3.プライド
学園が再開され、実家からのご褒美を私が心待ちにする中。
早速行われた授業で、
「それではここが分かる方……」「はい!」
「マター嬢ですか。他に分かる方は……いらっしゃらないようですね。では、マター嬢」
「まずはこの魔法を練習してみてほしい。魔力操作の練習になるから成功はせずとも」
ボンッ!
「マター嬢!?もう成功させたというのか!?」
マターちゃん。つまり、推定主人公ちゃんが暴れておりますわ。
難しい内容の部分でも挙手して正解して、多くの者が苦戦する魔法なども容易く成功。圧倒的な才能の片りんという物を見せつけておりますの。
おかげで、
「マター嬢。少しここに関して聴きたいのだが」
「あっ、はい!ここはですね…………」
「こんも魔法の使用感を聴きたいのだが」
「はい!こちらの魔法はですね…………」
推定主人公ちゃんは大人気。
主人公なだけあって決して性格は悪くないどころか純真無垢ないい子(なお浮気相手)、それでいて勉強も得意なんて頼れる相手に決まっていますわ。
しかも、社交界で嫌味を一言は挟まないと済まない体にされている御令嬢とは違ってネガティブな発言なんて1つもありませんから、気持ちよく教われますの。
こうして腫物扱いだったものがかなり緩和され、王子や他の浮気をしていた男たちの取り巻き連中の人気者に。推定主人公ちゃんを取り巻く環境は改善されましたの。
これが私の教えた究極のクラスメイトと仲良くなる方法ですわ!
上手くいったことですし、推定主人公ちゃんからの私に対する信頼度は爆上がり間違いなしですわ~~!!
…………え?推定主人公ちゃんが求めてたのはクラスメイトと仲良くなる方法じゃなくて、王子の婚約者であるエニケーちゃんと仲直りする方法だっただろ、って?何論点ずらしてんだ頭カチ割るぞオラァ!って?
ふっふっふっ!侮ってもらっては困りますわ。もちろんそこまで考えたうえで計画は立ててありますわよ?
「マター嬢。ここなのだが」
「ああ。はい!ここですね。ここは前回習ったものを使いまして…………」
推定主人公ちゃんに伝えた計画では、まずこうしてクラスでの人気を得ることが第1段階。
浮気相手にエニケーちゃんが何もない状態で直接話しかけられても上手くいくはずがないですからね。だからこそ、少しでも人気を得て話しかけられることがメリットになる、そして話かけやすくしておく必要がありましたの。
そして、しばらくをそれを続けているとエニケーちゃんは苦い顔をしながらも推定主人公ちゃんに視線を送る頻度が増加。
恨みが増加してしまっているように思えるかもしれませんが、そんなの勉強を教えてしまえば解決しますわ。浮気相手が目立つことより、自分の成績が上昇して実家から褒めてもらえることの方が嬉しいはずですから。
…………とはいえそれは、勉強を教えてもらえばの話ですけど。
推定主人公ちゃんは私の伝えた計画通りにやってクラスで人気を得たことにより調子に乗っているようで、もうエニケーちゃんと仲直りする準備は万端と言った風に思っている様子ですの。
ですから、
「マ、マター嬢」
「うん!そこ、教えますね!」
話しかけられたら、バカなことをしますの。
嫌っているにも関わらず向こうはせっかくチャンスを示してくれたのに、推定主人公ちゃんの言葉でエニケーちゃんの表情は歪みましたわ。
「っ!…………結構だ!」
「え?…………あっ」
結局エニケーちゃんは推定主人公ちゃんの提案を拒否。そして、かなり苛立った様子で去ってしまいましたの。
推定主人公ちゃんも一瞬困惑したようですが、よくよく考えてみて自分のミスに気付いた様子。何せ、私が注意事項として教えたことをあっさり破ってしまいましたからねぇ。絶対やると思ってましたわ。
そんな注意事項が何かというと、それはとっても単純なこと。「教える」や「○○してあげる」といった表現を使わないことですわ。
最初のクラスメイトに話しかけられていた頃は注意していたようですが、最近はすっかり気が緩んでいる様子でしたので絶対にそろそろやらかしてくれると思っていましたわ。
「やっちゃった~…………」
「マター嬢。さすがに今のは庇えないな」
「学園の生徒として最低限は気をつけてもらいませんと」
周囲も呆れた様子で、フォローの言葉は1つもなし。皆、これは絶対にやってはいけないことと認識しているのですわ。
