【第18話:不衛生(アンハイジニック)への夜の怒り】
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夜間徘徊を続けるお咲ちゃん、今度は村の子供たちが次々とお腹を壊している原因が、共同井戸の周りの『不衛生』にあることを見抜き、怒りの腕まくりを始めます!
「ううっ、お腹が痛いよぉ……おっかあ、お腹が、痛いよぉ……たすけてけろ……」
「しっかりおし、新太!
これっぽっちのぬるい白湯しかなくてごめんよ……
ああ、神様仏様、一体どうしちまったんだい!
夕べからお隣の三吉も、その向こうのハナちゃんも、村の小さな子供たちがみんな同じように激しいお腹の痛みに襲われて寝込んじまって……!
誰か助けておくれ!」
月明かりが冷たく注ぐ深夜の外房の漁村。
太助と次郎のあばら家の床下に隠された芋つぼの中で、お咲の耳には、ここ数日急激に増え始めた子供たちの苦しげな泣き声と、なす術もない母親たちの焦燥しきった悲痛な悲鳴が夜風に乗って絶えず届いていた。
昼間の若者たちの厳しい夜回りや詮索の目を器用にかいくぐりながら、お咲は夜陰に乗じて床下から這い出ては村の入念な観察を続けていた。
しかし、抵抗力のない小さな子供たちが次々と激しい腹痛と下痢を起こして苦しそうに寝込んでいる異常事態に、彼女はただならぬ危機感を抱いていた。
「ただの冷え込みによる風邪や、食べ合わせの悪さなんかじゃないわ。
これほど一時に、狭い長屋の大勢の子供たちだけが揃って罹るなんて、原因は一つしか考えられない」
お咲は頭に藍染めの手ぬぐいをきゅっときつく巻き直すと、太助と次郎の地響きのような大鼾を合図に、音もなく障子窓から夜の闇へと滑り出た。
彼女が真っ先に向かったのは、村の誰もが毎日必ず口にする生活の絶対的な生命線――中央広場にある共同井戸だった。
「やっぱり……!
なんてことなの……信じられないわ、こんなのあんまりよ……!」
月光の下、誰もいない不気味な井戸の周りを注意深く調査したお咲は、そのあまりの惨状に、息をのむほど美しい美貌を激しく歪めた。
そこは、目を覆いたくなるほどの不浄の塊だった。
井戸のすぐ傍らの石畳には、昼間に漁師たちが捌いた生魚の腐った内臓や生ゴミ、赤土のドロドロとした泥がそのまま放置され、鼻を突く強烈な異臭を放っている。
おまけに、雨水に溶けたその汚れた水が石畳の、長年の雨風で傷んだ隙間から、地中の井戸水へとそのまま混入しているのは明白だった。
これを煮沸もせずに毎日飲めば、小さな子供たちの腹が壊れるのは当然の帰結であった。
「子供たちが病気になる原因はこれよ!
