失言
「そっか、闇魔法……そんなものまであるのか」
「えぇ、だからシルヴァンの死因は、闇魔法で間違いないと思うわ。問題は、その動機と犯人がわからないところだけれど……」
王家の書庫から学園へ戻ってきた私は、一人教室で待ってくれていたシルヴァンと合流した。決してシルヴァン以外には知られないよう、声を潜めて得た情報を共有する。
「あの魔獣事件とも、関係があるのかな。一周目にはなかった出来事なんだよね?」
「でも、ユリウス教授には記憶がないし……本人も操られた様子だと言っていたようだから、彼自身にあまり関係があるとも思えないのよね……」
「そっか。じゃあ、ユリウス教授が犯人という可能性は低そうかな」
「えぇ。あと、一周目にはいなかったマリベル、ここまで協力してくれたニコラス教授も違うでしょうね」
「……逆に言えば、それ以外の人は可能性があるってことか……候補が多すぎるな」
シルヴァンの言葉に私はため息を吐く。せめて動機さえわかればもう少し犯人が絞れそうなものだけど、如何せん全く分からないのよね。
犯人はなぜ、闇魔法でシルヴァンを殺したのか……シルヴァンを狙い撃ちした理由は、なんだったのか。
「……なんだか、堂々巡りになりそうね。これでエディが犯人だったりしたら、私人間不信になりそうだわ」
「怖いこと言うのやめてよ、ベアトリーチェ……」
シルヴァンが苦笑いをする。笑い事じゃないんだけれども。全く、シルヴァンが自分の命が狙われていること、わかっているのかしら?
「やっぱり、アイレス侯爵家の書庫も確認してみるべきなのかしら……」
「いいんじゃない? 勉学のための帰省とか理由付けて、休暇申請しようよ」
「そうね、ならフローラ教授に申請を出しに……」
――ガラッ!
「この私になにか用かしら~~!?」
「わっ、びっくりした!」
丁度フローラ教授を探しに行こうとしたところで、教室に本人が入ってきた。
フローラ教授は私たちを見るなり、なんだかニヤニヤしながら口を開く。
「おやおや二人とも、こんなところで逢引きか~!? もー、不純異性交遊はやめなさいね、先生が怒られちゃうんだから!」
「してません! それより、帰省のために休暇申請を出したくて……」
「なんだ、そんなこと? 申請書は植物研究室に置いてあるから、一緒に研究室まで行きましょうか」
そう言ってウインクするフローラ教授を軽くあしらいながら、私たちは廊下を歩く。
フローラ教授はスキップしながら歩いていて、なんだか楽しそうだ。この人みたいに気楽になれたら、私の人生もっと楽だったのかしらね……。
「着いた~!! ようこそ、我が植物研究室へ!」
「そういえば、フローラ教授の研究室にお邪魔するのは初めてですわね」
「普段どんなことされてるんです?」
植物研究室の中は、まるでジャングルかのように多様な植物が生い茂っていた。
シルヴァンが興味深そうに質問すると、フローラ教授は口を少しとがらせて、指をいじいじしながら小さな声で答えた。
「それは……アレよ、植物を育てたり、観察したり……」
「なるほど、ガーデニング部……」
「もー! だから言いたくなかったのに!!」
フローラ教授は完全にいじけてしまったようで、ぷんぷんと怒りながら棚を漁っている。
「そういえば、どうして急に二人で帰省? 結婚報告でもするのかしら?」
「違いますってば! ちょっと……調べたいことがあって、実家に戻ろうかと」
「あ~~……この間も、魔獣事件とかで二人とも大変な目に遭ってたものね。これを機にゆっくりするのもいいかもね~」
何気なく、フローラ教授はそう言って笑う。
私はそのフローラ教授の言葉を聞いて、一瞬思考が停止してしまった。けれど、すぐに我に返って、声を絞り出す。
「…………どうしてフローラ教授が、魔獣事件についてご存知なのですか?」




