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外房漂着ブロンドちゃん 〜床下の菩薩、若者組と海女(アマ)になる〜  作者: 塩塚 蘭仮名


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【第13話:深夜の大騒ぎ、菩薩の爆笑ダッシュ】

お読みいただき感謝です!

前夜のハーブ治療のおかげで、村中に「金髪の菩薩様が現れた」という噂が爆発。

お咲ちゃんを捕まえようと夜回りを強化する村人たちと、お咲ちゃんの爆笑ダッシュが始まります。

「おいおい、聞いたかよ! 夕べ、長屋に菩薩様が現れたんだってよ!」

「ああ、聞いたぜ。黄金の御後光を背負って、着物の合わせから豊かな胸元を覗かせた、目も眩むほど美しいお姿だったらしいじゃねえか!」


 カラリと晴れ渡った翌朝の外房の漁村は、ひっくり返るほどの大騒ぎに包まれていた。

 あちこちの路地や砂浜で、男たちが網の手入れをする手さえ止めて、顔を紅潮させながら熱弁を振るっている。

庄屋の立ち合いによるイワシの物々交換で山の農村と和解し、村中に活気が戻った矢先の出来事であった。


「夕方から急に熱が上がった赤ん坊のひどい病をな、その菩薩様が不思議な香りのする霊水で、一瞬にして治しちまったんだと!」

「夜回りの作蔵の野郎も、そのお姿を確かに見たってよ。風のように格子の窓から去っていったって……くそっ、俺も一目拝みたかったぜ!」


 そんな男たちの狂騒を遠目に、太助と次郎の悪童兄弟は、顔を真っ白にして冷や汗を流していた。

 まさか夕べ、自分たちが泥のように爆睡している隙に、あのお騒がせ異国娘が夜のそぞろ歩きへと這い出していたとは思いもしなかったのだ。

二人は大急ぎであばら家へ引き返すと、居間の畳を勢いよくひっぺがし、床下の薄暗い芋つぼに向かって声を潜めながらも怒鳴り声を上げた。


「おい、ネエちゃん! 夕べ、外に出ただろ!」

「作蔵や長屋の連中が大騒ぎしてんだよ! 黄金の菩薩が出たってなぁ!」


 芋つぼの奥から、よね婆から譲り受けた古い薬草をすり鉢でゴリゴリと引いていたお咲が、ひょっこりと顔を出した。

 昼間の「ほっかむり」を外し、まばゆい黄金の髪をさらさらと肩に散らした彼女は、太助たちのただならぬ剣幕にきょとんと首を傾げた。


「え? 私がボサツ? ……ふふっ、『ウンメーリヒ(あり得ない)!』」


 お咲はパチパチと青い瞳を瞬かせると、日本の男たちの勘違いがあまりに滑稽だったらしく、芋つぼのむしろの上に敷いた襤褸布団の上をごろごろと転がりながら大爆笑した。


「ハハハ! ボサツって、あの頭がピカピカした仏様でしょう? 私がそんな風に見えるなんて、この村の男たちの目はどうかしているわ!」

「笑い事じゃねえってんだよ、ネエちゃん! 一番見られちゃいけねえ黄金の髪を拝まれちまったんだぞ!」

「あいつら、ネエちゃんの髪を本物の御後光だと思い込んでやがんだ! これ以上噂が広がって、お上の耳に届いたら村ごと磔獄門、一族郎党根絶やしだぞ!」


 太助が頭を抱えて怒鳴るが、お咲は「でも、赤ん坊の痛い虫は治ったわ。良いことじゃない」と悪びれもせずに微笑むだけだった。


 しかし、事態は兄弟の最悪の予想を超える速度で悪化していった。

 お咲が淹れたカモミール系の黄金ハーブによる劇的な効能と、月光に照らされた彼女の圧倒的な美しさに魂を抜かれた村の男たちが、本気で「もう一度菩薩様に会いたい、拝みたい」と言い出したのだ。

