独占欲
入学からしばらく経ち、クラスにも慣れてきたころ。
ベアトリーチェは、入学初日に庇った令嬢であるモンフォールさんとすっかり仲良くなったようだった。
ベアトリーチェがモンフォールさんに向ける笑顔はすごく自然で、年相応の可愛らしさがあって……。俺に接する時よりも、なんだかリラックスしているように見えた。
そして一方、俺はというと……。
「シルヴァン、次移動教室よ? 実験室……行かないの?」
「え、あ、ごめん! ありがとう、今行くよ」
「そう、ならよかった。私はマリベルと先に行くわね」
……ベアトリーチェと、どんどん上手く話せなくなっていた。
入学式の日の保健室の前で会話を今まで自分がベアトリーチェにどうやって接していたのか思い出せない。
だって、初めてだったんだ。俺は今まで、「女の子は守るもの」「大切な婚約者は俺が守るべき」と教えられてきたし、実際にそれを実現してきたつもりだった。ベアトリーチェに対しても……。
でも、ベアトリーチェは違った……いや、ある意味で俺と同じだった。婚約者である俺を、守ろうとしてくれていたのだ。
そのことを知ってから、なんだか胸の辺りがムズムズするのだ。大人びた表情も、耳を髪にかける仕草も、どこか遠くを見つめている瞳も……すべてが、俺の心をくすぐった。
……俺の元々の好みは、もっと無邪気で可愛い感じの女の子だったはずなんだけどな。
なのに今は、落ち着いていて美しい婚約者のことが気になって仕方がない。
でもそれはどうやら、俺だけじゃないみたいだ。
ベアトリーチェはモンフォールさんと友達になってからというものの、表情に柔らかさが増した。そして、その笑顔を纏いながら、困っている人には誰にでも手を差し伸べるのである。
初日に俺からモンフォールさんを庇ったということもあってただでさえ一目置かれているというのに……その美しさと優しさで、どんどん周りの男子生徒たちを魅了していく。
俺は正直、気が気じゃなかった。
情けないと思う。自分の気持ちもはっきりしないままなのに、一丁前に独占欲だけはあるなんて。
それでも、ベアトリーチェの美しいサファイアの瞳に映るのは……俺だけだったらいいのにと、思ってしまうのだ。
「……シルヴァン、本当に早くいかないと授業に遅れるわよ?」
「まぁまぁベアトリーチェさん。レグナールさんは、最近心が忙しいみたいだから……ね?」
「そ、そう……なの?」
「……まぁ、うん……」
……こんな俺の気持ちをモンフォールさんだけは見透かしているのか、困惑するベアトリーチェの後ろでクスクスと俺を見て笑っていた。
***
「学園祭?」
「そうそう、一年生は演出に魔法を使った演劇を披露するのが伝統らしいですよ」
「へぇ……配役は誰が決めるのかしら」
マリベルと二人で昼食を摂っていると、思い出したように彼女が話を振ってきた。
当然、学園生活二周目の私は学園祭を三回ほど体験しているし、どんなものかも十分理解しているけれど……。
ここは怪しまれないように、敢えて知らないフリをしながらマリベルに話を返した。
この数ヵ月で、随分演技にも慣れたものだ。
「それが、先輩の話によると……脚本係が自由に指名して良いんですって! だから私、立候補しようと思ってるんです!」
「え!?」
「……えっ? ダ、ダメですかね……?」
「いえ、ごめんなさい、なんでもないの。マリベルは文芸クラブに入っているんだものね。良いと思うわ、えぇ、すごく良いと思う」
「あ、ありがとう……?」
いけないわ、つい一周目と大きく違う展開になりそうで驚いてしまった。
でも考えてみればそうよね、今のところ、今回の学園生活で一番大きな違いはマリベルが退学しなかったこと……。
そして思い返してみれば、彼女は物語を書くのが好きだと前に少し聞いたことがあった。
だから、脚本係に立候補しようと思っていても何も不思議ではない。
一周目の時は、誰も立候補者が出なくて……仕方なくシルヴァンが手を挙げたものだから、今回は私がシルヴァンの代役を務めようと思っていた。
……そんなわけなので、マリベルの立候補は助かるといえば助かるのだけれど……。
「……一応聞いておきたいのだけれど、マリベルは誰を主役に指名するつもりなのかしら?」
私がおそるおそる聞くと、マリベルは身を乗り出して元気よく答えたのだった。
「それはまだ内緒! でも、楽しみにしていてくださいね」
……まぁ、そういうでしょうね。
何を考えているかは大体予想はつくし、なんとなくそんな気はしていたけれど……これは大分、一週目とは違う学園祭になりそうだわ、なんてことを思った。




