱちりと大きな目を何度も瞬かせると、
すっかり元気な笑顔を取り戻して元気よく起き上がったのだ。
「お姉ちゃん、ありがとう!
お腹の奥がポカポカして、もうちっとも痛くないや!」
「ガハハハ! 見たか異国の白髭ジジイ!
お咲ちゃんの完全な大勝利だべぇえ!!」
「剃刀で血を抜こうとしたお前さんの無知のせいで、
子供が死ぬところだったんだよ! 恥を知りな!」
海女の衆や若者組が一斉に地鳴りのような大歓声を上げる中、
お咲が示した本草の完璧さと、立ちどころに熱を引かせる神速の医術の前に、
老医師は自らの無知と時代の敗北を容赦なく突きつけされていた。
「あ……あ……、バカな……。
和漢の薬草と、ワシらの知らぬ衛生の理が、
これほど完璧に組み合わさっているなど……。
ワシがこれまで信じてきた医学はいったい何だったのじゃ……」
老医師は顔面を真っ青に硬直させ、
まるで冬の池に落ちた犬のようにガタガタと激しく震え出し、
その場にばったりと膝を突き崩した。
武力による総力戦を前に繰り広げられた知性の戦いにおいて、
お咲は本国の絶対的な権威を完膚なきまでに論破し、
この愛おしい安楽土の仲間たちと共に、
最初の完全勝利を艶やかに収めたのである。
お咲ちゃんの圧倒的なロジック勝利、最高にスカッとしましたね!
医師の悔しそうな顔が目に浮かびます。
しかし異国側はこれを認めず、
ついに夜陰に乗じた「夜襲」を仕掛けてきます……!




