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外房漂着ブロンドちゃん 〜床下の菩薩、若者組と海女(アマ)になる〜  作者: 塩塚 蘭仮名


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【第24話:若者組の恋患いと秘密の夜(よ)】

お読みいただき感謝です!

自由で大らかな村の若者組。

しかし、その大らかさゆえに、あまりに純情すぎる大失恋と謎の体調不良(恋煩い)が巻き起こります。

お咲ちゃんはどう動く!?

「おい次郎! 

もっと強くお札(ふだ)を額に貼り付けろ! 

頭(かしら)の身体が、まるでお釜の湯みたいに熱くなってやがるべ!」


「やってるよ兄ちゃん! 

だけど名主様から借りてきたこのお札、ちっとも効かねえぞ! 

やっぱり隣村のへび婆の生霊に、魂をごっそり吸い取られちまったんじゃねえか!?」


「馬鹿野郎、生霊なもんか! 

これは絶対に、お山に住む古狐が頭の男っぷりに惚れて取り憑いたんだべ! 

おい、誰か早く祈祷師の先生を呼んでくれ!」


 夜の帳がすっかり下りた、外房の漁村のはずれ。

 普段は血気盛んな男たちが集まって怪気炎を上げている若者宿の古民家は、

今夜ばかりは地獄の底のようなおどろおどろしい大騒ぎに包まれていた。


 若者組の絶対的なリーダーであり、沖の荒波を素手で引き裂くようなたくましさを誇る若者頭が、

あろうことか隣村の網元の娘に激しい失恋をし、そのあまりの衝撃と心労から、

深刻な「恋煩い」の気鬱に陥って昏睡してしまったのだ。


 囲炉裏の傍らに寝かされた頭は、浅黒い見事な胸元を激しく上下させ、

苦しげに冷や汗をだくだくと流している。


太助と次郎をはじめとする若者たちは、日本の古い迷信に縛られ、

狐憑きだの呪いだのと的外れな大騒ぎを繰り返すばかりで、

冷たい水を打つことすら思いつかない有様だった。


「(かわいそうに……。あんなに昼間は元気だった男の子が、

すっかり干からびた魚のようになっているわね……)」


 鬱蒼とした草むらの物陰から、

板壁の隙間を通じてそのドタバタ劇をじっと見つめていたお咲は、

愛用のすり鉢を胸に抱いたまま、そっとため息を漏らした。


 前夜の寄合を盗み聞きし、彼らが村の明日を背負って

命がけで生きる「地の塩」のような温かい若者たちであることを知っていたお咲にとって、

無力に苦しむ彼を放っておくことなど、薬師の矜持が絶対に許さなかった。


「タスケもジローも、あんなに大騒ぎして拝む暇があるなら、お水を飲ませてあげればいいのに。

本当に日本の人は大袈裟で、困ったお馬鹿さんたちね」


 お咲は若者たちが祈祷師を呼びに一斉に外へ飛び出していった隙を突いて、

夜陰に乗じて音もなく若者宿の畳の間へと忍び込んだ。


 篝火(かがりび)が赤黒く妖しく揺らめく室内は、

昼間の漁で染み付いた潮の香りと、若い男たちの剥き出しの汗の匂いが混ざり合い、

どこか淫靡で生々しい熱気に満ちていた。


お咲は着物の裾を静かに捌きながら、息を荒くして寝返りを打つ頭の枕元へと、

音もなくしなやかに屈み込んだ。


「はぁ……はぁ……ハナちゃん……

どうして俺じゃ駄目なんだべ……。

俺は、お前のためなら沖のクジラだって突いてみせるのに……」


「静かにしなさい、かわいそうな男の子。

日本の色恋は、あなたには少し刺激が強すぎたのね」


 お咲はふっくらとした紅い唇から、言葉の通じぬ彼に向けて、

極上の慈愛に満ちた優しい言葉を囁きかけた。


 屈み込んだ拍子に、深夜の隠密行動のために少しはだけさせていた着物の襟元から、

雪のように真っ白な豊満な胸の谷間が、

頭の熱い顔のすぐ目の前で大きく、そして妖艶に波打った。


彼女が動くたびに、家の裏手の秘密の薬草園で調合してきた、

心布(しんぷ)を落ち着かせる南蛮の草根の香りと、

お咲自身の肉体が放つ異国の甘い香気が、

囲炉裏の煙をかき消すようにふわりと室内に広がっていく。


「……う、うう……? 

