【第33話:若者組、怒りの一揆同心】
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牙を剥いた異国の兵士たちの前に、太助と次郎率いる「若者組」の
若者たちが立ちはだかります。
筋肉と熱気が火花を散らす、漢たちの抵抗回です!
「そこをどけ、日ノ本の田舎者ども。
我が使節の行く手を阻む者は、
上意に基づき容赦なく排除せよとの仰せじゃ!
これ以上長引けば、その小癪な首をすべて撥ね飛ばすぞ!」
「ひえぇっ!
み、皆の衆、どくべ、どくべ!
あんな鉄の筒の先から一度でも火が噴き出したら、
俺たちの命なんていくつあっても足りねえべさ!」
「おのれ、太助に次郎!
お前たちが大人しくあの異国のおなごを差し出さぬから、
村ごとこのような恐ろしい目に遭うのじゃ……!
お上を怒らせたらおしまいだべ!」
朝靄の白闇が深く立ち込める、
外房の狭くうら寂しい路地裏。
黒船から降り立った異国の兵士たちが、
大砲や火縄銃をがちがちと不気味に鳴らし、
物々しい革靴の足音を響かせながら進軍していた。
彼らがついにお咲の隠れている太助と次郎のあばら家へ
とその黒い銃口を向け、容赦なく包囲を狭めようとした、
まさにその刹那だった。
長屋の路地の奥、ひんやりとした海の湿気と
潮の香りをたっぷりと孕んだ霧の向こうから、
地響きのような、地鳴りに酷似した無数の足音が、
湿った土の大地を激しく揺るがしながら押し寄せてきた。
「……おい、異国の兵隊さんよ。
そいつはどっちの言い分だべ?
俺たちの耳にゃあ、ただの犬の遠吠えにしか聞こえねえべさ」
「何奴じゃ!
そこを動くな!
銃を構えろ!」
使者がぎょっとして振り返った霧の向こうから、
ぬうっとその圧倒的な質量を伴って姿を現したのは、
太助と次郎を筆頭にした、
総勢数十人にも及ぶ村の「若者組」の男たちだった。
彼らは皆、毎日の過酷な漁と外房の荒波によって
極限までいじめ抜かれ、鋼のように盛り上がった
見事な上半身を堂々と剥き出しにしていた。
はだけた浅黒い胸元からは、
朝日に照らされた汗がキラキラと
大粒の真珠のように妖しくきらめいている。
その手には、畑仕事の鍬や、
鯨をも突き殺す漁用の頑丈な櫂、
さらには船を繋ぎ止めるための重い鉄鎖が、
じゃらじゃらと冷酷な金属音を立ててきつく握り締められていた。
「なんだべ、その小奇麗な格合は。
お前ら異人の野郎ども、ここから先が誰の縄張りか、
ちっとも分かっちゃいねえようだな」
「そうだべ!
そこから先は俺たちの若者宿の掟がすべてだ!
お前たちの自慢の鉄砲ごと、
まとめて冷てえ海底へ叩き落としてやらあ!」
太助が手にした分厚い櫂を、
砂の混じった土埃へとズドンと凄まじい音を立てて叩きつけ、
異国の兵士たちを真っ向から睨みつける。
その眼眸には、お堅い大人たちが抱くような恐怖など微塵もなく、
ただ大切な家族を守り抜くという剥き出しの
生命力の炎が欄々と燃え盛っていた。
「お, おい、太助! 次郎!
お前たち、名主の前で何をトチ狂った真似をしておるか!
お上への明白な反逆とみなされれば、
俺たちだけでなく村ごと全員が磔獄門だべ!」
「うるせえや、名主のジジイ!
磔獄門が何だべ!
お咲のネエちゃんを引き渡して見殺しにするくらいなら、
俺たちは全員で一揆でも何でも起こしてやるわ!」
「そうだべ!
お咲のネエちゃんは俺たちの命の恩人であり、かけがえのない家族だべ!
どこのどいつが相手だろうが、指一本触れさせねえべ!」
次郎も重い鉄鎖を頭上で大きく振り回し、
兵士たちの眼の前で凄まじい風切り音を響かせる。
身分制度や、お上の恐ろしい法罰の影に縛られ、
顔を真っ青にしてガタガタと震えている老人たちを尻目に、
失うものの何一つない若者組の圧倒的な突撃精神は、
武装した異国の軍隊すらも一歩、
また一歩と後退させるほどの凄まじい熱気を放っていた。
長屋の木戸から、あばら家の隙間から、
続々と這い出てきて肉体の壁となった男たちは、
路地を完全に封鎖し、強固な人間の砦となって立ちはだかった。
「(みんな……。タスケ……ジロー……。若者頭も……)」
あばら家の、古びた木枠の窓の隙間。
藍染めのほっかむりを細く白い指先できゅっと握り締めたまま、
外の騒がしい様子を暗闇の中から固唾を呑んで
見つめていたお咲の胸の奥底に、
言葉にできないほど熱く激しい何かが、
一気に溢れ出すようにして込み上げてきた。
美しい青い瞳からは、止めどなく大粒の涙が、
雪のような白肌を伝って一筋、また一筋とこぼれ落ちていく。
かつて生まれ育った西欧の故郷では、
教会や絶対的な権力者が「あの女は悪魔に魂を売った魔女だ」と
一度でも残酷に宣告すれば、昨日まで笑顔で接していた周囲の人間は
誰もが手のひらを返し、冷酷に石を投げつけ、
誰一人として助けてはくれなかった。
孤独と絶望の中で冷たい追放船へと押し込められたのが、
お咲の過去のすべてだったのだ。
しかし、このうら寂しい日ノ本の漁村はどうだろう。
言葉すら完全には通じない異国の娘一人のために、
村の未来を担う年若い男たち、あるいは海女連合の衆が、
自らの命を懸けて、大砲を持った大軍を相手に
一歩も引客ずに戦ってくれている。
「(私は……もう、床下の芋つぼに一人隠れて、
冷や汗を流して震えているだけの、弱い魔女じゃないわ。
私には、こんなに温かくて強い、無敵の家族がいるのよ……!)」
お咲の豊かな胸元が、激しい感動と、
過去のトラウマを完全に打ち砕くほどの強い決意で激しく上下する。
彼女の心の中から、不気味な黒船への恐怖は完全に消え去り、
村の仲間たちと共に、自らの優れた和漢洋の知恵を尽くして
闘い抜く覚悟が、今まさに鋼のように固く定まった。
「庄屋も名主も退きおれ!
この日ノ本の頑迷なる土民どもが退かぬと言うのなら、
我が主の命に従い、
力ずくで踏み込んで全員を血の海に沈めるまでじゃ!」
「やってみろべ、異人の野郎!
外房の海の男の意地と剥き出しの生命力を、
その身体にたっぷりと叩き込んでやらあ!」
激しい怒号と漁具の金属音が、朝靄の白闇の中で激しく激突する。
お咲を囲む若者たちの熱き情熱と、覚醒した異国の女神の美しき闘志は、
この隠れ里の絆をさらに深く、誰にも引き裂けない偉大な神話へと、
さらに色鮮やかに色づかせていくのだった。
若者組の筋肉の壁、めちゃくちゃ格好いいですね!
異国の最新兵器に対しても、お江戸の若者の熱気は負けていません。
次回、さらに強力な「白い壁」が兵士たちの前に立ちはだかります!




