【第21話:お咲、深夜の「若者組」に遭遇】
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第3章【中盤の展開】へ突入。
夜の徘徊を続けるお咲ちゃん、深夜の集会所で村の「若者組」の秘密の集まりを目撃し、お江戸の若者たちの凄まじい熱気に触れます!
「いいかお前ら!
明日の引き潮の刻限、沖の根回りは波が荒くなるべ!
艪を握る腕に少しでも迷いがありゃあ、板子一枚下は地獄、
一瞬で藻屑になっちまうんだ!」
「おう! しかと肝に銘じます、頭!」
「声が小さぇんだよ、新入り!
海を相手に色気吐いてんじゃねえぞ!
死にたくなければ、先輩たちの手の動きを片時も目を離さずに盗みやがれ!」
お江戸の強欲なかわら版屋・宗助を、不気味な怨霊のハリボテと
植物の燐光を用いた悪戯で見事に追い払い、すっかり夜の徘徊が癖になっていたお咲は、
村のはずれにある鬱蒼とした木々の影に身を潜めていた。
深夜の引き潮が運ぶ冷たい磯の香りに混じって、どこからか男たちの野太い怒号と、
むせ返るような熱気が夜風に乗って漂ってきたのだ。
不審に思ったお咲が足音を殺して、濡れた草を踏みしめながら這うようにして近づいたのは、
村の境界近くにどっしりと佇む、茅葺き屋根の大きな古民家だった。
「(なにかしら……。
タスケやジローのあの狭いあばら家とは、
まるでお部屋の広さが違うわね。
こんな夜更けに、大勢の若い男の人が集まっているわ……)」
お咲は頭に藍染めの手ぬぐいをきゅっときつく巻き直すと、
長年の雨風で古びた板壁の、ほんの僅かに開いた窓の隙間から
そっと中を覗き込んだ。
その瞬間、彼女の涼やかな青い瞳は、
室内のあまりの熱量と異様な光景に、驚きで大きく見開かれた。
そこは、村の血気盛んな若者たちが一堂に会する
「若者宿」であり、伝統的な「若者組」の
熱い集会所だったのだ。
「次は村の掟の話だべ。
庄屋の旦那の前で、百姓がこれ見よがしに贅沢な着物を着たり、
五人組の掟を破って勝手に他所の村と売り買いをしてみろ。
お上にお縄にされる前に、この若者組の手で村払いにして、
海に叩き落としてやるからな!」
「へ、へぇっ……!
滅相もねえ、組の定めは絶対に守りますだ!」
「それからだ。
お前らも今年で前髪を落として一人前の男になるんだ。
大人の男の嗜みってやつを、良いことも悪いことも、
この俺が残さず骨の髄まで叩き込んでやるべ。
長屋の女の扱い方から、お江戸の吉原の噂話、博打の引き際までなぁ!」
「う、うおお!
頭、そいつは早く教えてくだせえ!
俺、夜這いの作法が知りたくてたまらねえんだ!」
室内の中央、赤々と燃え盛る囲炉裏の火に照らされた若者たちは、
深夜の熱気で誰もがはだけた胸元から、
浅黒く引き締まった見事な筋肉を躍動させていた。
荒々しい地引き網の労働や命がけの沖漁で
鍛え上げられた男たちの身体からは、大粒の汗が吹き出し、
火の粉を浴びてキラキラと妖しく輝いている。
年長の若者が後輩を厳しく怒鳴り散らし、
時には豪快に酒を煽りながら笑い、
村の自治と生命の仕組みを教え込む光景は、
剥き出しの生命力そのものだった。
「(なんてこと……!
これが、日ノ本の若い人たちの集まりなのね……。
信じられないわ……)」
窓辺に身を潜めたお咲は、知らず知らずのうちに着物の胸元を
白く細い手で押さえ、ドキドキと早鐘を打つ心臓の鼓動を感じていた。
彼女が生まれ育った故郷のゲルマンの地では、厳格な身分制度と、
教会の冷たい戒律がすべてを支配していた。
若い男女が夜中に集まることなどそれだけで大罪であり、常に領主や司祭の
抑圧された重苦しい空気の中で、息を潜めて生きるのが当たり前だったのだ。
しかし、この薄汚れた日ノ本の漁村ではどうだろう。
若者たちが自分たちの力だけで寄合を営み、
お上の指図も受けずに、凄まじいエネルギーを爆発させて夜の決まりを定めている。
お咲にとって、それは言葉にできぬほどの強烈な衝撃であり、魂が震えるほどの発見であった。
「おい、新入り!
お前、お咲とかいう『金髪の菩薩様』の噂を聞いて、
夜中に下らねえ色気を出して裏路地をうろついてんじゃねえだろうな!」
「ひ、ひぇっ!?
な、何でそれを……!
おいら、ちょっと髪の毛だけでも拝めねえかと思って……」
「ばーか、お前のキツネみたいな目は、女のことを考えてる時が
一番わかりやすいんだよ!
いいか、あの菩薩様はな、
俺たちの村をお救いくださった神聖な神仏だべ!
もし不埒な真似をして拝み倒そうなんて
不届き者がいたら、
お上の役人に突き出す前に、
この若者組の連中全員で袋叩きにして、
海の底の魚の餌にしてやるからな!」
「そうだべ、そうだべ!
菩薩様を汚す奴は、この組が
絶対に生かしちゃおかねえぞ!」
窓の外でお咲は思わず「ぷっ」と白い指を唇に当てて、
吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
部屋の奥で、はだけた胸を張って自分たちの「守り神」について
熱弁を振るう若者たちの姿が、あまりにも純朴で、臨場感に溢れ、
そしてどこか愛おしかったからだ。
彼らは磔獄門を恐れて床下で震える太助たちとは違い、
本気で村の明日を守るために「菩薩」を掲げて息巻いているのだ。
「(ふふふ……本当に面白い人たち。
神様なんかじゃない、ただの薬師の私を、
そんな風に本気で守ろうとしてくれるなんて。
でも、なんだか……とても温かいわね)」
お咲の美しい青い瞳は、未知の文化への好奇心と、
彼らが放つどこか色気のある荒々しい男らしさに魅了され、
爛々と妖しく輝いていた。
うら寂しい、昼間は魚の油にまみれて黙々と働く漁村の夜の底に、
これほどまでに熱く、濃密な若者たちの世界が存在していたのだ。
囲炉裏の火が爆ぜるたび、はだけた白肌を冷たい夜風に揺らしながら、
お咲はさらに深く窓辺に身を乗り出し、男たちの剥き出しの講義の内容に、
じっと息を詰めて耳を傾け続けるのだった。
床下の芋つぼから飛び出した女神の夜の知的好奇心は、
この村の熱い生命力を貪るように、さらに深く、勢いを増していくのだった。
若者組の熱気に目を奪われるお咲ちゃん、胸の高鳴りが止まりませんね。
しかし次回、その講義の内容が「大人の性教育や恋愛事情」に及び、純潔なお咲ちゃんは人生最大のパニックに陥ります(笑)。




