親不孝者
私の言葉に、両親が顔を見合わせる。私がこの二人にこんなに畏まってお願いをすることなど、一周目の人生ですらなかった。
お父様がゆっくりと口を開く。
「驚いた……。私のベアトリーチェは、もっとお転婆だった気がしていたのだが、いつの間にかこんなに成長していたとは。それにしても、いつ彼と知り合いになったんだ?」
「……知り合いではありません」
「ほう? ではなぜ彼のことを」
「……夢で、見たのです。長い、長い夢を」
苦し紛れの言い訳。それでもお父様は少し不思議そうな顔をするだけだった。
「はは、相変わらずベアトリーチェは面白いことを言うなぁ。実は、そろそろベアトリーチェの婚約者を決めなければと思っていたのだが……レグナール公爵家のご子息の婚約者候補に、ベアトリーチェも入っているそうなんだ。ベアトリーチェがその気なら、私からも連絡をしておく」
「ほ、本当ですか!」
「私は嘘などつかんよ。レグナール公爵と話はつけておくから、ゆっくり話をしておいで。それから、ベアトリーチェが見たと言う夢の話でもしてあげなさい」
「ありがとう……! お父様、大好きよ……」
「私もだよ、ベアトリーチェ。私も母さんもな、ベアトリーチェが生きて笑ってくれていれば、それだけで幸せなんだ」
お父様が優しく笑う。私はその時、ようやく気付いたことがあった。
一周目の人生の私は、シルヴァンのために命を投げ出そうとした。けれど、もし私がそのまま死んでいたら……この人達は、どんな気持ちになったんだろう。
きっと、シルヴァンに置いていかれた私のように、深く絶望したに違いなかった。
「ごめんなさい……」
「はは、なぜ謝るんだい? ……ベアトリーチェ、泣いているのか?」
「あら、あなたのせいよ。あなたが私のセリフを奪ってしまうからだわ。私も可愛い娘のことを愛しているのに」
「そ、それが原因ではないだろう! そうだよな、ベアトリーチェ!」
慌てるお父様、揶揄うお母様、そして泣いてばかりの私。
私、本当に生きていてよかった。この二人を絶望させるようなことにならなくて、本当によかった。
私って、親不孝者だなぁ。




