かくしごと
「死んでしまった……? これから死ぬ、ではなくて?」
「えぇ。婚約者で恋人の私からドリンクを受け取って、そのまま血を吐いて倒れて……私の前で、命を落とした」
「……ごめん、一体それは……どういうこと?」
当然の疑問を投げかけられて、私は目を伏せる。それでも、これ以上シルヴァンに隠し事はしたくない。
私は一周目のシルヴァンを確かに愛していたけれど、今のシルヴァンのことも、同じくらい大切で、愛しているから。
「私の家には、代々伝わる『巻き戻りの書』というものがあって……シルヴァンを失った私は、藁にも縋る想いでその魔術に頼ったの。今までだれも成功したことがなかったみたいだけれど、なぜか私は成功させることができて……。意識を失って目が覚めたら、シルヴァンと初めて出会う少し前の、私の誕生日まで時が巻き戻っていたわ。私の記憶だけを引き継いだまま……」
「……そんな、ことが……」
シルヴァンも、私の話を聞いて流石に絶句しているようだった。当たり前だ。こんな話、すぐに信じられるわけがない。
「それからは、とにかく必死で……もう二度とシルヴァンが死ぬ姿を見たくなくて、あなたを半ば強引に婚約者の座に引きずりおろしたの」
「引きずりおろしただなんて、そんな……俺は、あの時のことを後悔したことは一度もないよ」
「ふふ、優しいのね。そういうところも、好きよ。とても……」
私はシルヴァンの髪をサラリと撫でて、話を続けた。
「入学式の日の魔法実技試験でマリベルを守ったのも、一周目の人生で、マリベルが怪我をしていたことを知っていたから。それで傷つくあなたを見たくなくて、マリベルのことを守ったの。……こんなこと、マリベルには絶対言えないけれど」
「……それでも、モンフォールさんはきっとベアトリーチェのことが好きだし、感謝すると思うよ。二人は友達なんだから」
「……そうかもね。本当は、マリベルは退学した生徒だったから……こんなに仲良くなれるなんて思っていなかったし、嬉しい誤算だったわ。だって、一周目の学園生活の私は、シルヴァン以外の友達が一人もいなかったんだもの。だから、マリベルに感謝しているのは、本当は私の方なの。……学園祭も、楽しかったな。今頃、エディと踊っている頃かしら? 後で話を聞かなくちゃね」
私がマリベルに想いを馳せていると、シルヴァンが困ったように笑いながら、話を止めてきた。
「モンフォールさんの話は、あとでまたしっかりしよう。それより、俺の話を今は聞きたいな」
「あぁ、ごめんなさい。でも、本当にそれからは、全然違ったのよ。そもそも一周目の人生では、学園に入学する前にシルヴァンと両想いになっていたから」
「……一目惚れって、そういうことか」
「あら、そんなことまで盗み聞きしていたの? 悪い人ね」
「ごめんって! それで?」
「そうね……魔闘祭は、今回の人生で初めてのイベントだったから、ひやひやしたし、ドキドキもしたわ。あと、薬学研究室に入ったのは、シルヴァンの死因が毒殺だったかどうかを調べるためで……」
私がそう呟くと、シルヴァンは「えっ」と驚きの声を漏らした。
「俺の死因、判明しなかったの?」
「……毒が検出されなくて、心臓発作だという事にされてしまったの。でも、そんなわけがないことくらい、一番近くにいた私がわかってる。だから、私はとにかくシルヴァンを殺した犯人と方法を知りたくて……あなたを、守りたかったの」
私がそう告げると、シルヴァンはようやく、憑き物が落ちたような……すべてに合点が言ったような表情をした。
それから、急に両手で顔を覆い始める。
「待って、じゃあ、ベアトリーチェが俺を通して見ていたのって……前の人生の俺だったってこと!? 俺、自分に嫉妬してたの!? め、めちゃくちゃ恥ずかしい……!!」
「まぁ、そうなるわけだけど……でも普通そんなこと思いつかないんだから、仕方ないわよ」
「気にするよ! そのせいでベアトリーチェに酷い態度をとっちゃったし、何よりも危険な目に遭わせたんだから……」
「……え?」
シルヴァンの言葉に、今度は私が驚く番だった。肝心のシルヴァンは、自分が言ったことの意味に気付いていないようだったけれど……。
「ねぇ、シルヴァン……あなたもしかして、私の本当の魔法を……知っているの?」