なんだべ、この良い匂いは……。

俺はもう、極楽の蓮の池に落っこちまったのか……?」


「ほら、お喋りは終わりよ。

これをゆっくり飲みなさい。

心の曇りを綺麗に祓ってくれる、私の故郷の特別なお薬よ」


 お咲は美しい黄金の髪をさらりと揺らし、持参した竹筒から、

精神を穏やかに静める和漢洋折衷の煎じ薬を小さな木匙ですくい上げた。


 そして、彼の乾いた唇へと、まるでお母さんが幼子に乳を与えるかのような、

圧倒的な母性を湛えた手つきで丁寧に、一滴も零さぬよう流し込んでいった。


言葉は通じずとも、夢うつつの中で頭の網膜に焼き付いたのは、

月光と篝火に照らされて神々しく輝く、この世のものとは思えぬ美貌の女神の姿だった。


彼の心臓は、気鬱の病とはまったく別の意味で、

ドクンドクンと激しく、狂ったような動悸を打ち始める。


「ふふふ、もう大丈夫よ。

明日の朝には、また元気に脪(ろ)を漕げるわ」


 薬を全て飲ませ終えると、お咲は小悪魔的にクスッと妖しく微笑み、

彼の額に優しく触れていた白く細い指先を離した。


 遠くから太助たちが祈祷師を連れて戻ってくる騒がしい足音が聞こえてくる。


お咲は藍染めの手ぬぐいきゅっと口元に当て直すと、

夜明けの一番光が東の空に薄く差し込む前に、開いた窓枠へと片足をかけ、

韋駄天のごときしなやかな跳躍で夜の闇へとダッシュして去っていった。


「おい、先生! 

こっちだべ! 

頭がもう息を引き取りそうなんだ!」


「な、何をお騒ぎになっておるか……む? 

これは、なんという芳しい香りじゃ……。

狐の匂いではおらんぞ?」


「……う、うおおおおお!」


 太助たちが息を切らせて部屋に飛び込んできた瞬間、

それまで死に体だった頭が、布団を跳ね除けて大爆発を起こしたかのように、

いきなりすっくと立ち上がったのだ。


 その顔は赤黒く上気し、目はらんらんと肉食獣のように輝いている。


「か、頭!? 

生き返ったべ! 

お札が今頃になって効いてきたのか!?」


「違う! 

お札なんかじゃねえ! 

今、ここに黄金の髪を持ったあの菩薩様が、天から舞い降りてきてくださったんだべ! 

俺をこの逞しい腕で極上の抱擁で包み込み、その真っ白くて大きな胸に俺の顔をうずめて、

天上の甘いお蜜を口に注いでくれたんだぁあ!」


「はぁあ!? 

頭、やっぱり狐に化かされて頭がおかしくなっちまったんじゃねえか!?」


「うるせえ! 

俺の胸のモヤモヤは綺麗さっぱり消え去ったぞ! 

ハナちゃんのことなんかどうでもよくなるくらい、

俺はあの菩薩様に魂を捧げちまったんだ! 

おいお前ら、今日から地引き網の合間は全員で井戸にお供え物を運ぶべ! 

菩薩様を命がけでお守りするんだ!」


「「「おう!!」」」


 翌朝、漁村の広場は、別の意味で大興奮した男たちの熱い怒号で

ひっくり返るような騒ぎとなった。


 事情を察し、お咲の圧倒的な破壊力と大胆すぎる夜の救済劇に、

太助と次郎の兄弟だけが顔を真っ白にして「またお上の目が光っちまうべ……」と

冷や汗を滝のように流すのだった。


床下の芋つぼに隠された異国の女神の、無防備で容赦のない夜の冒険は、

純朴な漁師たちの恋心に特大の火薬を投げ込みながら、

さらに激しく、そして誰にも止められない神話へとエスカレートしていくのだった。

恋煩いもハーブとお咲ちゃんの天然フェロモンで一発解決です!

若者組のリーダー、夢の中でかなり良い思いをしましたね(笑)。

次回、お咲ちゃんが浜辺で最強の海の女神たちと遭遇します!

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