二回目の初デート
「ベアトリーチェ嬢は、王都にはよく来られますか?」
「そうですね、侯爵領からも近いので……それにお父様は私に甘いので、すぐにアクセサリーやらドレスやらを私に買い与えようとするのですよ」
「はは、なんだか想像つくなぁ」
婚約から、一ヶ月経った頃。私達は今、二人で王都に遊びにきている。所謂、デートというやつだ。
初めてのお茶会の後、シルヴァン様は約束通りアイレス侯爵家に正式な書状を送ってくれた。
それを見たお母様は「あらあら、よかったわねぇ」と言っていたけれど、経緯が経緯なだけに私は曖昧に笑うことしかできなかった。
お父様は公爵家との繋がりができて、喜んでいたけれど。
公爵家の嫡子というのはそれは忙しいらしく、しかもお互い来年の春……約半年後には王立魔法学園への入学を控えているものだから、中々都合が合わなくて。
ようやく会えたのが、あれから一ヶ月経った今日というわけだ。
「……それにしても、いきなりこんな風にお出かけだなんて、本当によろしかったのですか?」
「座ってお茶を飲んでいるだけじゃ、わからないこともあるかと思って。俺はもっと、あなたのことが知りたいんです。……ベアトリーチェ嬢は嫌でしたか?」
「嫌だなんて、とんでもないです。シルヴァン様とこうして一緒に出掛けられるなんて……まるで夢のようですわ。国中の令嬢達に嫉妬されてしまいます」
そうやって、軽口を叩き合う。少しだけ、シルヴァンと想いを通わせていたあの頃に戻ったような気分になった。
「どこか行きたい場所は?」
「そうですね……新しくできたケーキ屋さんがあるのです。そのお店のチョコレートケーキがすごく美味しくて……」
「いいですね、そこにいきましょう」
シルヴァンは微笑みながら、馬車の外を眺めている。まつ毛がキラキラ光って、シャンデリアみたい。そんなことを思った。
「あの、シルヴァン様」
「ん?」
「敬語、使わなくて良いですよ」
「……それは、俺が次期公爵だから?」
「いえ、単に……あまりお好きではないのだろうなと思いまして」
私がそう言うと、シルヴァンはパチクリと目を瞬かせてから、ははっと吹き出した。
「そんなこと、初めて言われたよ。……うん、本当は敬語とか、畏まった喋り方とか、偉そうな話し方とか……すっごい苦手なんだ。次期公爵なのに、とは思ってるんだけど」
「ふふ、時々お顔が引き攣ってましたもの」
「え、本当? 気をつけてたつもりなんだけどなぁ……あ、ベアトリーチェ嬢も敬語使わなくていいよ」
「……いえ、私は……畏れ多いです」
「…………そっか」
あ、失敗した。
シルヴァンの、困ったような笑い方を見て、そう思った。
けれど私は、これ以上シルヴァンに踏み込むのが怖いのだ。
生きていると知って、再び会えただけで十分だと思っていたのに。一目見れば満足すると、そう思っていたのに。結局縋ってシルヴァンの婚約者の席に座ってしまった。
どうしても、私以外の女の子に飴玉みたいな瞳で見つめるシルヴァンを認められなかった。
なのに私は、私のことを好きじゃないシルヴァンと向き合うのが怖い。
矛盾していることくらいわかっている。でも、私はそのくらいシルヴァンのことが大好きで、シルヴァンも私のことを好きだった。
可愛らしい装飾が施された店の前で、馬車が止まる。
一周目の人生で、何度も二人で来たケーキ屋。シルヴァンは甘いものにあまり興味がないのに、私が甘党だからといつも着いてきてくれたっけ。
「俺はコーヒーだけでいいかな。ベアトリーチェ嬢は?」
「チョコレートケーキにします」
「はは、さっきも言ってたもんな。この店、よく来るの?」
「……そうですね、私の思い出のお店なので」
「新しくできたばっかりの店なのに、もう思い出があるんだ?」
「はい。でも、シルヴァン様と今日一緒にここに来ることができたから……また一つ、思い出が増えました」
胸に手を当てながら、そっと微笑む。シルヴァン様はそんな私を見て、「じゃあ、俺にとっても今日からここは思い出の店だな」と優しい瞳で告げたのだった。
その言葉にチクリと胸が痛んだのは、どうしてなのだろうか。