 その結果、次の夜から、漁村のしっとりとした夜道は異様な熱気に包まれることとなった。


「おい、今夜こそ菩薩様は現れるかね」

「長屋のあたりに網を張って待とうじゃねえか。一目拝めば大漁間違いなしだ」


 漁師の男たちは昼間のきつい仕事を終えたというのに、夜な夜な村の細い路地の物陰や板壁の陰に隠れ、目を血走らせて待ち伏せを始めたのである。

 そんな村の不穏な様子を一切知らないお咲は、次の夜も「床下は退屈だから」と、兄弟が再び爆睡したのを見計らって、窓の障子からするりと気ままな夜歩きに出かけてしまった。


 引き潮の香りが鼻腔をくすぐる中、お咲が軽やかな足取りで月明かりの路地を歩いていると――。


「――出た! 出たぞ! 菩薩様だ!」

「うおおお! 本当に黄金の髪が光ってるべ! ありがたや、ありがたや!」


 突如、あちこちの家陰や干し網の裏から、漁師の男たちが一斉に大声を上げて飛び出してきた。


「『ウンメーリヒ!!!』」


 お咲は思わずゲルマンの悲鳴を上げ、色っぽい吐息を漏らした。

 正面から迫る、むさ苦しく目をぎらつかせた男たちの群れ。

お咲は瞬時に身を翻すと、着物の裾をきゅっと掴み、豊満な胸を大きく揺らしながら、韋駄天のごとき神速の足取りで夜の闇を駆け抜けていった。


「待ってくだせえ、菩薩様ぁ!」

「俺たちの網にもその御利益を分けてくだせえぇ!」

「来るな! このスケベ男ども!」


 夜の漁村を、黄金の残像が風のように駆け抜ける。

お咲の御利益にあやかろうと追いかける男たちの執念は凄まじかったが、お咲の俊足はそれ以上だった。

男たちが必死に足を動かしても、彼女が残した甘いハーブの香りを追いかけるのが精一杯で、その背中には全く追いつけない。


「はぁ、はぁ……何あいつら! 日本の男、本当にクレイジーよ!」


 お咲が路地の角を鮮やかに曲がり、息を切らせて疾走する。

 一方で、村中を巻き込むこの大騒ぎに飛び起きた太助と次郎は、もはや生きた心地がしていなかった。


「やべえ! ネエちゃんが捕まって正体がバレたら、異人隠匿で俺たち全員磔獄門だ!」

「おい次郎、あいつらをあさっての方向に誘導するぞ!」


 悪童兄弟は、お咲の正体が露見して磔獄門になるのを防ぐため、必死の形相で男たちの群れの中へと割り込んでいった。


「おいお前ら! 菩薩様はそっちじゃねえ! あっちの崖の方に向かいました!」

「本当か、太助!」

「ああ! 今、黄金の光が東の崖を上っていくのをこの目で見たんだ! 急がねえとそのまま天に帰っちまうぞ!」

「うおおお、東の崖へ走れぇ! 菩薩様を拝むんだぁ!」


 次郎がもっともらしく夜空の向こうを指差すと、単純な漁師どもは「ありがてえ!」と一斉に方向転換し、怒涛の勢いで崖に向かって走っていった。


「ふぅ……マジで死ぬかと思ったぜ……」

「兄ちゃん、あっちの物陰にネエちゃんが隠れてる! 男たちが戻ってくる前に回収だ!」


 兄弟は物陰で息を弾ませているお咲の細い腕を掴むと、大急ぎであばら家の芋つぼへと連れ戻した。

 怪しくも美しい外房の夜は、お咲の異国的な魅力に狂わされた男たちと、冷や汗を流しながら嘘を並べ立てる兄弟の、抱腹絶倒の喜劇の舞台と化していくのだった。

菩薩様を拝もうと全力で追いかける男たちとお咲ちゃんのチェイス、爆笑でしたね!

兄弟の必死のナビゲートもお見事。

次回、お咲ちゃんが夜の徘徊を利用して、村の裏に『秘密の園』を作り始めます。

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