番外編①
恋ってどんな感情なんだろう。
マリベル・モンフォールは、そのことがずっと不思議だった。
男爵令嬢とかいう、まぁ所謂お貴族様の家に生まれてしまった私には、結婚しないという選択肢はない。家のためになるような相手をみつけて、家のために結婚するのだ。
昔からそう両親に言われて来たし、「まぁそんなもんかぁ」なんて、私自身も思っていた。
だから、王立魔法学園に入学して……シルヴァン・レグナール公爵子息を見た時は、「この世にはこんなかっこいい人がいるのね」と驚いたものだ。
私もこんな人と結婚出来たらなぁ、なんて密かに思ったけれど、入学してすぐの実技試験でそんな夢は粉々に壊れた。
かっこいい王子様には、美しいお姫様がいるものだ。私を庇ってくれた美しい侯爵令嬢・ベアトリーチェさんは、レグナールさんと婚約していると口にした。
正直に言って、二人はとてもお似合いだったし……とても素敵だった!
だって、家のために結婚することばかり考えていた私と違って、ベアトリーチェさんはレグナールさんのことを「守りたい」と口にしたんだもの。
こんなに格好良くて美しくて素敵な人と友人になれるなんて、私はなんて幸せ者なんだろうと思ったし、同時に憧れた。
私も、ベアトリーチェさんとレグナールさんみたいに、想い想われる関係を誰かと築いてみたい、と。
でも現実は中々うまくいかなくて……学園祭を取り仕切る私に、不満を持っている生徒たちがいることは知っていた。裏で陰口を言っていることにも気付いていた。
その現場に遭遇した時は、すぐに逃げようと思ったけれど……。
「モンフォールさんは、僕たちクラスメイトのために一生懸命がんばってくれているだけだよ」
優しい声で陰口をぴしゃりと宥めたその声に、私は救われた。
声の主は、オルコット子爵家のエディ委員長。人格者で、爽やかで、しっかりものな人気者。
その日から、私は彼の顔を見ると顔が熱くなって……声が裏返ったり、自然な態度をとれなくなってしまっていた。
それでも勇気を出して、学園祭の後のダンスパートナーにならないと申し込んだ。すると彼は「僕でよければ」と笑ってくれて、私は空にでも飛んで行ってしまいそうな気持ちになったものだ。
だから、本番当日に彼が発熱したと聞いた時は……正直、すごくショックだった。
それでも、なんとなくそのことをベアトリーチェさんたちに悟られるのは気恥ずかしくて、誤魔化してしまったけれど。
でも、二年目の学園祭で彼の方から「僕とパートナーになってくれませんか」と言ってもらえた時は、涙が出るほど嬉しかったの。
そして私はパーティーが終わった後に、彼に告白をした。男爵令嬢の私が子爵令息の彼に交際を申し込むのは、結婚を申し込むのと同じようなものだ。
それでも、彼は爽やかな笑顔で「僕が言おうと思ってたのに」と言ってくれた。
三年に上がるころ、ベアトリーチェさんとレグナールさんに、交際を宣言した。
ベアトリーチェさんは安心したように「良かった」と笑っていたから、きっと何か気付いていたんだろうな、と思う。それなら、もっと早く相談すればよかったのかなぁとも思うけれど……。
二年目の途中まで、ベアトリーチェさんは結構難しそうな顔で思い込んでいるような素振りを見せることが多くて、言えなかったんだよね。
けれど、今はこうして四人で仲良くできていること、本当に嬉しく思う。
――この卒業パーティーが終わったら、私とベアトリーチェさんはきっと中々会えなくなるだろう。身分以外にも、彼女たちには私たちと大きな壁があることくらい、わかっているから。
「マリベル、食べないの? って、なんで泣いてるのさ」
「いや、なんか……寂しいなぁって……! こうして楽しそうに踊っている二人を見るのも、もう最後なんだなって思ったら……」
「そうだね……。でも、僕らは生きているから。お互いに自分の人生を歩んでいたら、きっとまた交わる時が来るよ」
「……うん」
エディの言葉に、私は頷く。
ベアトリーチェさん、私と友達になってくれてありがとう。
私、この学園で過ごしたこと……何があっても、絶対に忘れないから。だから、お幸せにね。




