禁忌
それから、何日が経っただろう。依然、状況は変わらないままで。
けれどシルヴァンの死因は、心臓発作だと断定されたらしい。心臓発作にしては奇妙な点が多すぎるが、遺体から毒の検出がされなかったのだ。かといって、外傷もない。
シルヴァンの死の真相は闇に包まれたまま、病死だという噂だけが国中を駆け巡った。
それに伴い私の疑いも晴れたが、私にとってそんなことは至極どうでも良いことだった。
シルヴァンに会いたい。
抱き締められたい。
あの甘い飴玉のような瞳で、私を見つめて欲しい。太陽のような笑顔で笑って欲しい。
けれどそれはもう、敵わない。
どうして死んだのがシルヴァンだったんだろう。私が死ねばよかったのに。私は、あなたがいない世界じゃ上手く泳げない。
「……私が、死ぬ?」
その瞬間、ふと思い当たることがあった。それは、アレイス侯爵家に代々受け継がれてきた「巻き戻りの術」が記された書物。
だが、昔その術を試したものは皆失敗し、その場で苦しんで命を落としたのだとか。それ以降、その書は呪いの書として書庫に大事に封印されてきたのだ。
ううん、そんなことはどうだっていい。今大事なのは、シルヴァンが生き返る……いえ、
死ぬ前まで時を巻き戻せる可能性があるということ。もし失敗して命を落とすことになっても、苦しんだのはシルヴァンも一緒だもの。
成功すればシルヴァンは生き返るし、失敗すれば私もシルヴァンと同じところにいける。
まるで天命のようだと思った。
「……まっててね、シルヴァン。私があなたを、助けるから……」
私はその日の夜、部屋をそろりと抜け出して書庫に忍び込んだ。
真っ暗な部屋の中で、どこに仕舞われているかもわからない書を探すのは大変だろうと覚悟してきた。
だが、私はなんだか導かれるように……ある一冊の本の前までまっすぐ歩いて、その本を手に取る。まるで、自分の意思ではないようだった。
手に取った本は、間違いなく私が探し求めていた書だ。根拠もないのに、そう直感した。
ペラペラとページを捲る。…………あった。魔法陣と、呪文。
三年間魔法学園に通った私には、この呪文を読むことが出来る。私は気付けば、涙を流していた。シルヴァン、私はどうなってもいい、シルヴァンが生きてさえいれば、それでいい。
「……お願いです、悪魔でも女神でもなんでもいい。どうかシルヴァンを、蘇らせてください」
そうして私は、記されていた呪文を唱えた。それから、魔法陣の上にぽたり、と雫が落ちる。
次の瞬間、書に書いてあった呪文と魔法陣が浮かび上がり、目を開けていられないほどの強い光が私を包み込んだ。
私は成功したのかも、失敗したのかもわからないまま、意識を強引に奪われるような感覚を覚えながら気絶したのだった。




