望むものはただ一つ
チュンチュン、という小鳥の軽やかな鳴き声で目を覚ました。いつもと同じ、穏やかな朝。
「昨日の夜は、夢だったのかしら……?」
掠れた声でそうポツリと呟いて、私は身体を起こした。
丁度その瞬間、コンコンとノックの音が響いて、アネットが「お嬢様、朝のお支度をしに参りました」と話しかけてくる。
「……入っていいわ」
「失礼いたします。そしてお嬢様、お誕生日おめでとうございます」
「誕生日……? 卒業おめでとう、ではなくて?」
「何を仰っているのです? 今日はお嬢様の十五歳のお誕生日でしょう」
私は目を見開く。それから、鏡の前まで勢いよく移動した。
そこに写っていたのは、十八歳の私より微かに若い、少女の頃の私だった。
「嘘……」
「嘘ではございませんよ。ほら、パーティーの準備はもうできています。お嬢様のご希望で、侯爵邸内だけでお祝いをすることになったのですから……せめて、存分に着飾らせてくださいませ」
アネットはもどかしそうにそう話していたが、私には半分も内容が入ってきていなかった。
若返っている。つまり、昨日のことは夢じゃなかった。成功したのだ。私の「巻き戻りの術」は、成功した!
でも、どうして私は成功したのかしら……。私の魔術の成績は、散々だったのに……。
いいえ、今そんなことを考えても仕方がない。大事なのは、術が成功したということ、それだけよ。
「これで、会えるんだわ……また、やり直せる……シルヴァン……」
「お嬢様……? どうして泣いていらっしゃるのですか? 誕生日がそんなに楽しみだったのですか? それなら、急いでお支度を始めますよ! ほら、涙を拭いてくださいませ」
歓喜に震えて涙を流す私に微笑みながら、アネットは楽しそうに私の髪を梳くのだった。
***
「誕生日おめでとう、ベアトリーチェ」
「ありがとうございます、お父様、お母様」
豪華な食事、飾られた屋敷。そのどれもが私を祝福していた。
お父様が私に楽しそうに話しかける。
「遅くなってしまったが、誕生日プレゼントは何がいい?」
「ベアトリーチェが欲しいものなら、なんでも用意するわよ」
そう話す両親に、私はニコリと静かに笑ってから、ナイフとフォークを置く。それから立ち上がって頭を下げ、静かに嘆願した。
「豪華な宝石も、素敵なドレスも、何も要りません。ですが私、どうしてもお会いしたい人がいるのです。…………レグナール公爵家の、シルヴァン・レグナール様と、お話しする機会をいただけないでしょうか」




