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外房漂着ブロンドちゃん 〜床下の菩薩、若者組と海女(アマ)になる〜  作者: 塩塚 蘭仮名


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【第32話:傲慢な使者と、磔獄門の恐怖】

お読みいただき感謝です!

ついに異国の使者たちが外房の浜へと上陸。

高圧的な態度で「お咲を引き渡せ」と迫る彼らに、

村の最高権力者である庄屋さまは再び大パニックに陥ります!

「おい、名主! 

庄屋! 早く出てこんかい! 

異国の大人が、お前たちに重大な御用があると

おっしゃっておるんだべ!」


「な、何事じゃ……。ひえっ!? 

なんだべ、あの物々しい鉄の筒を持った異人の群れは……!」


「おい、鉄砲の銃口がこっちを向いてるべ! 

うっかり動いたら蜂の巣にされちまう!」


 翌朝、外房の白い砂浜には、朝靄を切り裂くようにして、

大砲や火縄銃で厳重に武装した異国の兵士たちが

ずらりと列をなしていた。


その中心に立つ、きらびやかな異国の軍服に身を包んだ傲慢な使者は、

通訳を介して、呼び出された村の名主や庄屋の目の前に、

有無を言わせぬ高圧的な態度でゲルマンの言葉を突きつけた。


「我が使節が語るを、しかと聞け。

我が故郷の領邦にて、原因不明の恐ろしい流行病が発生した。

かつてその地を騒がせた魔女として追放した金髪のおなごがおるはずじゃ。


その女が持つ、和漢洋の優れた草根の知識が今すぐ必要になった。

大人しく引き渡せ」


「え……ええっ!? 

魔女……異国のおなご、ですか!?」


「白々しい嘘は通用せぬぞ。

もしも引き渡しを拒むか、匿うような真似をしてみせろ。


沖の黒船に並ぶ大筒(おおづつ)を一斉に放ち、

この村を跡形もなく焼き払うと、我が主(あるじ)がおっしゃっておる!」


 通訳の慇懃無礼な江戸口調が響き渡った瞬間、

お堅い庄屋は顔面を真っ青に硬直させ、

まるで冬の池に落ちた犬のようにガタガタと激しく震え出した。


「つ、つ、ついに……ついに異人のおなごを匿っていたことが、

海の向こうの親玉にまでバレちまったべぇえ!!」


「庄屋さま、声を控えくだされ! 

使者に聞こえますべ!」


「控えていられるか! 

こんなことが長崎奉行や、お上の耳に少しでも知れてみろ! 


国禁を犯したとして、俺たちだけでなく、

村ごと全員が磔獄門(はりつけごくもん)じゃーー!! 

おしまいじゃ、この世の終わりじゃあ!!」


「ひぇぇ、磔獄門だけは勘弁してけろ! 

ワシは何も知らねえべ!」


 かつてお咲が漂着したあの嵐の夜の恐怖が、

十倍もの武力の脅威となって長屋の老人たちに再燃していた。


傲慢な使者たちは、腰を抜かした庄屋を鼻で笑うと、

重い革靴の音をザッザッと砂浜に響かせながら、

村の中へとズカズカと踏み込み、お咲の捜索を始めようと歩を進めてきた。


「(……なんて、なんて身勝手で、恐ろしい人たちなの……)」


 太助たちのあばら家の、薄暗い部屋の隅。

お咲はいつもの藍染めのほっかむりを両手できつく握り締め、

悔しさと恐怖のあまり、

ふっくらとした紅い唇を血がにじむほど強く噛み締めていた。


外から聞こえてくる通訳の声を、

彼女はその卓越した知性で完全に理解していた。


かつて自分を魔女と罵り、

冷酷に追放船へと追いやった故郷の権力者たちが、

今度は自分たちの都合で病が出たからと、

再び私を道具のように縛り上げにやってきたのだ。


「(私のせいで……よね婆も、タスケも、ジローも、

大好きな海女のお姉さんたちも、みんな巻き添えになって、

お上の磔獄門にかけられてしまうわ……。

そんなの、絶対に耐えられない……!)」


 お咲の豊かな胸元が、激しい怒りと、

大切な人々を失うことへの絶望で激しく上下する。


せっかく手に入れた、誰も自分を抑圧しない世界で一番最高の、

愛おしい安楽土。

それが、過去の黒い因習によって今まさに壊されようとしていた。


「やっぱり……

私が、私が大人しく表に出て、あの人たちに捕まるしか、

村を救う方法は無いのよ……!」


「待てべ、ネエちゃん! どこへ行く気だ!」


「離して、タスケ! 

私がここにいたら、みんなが死んでしまうわ!」


 お咲が涙を流しながら部屋を飛び出そうとした、その刹那だった。

彼女のふくよかで白い腕を、左右から、あるいは正面から、

ガシッと力強い肉体が強固に掴み取った。


太助と次郎、あるいは異国船の襲来を聞きつけて

長屋の裏手から一息に駆けつけてきた、

若者組のリーダーであるあの逞しい若者頭だった。


「離さないべ、ネエちゃん。

どこへも行かせやしねえよ」


「そうだべ! お咲のネエちゃんが何をしたっていうんだ! 

あの使者の糞野郎ども、

大砲をチラつかせりゃあ、俺たちが怯むと思ってやがる!」


「頭の言う通りだべ! 

ここでネエちゃんを引き渡したら、男の手がすたるべ!」


 男たちの眼眸には、外で腰を抜かして泣き叫んでいる庄屋とは違い、

死をも恐れぬ剥き出しの敵意と、

圧倒的な生命力の炎がらんらんと燃え盛っていた。


特に、お咲の南蛮茶で恋煩いの気鬱から完全復活を遂げた若者頭は、

浅黒い見事な胸元を叩きながら、お咲の青い瞳を真っ直ぐに見つめた。


「寝言言ってんじゃねえよ、ネエちゃん。

お前はあの嵐の夜、海が俺たちの村にくれた、かけがえのない家族だべ。

異国の生臭い命令なんか、どこのどいつが聞くかってんだ!」


「頭(かしら)……! 

でも、あの人たちは大砲を持って……」


「大砲が何だべ! 

こちとら外房の荒波を毎日相手にしてるんだ、

異人の鉄砲玉くらい、地引き網で跳ね返してやるわ! 


お前は黙って、俺たちの後ろの、

一番安全な床下の芋つぼに隠れてりゃいいんだよ!」


「タスケ……ジロー……頭……!」


 お咲の青い瞳から、

大粒の涙が雪のような白肌を伝ってとめどなく溢れ落ちる。


磔獄門という日ノ本の恐ろしい法罰の恐怖を誰よりも

理解していながらも、目の前の若者たちは、自らの命を賭して、

異国の女神を守る盾になると誓ってくれているのだ。


お咲の過去を血眼で追ってきた傲慢な使者たちと、

それを迎え撃つ村の若き生命力。


この小さな安楽土を舞台にした、

絶対に負けられない命懸けの知恵比べの火蓋が、

今まさに静かに切って落とされようとしていた。

庄屋さまの大パニックをよそに、若者たちの目は死んでいません!

お咲ちゃんを守るため、お江戸の男たちがついに牙を剥きます。

次回、若者組による怒りのプロテストが炸裂!

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