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外房漂着ブロンドちゃん 〜床下の菩薩、若者組と海女(アマ)になる〜  作者: 塩塚 蘭仮名


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【第25話:お咲、海の女神『海女(あま)』を知る】

いつも応援ありがとうございます!

今回はお咲ちゃんが、外房の海で最もたくましく、そして最もセクシーな女性たち「海女」の存在を知る、物語の大きな転換点となる一話です!

「ほらよ! 

今切り取ってきたばかりの、極上の大アワビだべ! 

お江戸の高級料亭に持っていきゃあ、一財産になるぞ!」


「ガハハ! 

おめえの網、サザエばっかりで砂利袋みたいじゃねえか! 

しっかり腰を落として潜らねえから、波に流されちまうんだべ!」


「うるせえや! 

今夜の晩飯はサザエの壺焼きで山盛りだ、文句あんのかい!」


 ザブーン、と激しく荒れ狂う外房の白波が、

赤茶けた岩肌を白く噛む昼下がりの浜辺。


 大きな藍染めの手ぬぐいを頭に深く巻き、村人たちの詮索の目を欺くため、

いつもの「ほっかむり従姉妹」に変装して

波打ち際をのんびりと歩いていたお咲は、

目の前の岩陰から突如として湧き起こった女たちの野太い歓声に、

思わずその場に足を止めた。


「(な、なにかしら……。漁師の男の人たちではないわ。

あの人たちは……みんな、女の人!?)」


 お咲の涼やかな青い瞳が、驚きと興奮で爛々と輝き出す。

 荒波を真っ二つに割って、冷たい海原から次々と笑顔で上がってきたのは、

白い磯着――薄手の布地一枚を身体にきつく巻き付けただけの、

地元の「海女(あま)」たちだった。


 十数人の女たちは、男顔負けのたくましさで大きな網を肩に担ぎ、

冷たい海水に濡れた白い布地を、健康的で小麦色に引き締まった見事な太ももや、

豊かな胸の輪郭にぴたりと張り付かせていた。


歩くたびに剥き出しの肉体が波打ち、その健康的な美しさは、

隠そうともしない堂々たる風格を放っている。


「なんて強くて、なんて蠱惑的(こわくてき)で、

生気に満ちたおなごたちなの……!」


 窓の隙間から覗いた若者宿の男たちとは、またまったく違う、

圧倒的な生命の輝きがお咲の胸を激しく打ち据えた。


 お咲が生まれ育った、厳格なキリスト教の戒律と厚い身分制度に縛られた

故郷のゲルマンの地では、女は常に男の陰に隠れ、

教会の冷たい視線を恐れて身体を覆い隠し、

ただ従順に傅(かしず)くことだけを強いられていた。


女性が自分の肉体一つで自然の猛威と渡り合い、

これほど大声を上げて自らの力で金を稼ぎ、太陽のように豪快に笑う姿など、

お咲の世界には存在しなかったのだ。


「おい、そこのほっかむり娘! 

何をボサッと突っ立って見てるんだい!」


「ひゃっ……!? 

私、ですか……?」


 海女たちの中心で、ひときわ大きな網を抱えていた肝っ玉母ちゃんのような

雰囲気のリーダーが、遠くの岩陰から熱心に自分たちを凝視しているお咲に気づき、

ニカッと真っ白な歯を見せて豪快に手を振った。


「そうだよ、お前さんだよ! 

よく見りゃあ、太助のあばら家に転がり込んでるっていう、

例の大人しい従姉妹じゃねえか! 

そんな潮風の冷てえところに突っ立ってたら、お腹を壊しちまうべ! 

こっち来て火に当たりな!」


「あ、あの、でも、お邪魔では……」


「何言ってんだい! 

女同士、遠慮なんていらねえよ! 

ほら、新入り、その子に席を空けてやりな!」


 海女たちの長屋の前では、

大きな流木や薪が赤々と燃え盛り、

もくもくと温かな白い煙を冬の空へと立ち上らせていた。


 お咲は引き寄せられるように、

磯の強い香りと火の粉が舞う彼女たちの輪の中へと、

ゆっくりと歩みを進めていった。


「ほら、お前さん、寒かったべ。

この焼き立てのサザエ、熱いうちに身をほじくって食いな!」


「あ、ありがとう……ございます。

とても、良い匂いね」


「ガハハ! 

美味そうだろ! 

お前、お咲って言ったかい? 

太助の野郎、こんな綺麗な従姉妹を隠してたなんて、

相変わらず隅に置けねえなぁ!」


「違うわ、

タスケはただ、私を……その、

親切にしてくれているだけで……」


 お咲が不慣れな日本語で一生懸命に弁明すると、

周りを取り囲む海女たちは「可愛いねぇ」と一斉に顔を見合わせ、

さらに大きな笑い声を響かせた。


 目の前で、はだけた磯着の隙間から湯気を立てながら、

アワビの肝を豪快に酒で流し込み、


男たちの悪口や今日の稼ぎの自慢話を明け透けに語り合う日本の女たち。

そこには、抑圧の影など微塵もなかった。


「(ああ……ここにも、私の知らなかった、

本当の日本の姿があるわ。

男の人たちに負けないくらい、女の人たちも、

こんなに自由に、自分の足で立って生きているのね……)」


 お咲の胸の奥で、言い知れぬ憧れと、

熱い感動がふつふつと湧き上がってくる。


 暗い床下の芋つぼに隠され、磔獄門の恐怖に怯えるだけの日々は、

この太陽のような女たちの光に照らされ、一瞬で融けていくようだった。


 海女の頭はお咲の手ぬぐいから覗く、

わずかな黄金の髪の毛先を優しく撫でながら、

母親のような温かい目で見つめた。


「お前さん、何か事情があるんだろうけどさ。

この外房の海はね、どんな奴でも受け入れてくれるんだべ。

しっかり飯を食って、大きな声で笑ってりゃあ、悪い神様も逃げていくさ!」


「……はい! 

私、この村が、ここのおなごたちが、大好きになりました!」


 お咲は両手で熱いサザエの殻を握り締め、

心の底から満面の笑みを浮かべた。


 それは、床下に隠されていた異国の少女が、

日本の「大人の女性たちの力強い営み」へと確実につなぎ止められ、

新たな一歩を踏み出した、運命の瞬間だった。


 薪の煙がパチパチと爆ぜる磯端で、

異国の女神は、この国の女たちが持つ剥き出しの生命力と大らかな優しさを

その身いっぱいに吸い込み、床下の安住の地を超えて、


この日ノ本の民を救う薬師としての自覚を、

さらに深く、艶やかに色づかせていくのだった。

海女さんたちの健康的でセクシーな姿、うら寂しい漁村の熱気あるカラーにぴったりですね!

お咲ちゃんも彼女たちの自由さに一目惚れです。

次回、海女たちの古い防寒法にお咲ちゃんが物申します!

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