仲直り
魔獣事件が起こった日の放課後。私は久々に、薬学研究室に足を運んだ。
「失礼します」
「アイレスさん、こんにちは。君が話したいことはわかってるから、ここに座ってね」
「……はい」
ニコラス教授はいつもより少し低い声で、私を受け入れてくれた。
私は指定された席にゆっくり座ると、ニコラス教授が前髪をクリップで留める。ニコラス教授の瞳を見たのはこれが初めてだ。
「……真剣な話になるから、ちゃんと目を見て話すね。まず、君は昨日、自分の身に起こったことを説明できる?」
「はい。シルヴァン……レグナール公爵子息が竜に襲われ、致命傷を負った時……。私が抱き締めながら強く祈った瞬間に、光に包まれて、その少し後に彼の傷が完治していました」
「そうだね。そしてそれは、この国の『聖女伝説』と一致している。何が言いたいか、わかるかな?」
「……私はずっと、自分のことを水属性を持った魔法使いだと思っていました。出生時の診断も、しなかったんです。水魔法の名門に生まれた子供だったから……。でも、本当は違ったんですね」
私がぽつりぽつりと呟くのを、ニコラス教授は静かに聞いていた。
「……私の本当の属性は、光属性……そうなんですよね?」
静かに、けれどハッキリと問いかける。ニコラス教授はふー……と長いため息を吐いてから、重い口を開いた。
「そうだね。君が水魔法を上手く扱えないのも、恐らくそれが原因なんだと思う」
「……ですが、それならなぜ私は今まで光魔法を使えなかったんでしょうか」
「憶測にはなってしまうけれど……君は今まで光魔法の存在を知らず、自分を水属性持ちだと信じ込んでいたことが原因だと思う。それが、大事なレグナールさんのピンチで開花したんじゃないかな」
「でも、それなら……」
「……? どうかした?」
「いえ、なんでもありません」
……どうして私は、一周目のシルヴァンを救えなかったのかしら。
何か、条件があるということ……?
「とにかく、君の属性が判明してしまった以上……僕は君をそのままにはしておけない。このことは僕から王家と教会に報告させてもらう」
「……はい、わかっています」
「それと、他の教授や生徒には、絶対に秘密を洩らしたらいけないよ。君の力は強大だからこそ、悪用されやすい」
「でも、『聖女伝説』のことは皆知っているでしょう。クラスメイトの皆には、なんて説明すれば……」
「……記憶封印措置を行うことになるね」
「えっ!?」
突然飛び出した物騒な単語に、思わず驚いてしまう。というか、ちょっと引いてしまった。
「それって、魔法ですか……?」
「いや……正確には、僕の薬品で記憶を一部忘れさせる」
「く、薬って怖いですね……」
***
そして翌日の朝。教室に行くと、クラスメイトは昨日の出来事を本当に誰一人覚えていなかった。
それどころか、魔獣の話を聞こうとしたユリウス教授さえもその話を覚えていなくて……。
私はニコラス教授のすごさと恐ろしさを思い知ることになった。
それと同時に……シルヴァンが昨日のことを覚えていないのは少し残念な気もしたけれど。でも、彼が苦しまないのならそれが一番いい。
そう思って、私は窓際の自席に座る彼に笑顔で話しかけた。
「シルヴァン、おはよう! ねぇ、もう喧嘩はやめにしましょう? 私、あなたのことが大切だから……話せないのはとても悲しいの」
シルヴァンは私の言葉に目を丸くしながら、「俺も、そう思っていたところ」と優しい笑顔で笑ったのだった。