こんな恐ろしい不衛生、私の故郷なら完全に『フェボアテン(禁止)』だわ!」
お咲は怒りのあまり、はだけかけた着物の豊かな胸元を激しく上下させた。
確かな医療の条理を持つ本物の薬師として、精度高く命と向き合う者として、精度高く命と向き合う者として、そして何より、無力に苦しむ子供たちの命を預かる身として、この目の前にある汚濁は到底許せるものではなかった。
お咲はすり鉢を傍らの乾いた地面に置くと、毅然とした表情で腕をまくり上げた。
「誰もやらないなら、私がやるわ。
この地の神仏よ、少し夜中にお騒がせするわよ」
お咲は着物の裾を惜しげもなく高くまくり上げ、紐で腰元へときつく縛り付けた。
冷たい月光のなかに、引き締まった白い二の腕と、眩いばかりの肉感的な太ももが大胆に露わになる。
うら寂しい広場の中心で、彼女は深夜の一人石畳の大掃除を開始した。
「タスケたちの裏庭にある薪の灰と、浜の清潔な砂が役に立つわね。
汚れを根こそぎ落としてみせるわ。覚悟しなさいよ」
お咲は近くの浜から両手いっぱいに運んできた真っ白な砂と、木を燃やして作った大量の灰を井戸の周囲の石畳に豪快に撒いた。
そして、木製の手桶で井戸から冷たい水を何度も何度も汲み上げると、石畳にバシャリ、バシャリと力強く叩きつけた。激しい水しぶきがお咲の美しい顔や胸元を濡らす。
「さあ、消え失せなさい、子供たちを苦しめる悪い虫ども!」
お咲は頑丈な藁束を両手に持ち、泥と魚の脂がこびりついた石の節々を、渾身の力を込めてゴシゴシと磨き上げていく。
激しい労働の熱によって、彼女の額や白い首筋からは大粒之汗が吹き出し、濡れた黄金の髪が雪のような白肌にぴたりと張り付いた。
薄暗い闇の中で、その肉感的な肢体がしなやかに躍動する姿は、まるで夜の闇に舞い降りて穢れを祓う豊穣の天女のように息をのむほど美しかった。
「はぁ、はぁ……
まだまだ、これくらいじゃ足りないわ。
もっと綺麗に、奥の奥まで清めないと」
お咲は、強い灰汁の力を持ち、穢れを払う効果のある灰を、井戸の周囲の隙間という隙間に徹底的に、白い指先を使って敷き詰めていった。
汚水が流れ込む隙間を完全に遮断し、井戸の水を根底から清浄化していくその手際は、まるで熟練の職人のようでもあった。
誰も見ていない夜の闇の中、お咲の薬師としての矜持と溢れんばかりの優しい慈愛が、村を脅かす最大の危機を静かに、けれど確実に救おうとしていた。
「よし、これで完璧よ。
明日からは、綺麗で安全なお水がたっぷり飲めるわ。
もうお腹は痛くならないわよ」
夜明け前の冷たい風がお咲の汗ばんだ濡れた身体を優しく撫でる。
お咲はまくり上げていた裾をサラリと下ろし、愛用のすり鉢を再びしっかりと腕に抱え直すと、夜風のなかに甘い芳草の香りを一筋残して、あばら家の床下へと鮮やかに駆け去っていった。
翌朝、お日様が昇ってすぐに井戸に水を汲みに来た村の女たちは、広場の中心で呆然と立ち尽くすこととなる。
「おい、ちょっとお前さん、見ておくれよ!
井戸の周りが、まるでお奉行所の白洲みたいに真っ白でピカピカに磨かれてるべ!」
「本当だわ!
魚の内臓もゴミひとつ落ちてねえ!
これはきっと、夕べのうちに黄金の菩薩様が村の病を哀れんで、自ら清めてくださったんだわ!
ほら、この神聖な白い砂と灰、御力の名残に違いないわ!」
「ありがたや、ありがたや……
菩薩様が俺たち見捨てずにお救いくださったんだ!
ありがたいべ!」
女たちや集まってきた漁師たちは一斉に井戸に向かって手を合わせ、涙を流して地面に額を擦り付けて拝み始めた。
そして不思議なことに、その日から村の子供たちの激しい腹痛は嘘のようにぴたりと治まり、漁村には再び平穏な笑顔が戻ったのである。
床下の女神がもたらした夜の怒りと慈愛の奇跡は、事情を知って冷や汗を流す太助と次郎をよそに、村の「金髪の菩薩伝説」をさらに揺るぎない、偉大な神話へと押し上げていくのだった。
深夜に汗だくで井戸を掃除するお咲ちゃん、セクシーで格好良すぎますね。
不衛生漢への怒りの鉄槌です。
次回、翌朝に井戸を訪れた村人たちが、信じられない『奇跡』を目撃してまたまた大騒ぎに!




