【第17話:捕獲大作戦を回避せよ!】
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噂が広まりすぎた結果、村の血気盛んな若者たちが「菩薩様をこの手で捕まえてお祭りするぞ!」と夜回りを大強化。
お咲ちゃん、最大のピンチを迎えます!
「おい、松明の火を絶やすんじゃねえぞ! 今夜こそ、夜な夜な現れる金髪の菩薩様をこの手で絶対に生け捕りにするんだ!」
「おうよ!
これだけ大勢で網を張れば逃げられっこねえ!
村の守り神として新しいお社にお祭りすりゃ、我が村は未来永劫、大漁間違いなしだべ!
お上の役人に渡す前に、俺たちの神様にするんだ!」
「おう、隣の村の連中がしゃしゃり出てくる前に、俺たちで囲い込んじまうんだべ!
松明をもっと高く掲げろ!」
月明かりがうっすらと照らす外房の漁村は、不気味なほどの熱気に包まれていた。
興奮で目を血走らせた村の血気盛んな若者たちが、手にした松明の赤黒い炎を夜風に激しく揺らしながら、路地という路地を我が物顔で練り歩いている。
夜間の警戒に駆り出された夜回りの人数は、昼間の地引き網の総出を遥かに超えるほどに膨れ上がっており、村のあらゆる要所や逃げ道には、頑丈で大きな漁網が幾重にも張り巡らされていた。
村中を巻き込んだ本気の菩薩捕獲の罠が、ついに始まってしまったのだ。
そんな恐ろしい厳戒態勢が敷かれているとは露知らず、お咲は今夜も太助たちの床下の芋つぼから音もなく抜け出し、気ままな夜の徘徊を楽しんでいた。
潮の香りを孕んだ冷たい夜風に、美しい黄金の髪をさらさらとなびかせ、長屋の狭い裏路地を軽やかな足取りで曲がった、まさにその時だった。
「待て!
あっちの角の暗がりに今、何か白い影が動かなかったか!?」
「間違いない、菩薩様だ!
囲め!
一歩も通すな!
網を大きく広げて路地を完全に塞ぐんだ!
逃がすんじゃねえぞ!」
突如として、男たちの地を修羅のごとく走るような怒号と、無数の草鞋が地面を蹴る凄まじい足音が暗闇を引き裂いた。
お咲の涼やかな青い瞳が、予期せぬ事態に驚きで大きく見開かれる。
前方の細い路地からは、赤々と燃え盛る松明の強烈な光が、津波のように容赦なく押し寄せてきた。
慌てて振り返れば、背後の退路にもすでに巨大な漁網を構えた若者たちがじわじわと迫っている。
それはネズミ一匹通さない、完璧な生け捕りの網であった。
(……しまっ、たわ! 完全に挟まれた……これじゃどこにも逃げ道がない……!)
若者たちが掲げる松明の強烈な光と熱が、すぐ近くの古い板壁をなめるようにして徐々に照らし出していく。
あと一歩でも光がこちらに伸びれば、お咲の美しい黄金の髪も、はだけかけた粗末な着物の白肌も、すべてが白日の下に晒されてしまう。
お上の耳に届いた瞬間に、匿った兄弟ともども磔獄門の刑に処されるという冷たい刃が、彼女の首筋にピタリと突きつけられたかのような凄まじい恐怖を覚えた。
お咲が息を詰めて壁に背を張り付けた、その絶体絶命の刹那、彼女のすぐ脇にある干し網の濃厚な影から、二つの黒い影が猛然と飛び出してきた。太助と次郎の兄弟だった。
「うおおお!
おいお前ら、大変だ!
菩薩様なら今、あっちの裏山の崖の方へ、もの凄い速さで夜空を飛んでいかれたぞ!」
「そうだべ!
俺たちの目の前をな、間違いない、着物の胸元をこう、眩しくパァッと後光みたいに光らせながら、夜空を駆けていかれたんだ!
ここにはもういねえぞ!
早く追わねえと見失うべ!」
暗闇を震わせるほどの大声を張り上げて、出まかせの嘘の目撃情報を叫んだのは、弟の次郎だった。
すかさず兄の太助も、興奮する若者たちの前に立ちはだかるようにして両腕を広げ、わざとらしく夜山の険しい斜面の闇を指差した。
「おう、次郎の言う通りだ!