では、なぜそうしたことがダメなのか。その理由は、単純に貴族というのが面子とプライドだけで生きている生物と言っても過言ではないからですわ。
下に観られてプライドが傷つくような気がして、何かしてもらうということを貴族は激しく嫌いますの。馬鹿らしいですけど、それがこの国の貴族という物なのですわ。
ちなみに、王子たちがほとんど無罪とされたのも実家のプライドによる物だったりしますわ。自分たちの側が悪いことをしたからと頭を下げたくないというプライドによる。
そういった感覚が庶民である推定主人公ちゃんには理解しにくいもの。
私も注意事項として言いはしましたけど、そこをあえて強調しては言わなかったため見事に忘れてくれましたの。
私の作戦大成功ですわ~!天才と言ってくれてもよろしくってよ。
…………なんて喜びましたけど、正直上手くいきすぎて怖いですわ。
このミス、私としてはエニケーちゃん本人ではなくその取り巻きが探りを入れる形で話しかけてきた時にやらかしてくれる程度の想定だったのです。しかし、まさか本人にやってのけるとは。
なぜこんなにうまくいってしまったのやら。何か仕組まれているのではないかと勘繰ってしまいますわ。
しばらく動かない方が得策かもしれませんわね。幸い、推定主人公ちゃんが煽ってくれたおかげでエニケーちゃん側が色々としでかしてくれそうですし。
私は働かずにのんびりしていましょうかね~。適当に次の計画でも立てておけばもう完璧でしてよ~。
…………なんて、思っていましたの。
思うだけでなく、本当ならそうなったはずですのよ?
だというのに、
「ログちゃん助けてください!!」
「待ってくださいまし!また私のところに来ましたの!?」
来やがったんですわ。推定主人公ちゃんが。
こやつ、性格とか終わってまして?誰ですの、主人公だから性格が良いとかほざいたのは。
私って一応恩人なはずですのよ?仲直りのきっかけを作る方法も教えたし、実際私の忠告を忘れさえしなければ成功しそうな状況まで持って行けてましたの。
だと言うのに、
「今あなたと一緒にいるところが見られれば私までエニケー嬢から目の敵にされてしまうんですわよ。周囲への影響とか考えてくださいまし………」
「大丈夫!誰にも見られてない時に来たから!」
「そういう話でして?」
自信満々に言う推定主人公ちゃんにはあきれてものも言えませんわ(言ってるけど)。
メイドに確認してみましたが、幸いなことに誰にも見られていないというのは確からしい。安心はできませんが、焦る必要はないと判断できますわ。
では、そうして落ち着いた(?)ところで話を聞いてみますと、
「どうじよぉぉ!!!エニケーちゃんに嫌われちゃったよぉぉ!!!!
「当たり前ですわ。注意点は伝えたはずですわよ」
「そうなんだけどぉぉ……ここからどうにかする方法を教えてログちゃ~~ん」
「なんという他力本願」
エニケーちゃんから更に嫌われたのでここから関係を改善する方法を求めてきた、ということのようですの。
愚か。実に愚かですわ。本来ここまでひどいことになってしまえばしばらく視界にすら入らないように離れていることが大切だろいうのに。それでもなお仲良くなりたいと言い出すんですからさっぱり理解ができませんわ。
私もすっかり気が緩んでいてろくな案も出てきませんし。どうしたものか悩み所ですわね。
とりあえず時間稼ぎに話でも聞いてみましょうか。
「だいたい、私ではなく仲のよろしい殿下方やお友達に先に相談してはいかがですの?」
「え?ログちゃんが1番仲のいい友達………」
いや、それはない。
それはないですわよ推定主人公ちゃん。私はあなたの事、友達だとは一切思っておりませんわ。勝手に友達にしないでいただきたいですわね。
一瞬キレかけましたわ。
「私公爵家の人間ですので、あなたと仲が良いと思われると実家が大変なことになってしまうのですが?先に普段から接している子たちと話し合わなかったんですの?」
「じ、実はしてなくて。あんまりそういうことしてると、今回のがログちゃんに教えてもらった作戦だって言っちゃいそうだったから」
「…………頭の痛い話ですわね」
これ、本当にどうにかなる問題でして?
私だけで解決(しないで逆にひどいことになる)策とか思いつきませんわよ。




