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外房漂着ブロンドちゃん 〜床下の菩薩、若者組と海女(アマ)になる〜  作者: 塩塚 蘭仮名


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【第29話:海女たちの長屋トークと、ガールズ・カルチャー】

いつも応援ありがとうございます!

見事な海女デビューを果たしたお咲ちゃん。

今回は濡れた白い磯着のまま、

海女たちの憩いの場(磯小屋)での強烈なぶっちゃけ女子トークに参戦します!

「いやさ、

うちの亭主ときたらさぁ、昼間は舟の上で大口叩いてるくせに、

夜の方はさっぱりでいけないよ!」


「ガハハ! 

なんだいお大、またお前のところの宿六は

途中でへばっちまったのかい!」


「笑い事じゃないよ! 

若者組のあの男だって、体ばかり岩みたく立派だけどさ、中身はほんの子供だべ。

ちょっとおなごに凄まれただけで、おめおめと逃げ出しちまうんだから!」


「全くだ! 

男の意気地なんてなぁ、沖の荒波を前にした時だけしか持ちこたえねえんだから、情けねえべ!」


 ザパーンと外房の荒波が遠くで鳴り響く、

磯小屋の大きな炉裏の周り。


 無事に潜り終えた海女たちは、

火の粉を散らす赤々と燃える薪を囲み、

濡れた白い磯着を火照った白肌にぴたりと張り付かせながら、

大人の色香を惜しげもなく放って温まっていた。


そこには、よね婆が淹れてくれた熱い和漢の

「ポカポカ茶」を小さな木碗で大切そうにすすりながら、

すっかり彼女たちの仲間として

温かく迎え入れられているお咲の姿もあった。


「お咲ちゃん、お前さんもしっかり飲みな。

お腹を冷やしちゃおなごは仕舞いだからね」


「はい、ありがとう……。

とても温かくて、気持ちが良いわ」


 言葉は完全には通じない。

しかし、男たちがいない囲炉裏端で、

女たちだけが集まれば始まるのは、


いつの時代も、世界のど公の国でも共通の

「あけすけな男への愚痴と、恥ずかしげもない睦み話(つやばなし)」だった。


「(な、なにかしら……。

みなさん、何をそんなに大きな声で、

身振り手振りで笑い合っているのかしら……?)」


 お咲は最初は、ふんわりとした笑顔で

彼女たちの賑やかな様子を眺めていた。


しかし、海女たちが腰をくねらせたり、

男の身体のあちこちを真似してみせる

露骨な仕草の意味を理解した瞬間、


お咲の美しい青い瞳はみるみるうちに丸くなり、

その雪のような白肌が、

まるで熟した林檎のように真っ赤に染め上がっていった。


「ひゃっ……!? 

ま、まあ……っ!」


 お咲はたまらず

両手で顔を覆い隠してしまった。


しかし、どうしても好奇心を抑えきれず、

細く白い指の隙間から、

こっそりと彼女たちの豪快な様子を覗き込んでしまう。


海女たちの話す内容は、

お江戸の言葉で言うところの、

あまりにも露骨であけすけな閨(ねや)の

艶話(つやばなし)だった。


だが、それを卑屈に隠すどころか、

大笑いしながら太陽のような生命力で

笑い飛ばす彼女たちの姿は、

お咲にとって驚天動地の衝撃だった。


「ほら見なよ、お咲ちゃんが指の隙間からこっちを覗いてるべ! 

可愛いねぇ!」


「ガハハ! 

お前さんの国にゃあ、こんなあけすけな話をするおなごはいないのかい?」


 お咲が生まれ育った、

厳格なキリスト教の戒律に縛られた西欧の故郷では、


男女の交わりや肉体の話は

すべて「罪深きもの」として忌み嫌われ、

女はただ恥じらい、

教会の冷たい視線に怯えて

貞操を守ることだけを強要されていた。


女性がこれほど堂々と、

かつ夜の主導権を完全に握って男を品定めし、

男女関係を楽しそうに語り合う姿など、

お咲のこれまでの人生には爪の先ほども存在しなかったのだ。


「いいえ、その、違います……! 

私の国では、女性がそんなお話を、

男の人の悪口を大きな声で言ったら……

教会や親に、とても厳しく怒られるわ。

お部屋に閉じ込められてしまうの」


 お咲は拙い日本語に大きな身振り手振りを交え、

故郷の抑圧されたおなごのあり方を一生懸命に伝えた。


言葉の端々は通じずとも、お咲の寂しげな瞳と、

胸を押さえる仕草から、

海女の頭領である肝っ玉母ちゃんはすべてを察した。


頭領はガハハと地鳴りのような笑い声を響かせると、

お咲のふくよかで白い背中を、

パチンと大きな手のひらで豪快に叩き据えた。


「バカ言っちゃいけないよ! 

お咲ちゃん! 

女が元気じゃなきゃ、村の夜も昼も回らないんだから!」


「え……? 

おなごが、元気じゃなきゃ……?」


「そうさ! 

男なんてなぁ、海の上じゃ強がってても、

家に戻りゃあおなごの温けえ胸に飛び込んでくるだけの、

弱くて可愛い赤ん坊みたいなもんだべ! 


だからこそ、俺たちおなごが自分の身体を誇って、

大声で笑って、

しっかり手綱を握ってやらなきゃ, 日ノ本の家も村も、

ちっとも前に進みゃあしねえんだよ!」


「そうだべ、そうだべ! 

恥ずかしがることなんて、何一つねえや!」


 頭領のその大らかで力強い言葉を聞いた瞬間、

お咲の胸の奥につかえていた、故郷の冷たい教会の影や、

床下の芋つぼで感じていた言葉にできない閉塞感が、

一瞬にしてスーッと嘘のように消え去っていくのを感じた。


抑圧されることなく、神から授かった自分の性と

豊かな肉体を心から誇り、

女同士で手を取り合って笑い合える、

日ノ本の女性たちの圧倒的な強さと大らかさ。


「(ああ、なんて素晴らしい文化なのかかしら……。

日ノ本の女子(おなご)の生命力、

なんと力強く心地よいのでしょう!)」


 お咲は心からこの優しく力強い女子(おなご)らの

睦まじき営みの虜になり、

両手を顔から離すと、

弾けるような満面の笑顔を咲かせた。


「ふふふ、そうね! 

男の人は、みんな少し、子供ね! 


タスケもジローも、いつも私を見て赤くなって、

とても可愛らしいわ!」


「ガハハハ! 

言ったねぇお咲ちゃん! 


あの悪童兄弟、お前さんのその見事な胸に

毎日生殺しにされてるってわけかい!」


「今度、あいつらの夜の役立たずっぷりも、

お咲ちゃんがしっかりお底から試してやりなよ!」


「まあ! 

それは……それはまだ、早いわ!」


 磯小屋の中は、先ほどの凍えるような北風の冷たさが嘘のように、

お咲と海女たちの艶やかで豪快な笑い声で満ち満ちていた。


床下の安住の地を超え、

海の女神たちと固い女の絆を結んだ異国の女神は、


日ノ本の女たちが持つ剥き出しの生命力と

大らかな優しさをその身いっぱいに吸い込み、


この国で生きていくための無敵の盾と、

まばゆいばかりの笑顔を、

さらに深く、色鮮やかに色づかせていくのだった。

海女さんたちのガールズトークに赤面しつつも、最後は完全に馴染んだお咲ちゃん。

日本の女性の強さに救われましたね。

次回、お咲ちゃんを囲む「若者組」と「海女」による最強の鉄壁ガードが始まります!

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