代役
学園祭が近付くにつれ、劇の完成度もどんどん上がっていった。
私とエディの放課後練習はすぐにマリベルに見つかってしまい、結局放課後は皆で集まって劇の練習をするようになったことも大きいだろう。
一周目の時にはなかった、連帯感も感じられる。私はなんだか、不思議な気分だった。
だって、一周目の私はシルヴァンのことばかりで……いえ、今もそれは変わっていないけれど、こんな風にクラスメイトと仲良くなったり、友達ができることなんてなかったから。
私とシルヴァンは、好意的には思われていたと思うけれど、家柄や容姿、関係性もあって、クラスメイトからどこか一線引かれていたのだ。
その一線を飛び越えてくれたのは、他でもないマリベルだった。
「あ! ベアトリーチェさん、今のセリフ間違えてましたよ! ……ちょっと、なんで笑っているんですか~~!?」
「ふふ、ごめんなさい。もう一度、今のシーンからお願いできるかしら」
……シルヴァンを救うため、運命を変えるために時を巻き戻したけれど……私が思っていた方向とは全く違う方向に、運命が進んでいっている。
このまま過ごせば、シルヴァンは、殺されずに済むかもしれない。そう思って、思わず笑みがこぼれた。
「あ、そうだ! どうせなら、最後にキスシーンを入れるのはどうですか!?」
「えっ?」
「いや、それは流石に……」
マリベルの提案に私とエディが困惑した瞬間、シルヴァンが焦ったようにこちらに駆け寄ってきた。
「未婚の、それも婚約者がいる女性が、そんなことしちゃダメだろ!」
「あら、冗談でしたのに……随分必死ですねぇ、レグナールさん」
マリベルが楽しそうに口角を上げると、シルヴァンは顔をほんのり赤く染めながら、「タチが悪いよ、モンフォールさん……」と呟いた。
私はそんな風に女子生徒と接しているシルヴァンを見るのは、初めてだった。シルヴァンは誰に対しても、いつも一定の笑顔で距離を保ったまま接していたから。
……いい傾向なのかもしれない。けれど、その表情を私に向けてくれればいいのにと思ってしまった。
私って、醜い女ね。
***
そして、学園祭当日。
いつもより早起きしたクラスメイト達が、各々の衣装を持ち寄って本番の準備をしている時だった。
――ガラッ!
「み、みなさん! 大変です!」
「どうしたの、マリベル。そんなに焦った様子で……」
「オ、オルコットさんが……発熱して起き上がれないって、寮のルームメイトの方から連絡があって!」
マリベルの叫びに、教室中の皆がざわめきだす。
「そんな、オルコットさんがいらっしゃらないなんて……」
「私たち、劇をできないの……?」
「せっかく頑張ってきたのに……」
皆が不安そうに、次々と声をあげる。マリベルや一部の女子は、最早泣きそうな顔で「どうしよう」と話していた。
そんな時だった。
「俺でよければ、王子役をやるよ」
「……シルヴァン?」
シルヴァンが、笑顔で手を挙げたのである。
マリベルは一拍遅れてからパッと顔を上げて、シルヴァンに詰め寄った。
「レグナールさん、本当!? でも、セリフは大丈夫なのですか……?」
「うん。練習を見ているうちに、全部覚えたから大丈夫だと思う。俺は大道具係だから、本番やることなかったしさ」
「さ、流石天才……! ぜひ、お願いします!」
マリベルが感激したようにシルヴァンの手を取った。皆も希望を取り戻したことで、教室に明るい空気が充満していく。
「……ベアトリーチェも、それでいいかな?」
「私はもちろん……シルヴァンの相手を務められるなんて、光栄よ」
「そ、そっか」
シルヴァンは私の返事を聞くと、フイ、と目を逸らす。
……なんだか、以前よりも避けられているような気がするけれど、大丈夫なのかしら。
シルヴァンとクラスメイト達の仲は一週目より格段に縮まっているのに、私との仲はむしろ離れてしまったような、こんな心地がしている。
私は一抹の不安を抱えながら、シルヴァンに「頑張りましょうね」と微笑みかけるのだった。




