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外房漂着ブロンドちゃん 〜床下の菩薩、若者組と海女(アマ)になる〜  作者: 塩塚 蘭仮名


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【第26話:海女さんたちの『フェボアテン!』な冷え対策】

お読みいただき感謝です!

海から上がって寒さに震える海女さんたち。

ただ火に当たるだけの不効率な防寒法を見たお咲ちゃんが、自慢の薬草ロジックを武器に、頼れるお姉さんとして動き出します!

「ひ、冷えるべ、冷えるべ……。

お日様は出てるってのに、外房の風は骨まで凍りつきそうだ……」


「薪を、もっと薪をくべなさいよ! 

背中をいくら火に炙っても、お腹の底の氷がちっとも融けやしねえんだ!」


「あいたたた……。

手の甲も足の指も、あかぎれが裂けて潮水が染みやがる。

ガハハ、これじゃあ明日のアワビ漁は、

お上の年貢の分を稼ぐだけで精一杯だべ……」


 流木が赤々と爆ぜる海女たちの磯小屋の中。


 先ほどまで太陽のように豪快に笑っていた海の女神たちは、

海から上がって冷たい潮風に吹かれた瞬間から、

まるで魂を抜かれたようにガタガタと身体を激しく震わせていた。


 彼女たちは古い因習の通り、ただ赤々と燃え盛る火の前に剥き出しの肌を晒し、

外側から身体を温めることしか知らなかったのだ。


そのため、表皮は火の粉で火照っていても、

多くの海女が深刻な「芯の冷え」に冒され、ひび割れた肌の痛みに顔を歪めていた。


 その様子を、長屋の隅に腰掛けてじっくりと観察していたお咲の、

それまで大らかに和んでいた青い瞳の輝きが、突如として鋭く据わった。


 確かな医術の条理を持つ本物の薬師(くすし)として、

この非科学的な温め方は到底見過ごせるものではなかった。


「(ダメよ、信じられないわ……! 

火の外側だけをいくら温めても、

内臓が冷え切ったままじゃ何の意味もないじゃない! 

こんな恐ろしい生活の因習、

私の故郷なら完全に『フェボアテン(禁止)』よ!)」


 お咲は怒りにも似た情熱を胸に宿すと、

海女の頭(かしら)が止める間もなく、磯小屋から外へと飛び出した。

 大きな藍染めの手ぬぐいを頭に巻き直した彼女は、

浜辺の砂を蹴り上げ、太助たちのあばら家へと韋駄天のごとく駆け戻っていった。


「ネエちゃん、一体どうしたんだべ!? 

そんなに血相を変えて!」


「タスケ、ジロー、邪魔をしないで! 

裏の薬草園の生姜と、よね婆から教えてもらった冬葵(トウキ)の葉を全部出しなさい! 

大急ぎよ!」


「へ、へぇっ……! 

よく分かんねえけど、物置の奥の葛籠(つづら)だべ!」


 兄弟が目を白黒させている間に、お咲はよね婆と一緒に手塩にかけて育てていた、

血行を劇的に促す日ノ本古来の野草や生姜を大ぶりの鍋に放り込み、

手際よく薪を燃やして和漢の調合を開始した。


 お咲の正確な医療知識によって煮出された特製の薬草茶、

通称「ポカポカ茶」が、またたく間に大釜いっぱいに仕上がっていく。


彼女はその熱い大釜を頑丈な天秤棒で担ぎ上げると、

再び息を切らせて海女たちの待つ磯小屋へと戻ってきた。


「おいおい、お咲ちゃん、

そんな大きな釜を担いで一体全体どうしたんだい?」


「頭、みんな、これを飲みなさい! 

身体の中の悪い寒気を、根こそぎ追い出してくれる特製のお薬よ!」


 言葉は完全に通じずとも、お咲の毅然とした態度と、

豊かな胸元を包む着物の袖を豪快にまくり上げた白い二の腕の瑞々しさに、

海女たちは圧倒された。


 お咲は、湯気と共に広がる独特の芳烈でピリリとした和漢の香りに

首を傾げる海女たち一人一人に、熱いお茶を器用に木碗に注いでは手渡していった。


「なんだい、この匂いは……。

お寺の線香とも違うし、

お江戸の高級な縮砂(しゅくしゃ)のようでもあるねぇ」


「まぁ、騙されたと思って一口飲んでみなって。

お咲ちゃんがわざわざ走って作ってくれたんだからさ」


「……う、うわっ!? 

なんだべこれ……! 

ゴクリと飲み込んだ瞬間に、

お腹の底で火薬が爆ぜたみたいだべ!」


 一口含んだ最年長海女の目が、驚きで真ん丸にひっくり返った。

 それにつられるように、若手も頭も次々とお茶を口に運ぶと、

磯小屋の中の空気が一瞬で一変した。


「うおおお! 

喉から胃袋、それから手の先足の先まで、

血がドクドクと熱くなって流れていくのが分かるぞ!」


「本当だわ! 

あれほどじんじんと痛んでいた手のあかぎれが、

身体が内側から潤って、嘘みたいに痛みが引いていきやがる!」


「ありがてえ、ありがてえ……! 

お腹の底の氷が、見る見るうちに温けえ湯に変わっていくようだ。

なんだか、嬉しくて涙が出てきちゃうよぉ!」


 お咲は、大きな釜の湯気でじっとりと汗ばんだ美しい顔を白く細い手で拭い、

はだけかけた着物の襟元から覗く豊満な肢体を少し誇らしげにくねらせながら、

海女たちに艶やかに目配せしてみせた。


 お茶の効果はまさに絶大だった。


海女たちの浅黒く引き締まった顔には、瞬く間に薔薇のような健康的な赤みが差し、

冷えによる強張りが綺麗さっぱり消え去っていったのだ。


「ガハハハ! 

お咲ちゃん、あんたただの大人しくて綺麗な異国の娘じゃねえね! 

この海の女神たちを、その妙ちくりんな煎じ薬一つで完全に手懐けちまうなんてさ!」


「頭、私はただ、薬師として当然の仕組みを……」


「いいや、言葉は分からねえが、

あんたのその真っ直ぐな心根と確かな腕前、

この海女の頭領である俺が本気で気に入ったよ! 

これからこの村で、あんたに不埒な真似をする男がいたら、

若者組より先に、

俺たち海女の衆が全員でアワビのヘラ持って叩き出してやるからな!」


「そうだべ、そうだべ! 

お咲ちゃんは俺たちの命の恩人だべ!」


 磯小屋の中は、先ほどの凍えるような静寂が嘘のように、

お咲を囲んだ女たちの熱い歓声と笑顔で満ち満ちていた。


 お咲の確かな薬師としての条理と、溢れんばかりの慈愛のロジックが、

荒ぶる外房の海で生きる海の女神たちの心を、根底から完全に射止めた瞬間だった。


 床下の芋つぼから飛び出した異国の女神による夜昼問わぬ救済劇は、

太助たちの冷や汗をたっぷりと吸い込みながらも、


この村の女たちの強固な連帯という無敵の盾を手に入れ、

誰にも引き裂けない偉大な神話へと、さらに深く、艶やかに色づき始めていくのだった。

ポカポカ茶で海女さんたちのハートをガッチリ掴んだお咲ちゃん!

湯気で汗ばむお咲ちゃんのしぐさも色っぽい回でした。

次回、頭領からまさかの提案が飛び出し、お咲ちゃんが潜ることになります!

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