早く追わないと、そのままお月様に帰っちまうぞ!
お社にお祭りして村の大漁を願うんだろ、ぐずぐずしないで急げっ!」
「何だって!?
裏山の崖だと!?
お月様に帰っちまうって本当か、太助!」
「おう、本当だとも!
俺たち嘘なんか吐かねえよ!
ほら、あっちの草むらがまだ揺れてるべ!」
「うおお!
菩薩様を絶対に逃すな!
置いていかれるな、お月様に帰される前に、東の崖へ走れぇ!」
単純で純朴な村の若者たちは、悪童兄弟の気迫に満ちた迫真の演技に完全に騙された。
手にした松明の炎を激しく揺らしながら、ドタバタと地響きを立てて、全員が逆方向の険しい山道へと一斉に雪崩を打って走っていく。
赤黒い炎の群れが遠ざかり、闇に包まれた裏路地には、再び静まり返った夜の静寂が戻った。
「ふぅ……ひぇぇ、本気で死ぬかと思ったぜ……
心臓が口から飛び出るかと……」
「ネエちゃん、もう大丈夫だ。
誰もいねえ。
こっちの影へ、早く隠れるんだ!」
太助が手ぬぐいで額から滝のように流れる冷や汗を拭いながら、消え入るような声で呼びかけると、暗闇の奥から、静かに息を弾ませたお咲が姿を現した。
九死に一生を得た彼女は、心の底から安堵したように、必死に変装を庇って自分を救ってくれた兄弟の腕に向かって、ギュッと力任せにしがみついた。
「キャッ……!?」
「うわ, わわっ! ネ、ネエちゃん!?」
逃走の勢いと激しい動きのせいで、お咲の着物の合わせが大きくはだけており、彼女の柔らかく、驚くほど肉感的な身体が、太助と次郎の細い腕の中にぴったりと密着した。
夜露に濡れた彼女の雪のような白肌の吸い付くような温もりと、豊かな胸の圧倒的な弾力が、兄弟の腕を通じて直に、その胸のぬくもりが強烈に伝わってくる。
さらには、彼女の揺れる黄金の髪から、潮の香りを一瞬でかき消すような、甘く妖艶な芳草の香りがふわりと二人の鼻腔をくすぐった。
あまりの濃厚な色香の密着に、兄弟は完全に言葉を失った。
「ね、ネエちゃん……
これ、ちょっと、いくらなんでも近すぎねえか……?
胸が当たってるべ」
「あ、あの、磔獄門の恐怖も怖かったけど、俺、別の意味で心臓が破裂しそうだべ……
頭が真っ白になって、何も考えられねえ……」
兄弟は耳まで真っ赤に染め上げ、完全に直立不動のまま、ガタガタと震え始めた。お上の詮索や村人の網を間一髪で潜り抜けた安堵感など、お咲の目の前にある圧倒的な色香の前には、一瞬で木端微塵に吹き飛んでしまったのだ。
お咲は二人のそんな純朴で可笑しな様子をじっと見つめ、青い瞳の奥に悪戯っぽい妖しい光を浮かべると、二人の耳元へと交互に顔を近づけ、吐息が触れるほどの距離で優しく囁いた。
「ふふ、タスケ、ジロー。
あなたたちは本当に、最高の番人ね」
お咲は美しい唇をクスッと歪めて艶やかに笑うと、小脇に抱えた愛用のすり鉢を大切そうに抱え直し、呆然と魂を抜かれたように立ち尽くす兄弟を路地に残したまま、まるでおのずと夜の闇に溶け込むかのように、するりと姿を消していった。
遠くの裏山からは、未だに「菩薩様はどこだぁ!」「お月様に帰るな!」と叫ぶ男たちの虚しい声が、夜空にこだましている。
隠された異国の美貌と、その一挙手一投足に激しく翻弄される純朴な男たち。薄氷を踏むような危うさと、予期せぬ至福の熱を帯びたまま、外房の漁村の夜は、どこまでも深く、妖しく更けていくのだった。
兄弟の必死の嘘ナビゲートで、何とか包囲網を突破しました!
お咲ちゃんの密着ハグに兄弟は悶絶寸前(笑)。
次回、お咲ちゃんが村の共同井戸の『不衛生』に激怒し、深夜の大掃除を始めます!




