4.ストーカーって怖いですわよね
私に相談に来た推定主人公ちゃん。
困ったことに私にまた意見をもとめに来るなんて想定していなかったですし、対応が定まっておりませんわ。無理だから距離を置くようにと言えばそれで解決なのかもしれませんが、せっかくですから何か仕込んでおきたいという気持ちもあります。
結局、まだしばらくは時間稼ぎのために話を聞く側に徹したほうがいいかもしれませんわ。
「ご友人方に聞いていないのは分かりましたけど、殿下方はどうなんですの?それこそ殿下は婚約者なわけですし、何かしら知っているとは思うのですけど」
「うぅん。それが、皆あんまりエニケーちゃんとはかかわりがないみたいで。ケヌ君、あっ、ケヌ君っていうのは殿下の事なんだけど、ケヌ君も婚約なんてしてても本人同士のかかわりが多いわけでもないとか言ってて」
「ふぅむ。まずエニケー嬢の事を知らないから解決策も思い浮かばない、ということですのね?」
私よりも先に頼るべきだろう王子やらイケメンどもは使えない様子。
ただ、それでもいいことは聞けましたわね。そういうことを王子たちが言っているのであれば、私にできることで1番効果があると思うことは、
「このままでは情報が足りないですわね。どうしてもエニケー嬢と仲良くなりたいというのであれば、情報収集が必須ですわ」
「情報収集?」
「ええ。これからそれとなく、色々な人からエニケー嬢のことを聞いて深く知って行けばいいと思いますの。そうして好きな物嫌いな物、趣味や休日の過ごし方など分かってくれば。何をすると仲が深まるのか分かるかもしれませんわ」
「な、なるほど!」
「ただ、露骨にやるとエニケー嬢にバレかねませんわ。あくまでもそれとなく、辺に疑われることのないようにするんですのよ?」
「うん!」
良いお返事ですこと。
きっと深く考えることもなく私の言葉をそのまま受け取ったのでしょうね。
実際仲良くなろうとしているのですから共通の趣味や話題などがあれば便利なのは確かですが、考えが甘いと言わざるをえませんの。いくら頑張ったところで、それとなくしようとしたって、
「…最近、マター嬢がエニケー様のことを探っているらしいですね(ヒソヒソ)」
「そうらしいですね。きっと、弱みを握ろうとしているんじゃないですか(ヒソヒソ)」
「おそろしい。あそこまで露骨にやるというのはエニケー様に喧嘩を売っているのと同じですよね(ヒソヒソ)」
教室内ではこんな話がそこかしこで聞こえるようになりましたわ。皆すでに、推定主人公ちゃんがエニケーちゃんのことを探っているということを理解していますの。貴族は探りに敏感なんですのよ。普段から探りあいをしていますし。
そしてもちろんそれを認識はしていても、目的がエニケーちゃんと仲良くなるためなんてことは微塵も思っていませんわ。皆、エニケーちゃんを推定主人公ちゃんが潰そうとしていると信じて疑わない様子ですわ。
ただ、今のところ推定主人公ちゃんは周囲にどう思われているかということに気づいていない様子。
間抜けで助かりますわね。
今のところエニケーちゃんは耐えているようですが、このまま探りを入れられ続ければ自身の弱みを見せるわけにはいかないと躍起になってストレスが溜まるはずですわ。そして、いつかはそのストレスを抑えきれなくなって…………ん~~~!どうなってしまうのやら。楽しみですわぁぁ!!!!
「お、お嬢様。お顔が大変なことになっておられますが」
「ハッ!?し、失礼…………はしたないところをお見せしましたわ。オホホ」
おっと、行けませんわね。思わず妄想がはかどって令嬢としてあるまじき顔を見せてしまったようですわ。
幸いなことに周囲の使用人や護衛は私に理解を示しているようで、
「あれだけアドバイスと注意をしておいて、結果がこうなってしまっているのですから仕方がない事でしょう。あまりご自身を責めることのなきよう」
「心中お察し申し上げます」
「ええ。お気遣いありがとうございますわ」
私の顔が大変なことになっていた理由を、推定主人公ちゃんのせいだと勘違いしてくれましたの。間違いというわけではありませんが、そこに込められた感情は真逆と言っても良いですわね。周囲が思っているのは、私のアドバイスによってさらに推定主人公ちゃんの立ち場は悪化していることとエニケーちゃんの機嫌が悪くなっていることに心を痛めているとかいったことでしょうし。
もちろんそんな事実は全くないわけですが、そういうことにしておくとしましょう。
それと共に、
「この後大変なことになるかもしれません。対立の激化も考えられますし、あなたたちも派閥争いに巻き込まれないよう注意して生活してくださいまし」
「「「はっ!」」」
「それと………またあの子が来る可能性もありますから警戒をしておくように」
「「「…………はっ!」」」
「お労しや、お嬢様」
私が私の仕組んだ争いに巻き込まれてしまっては大変ですからね。自然と注意を促しておける流れになりましたわ。
あと、また推定主人公ちゃんが泣きついてくることを覚悟させることも。
もういい加減手はないわけですし、私としては諦めてほしいところなんですけどねぇ。
なんて思いつつそのまま数日。
特に私は新しい仕掛けなどもしておりませんが、状況は勝手に変化していきまして、
「聞いたか?エニケー様、最近学園での馬術の練習をおやめになったらしいぞ」
「ああ。聞いた。剣術もなんだろ?標的にされてるよな、完全に」
「ええ。マター嬢がエニケー様のいるタイミングで、近くでの練習を始めますからね。監視するにしても、あまりにも露骨でしょう。実に恐ろしい」
「しかも、マター嬢に欠片の悪意も感じないのがさらに恐ろしいよな。普段話している時に感じる印象とエニケー様への行動があまりにも乖離してる気がして。本当に同じ人間なのか?」
エニケーちゃんは、学園で行なっていた様々な自主練習を取りやめていくことになりましたの。原因は聞こえてくる会話からわかるように、推定主人公ちゃんですわ。推定主人公ちゃんがほぼすべての学園での自主行動をマネしてくるようになったため、怖くてエニケーちゃんは逃げているわけですわね。
しかも面倒なことにその時々で大抵例の浮気したイケメンたちを連れていたりするのでエニケーちゃんもあまり強い言葉で注意できず、苦しんでいるとのことですわ。
そして、エニケーちゃんにとって余計に面倒なのが、相手が推定主人公ちゃんであること。推定主人公ちゃんは当然乙女ゲーの主人公として様々な才能を有しているのですから、成長速度が尋常ではありませんの。
それこそ、そのまま同じ時間練習をしていてもエニケーちゃんは追い抜かれてしまうと思えるくらいほどのもの。自分が今まで積み上げてきたものを追い抜いていく圧倒的な天才に、直視していれば潰されるという予感がしたのかもしれませんわ。
そんな心のうちを完璧にとらえることはできませんが、焦りと恐怖が一定以上存在していることは間違いないでしょうから結果として、
「貴様、一体何がしたいのだ!」
「え?」
「この期に及んでとぼけるつもりか?毎日のように私を追いかけまわし、私を監視していたことは分かっているんだぞ!というよりも、そちらが分かるようにやっていたんだろう!」
「っ!?」
丁度、推定主人公ちゃんを守るイケメンが誰もいない時。
なぜか運悪く対面したエニケーちゃんに推定主人公ちゃんは詰め寄られることになったんですの。
エニケーちゃんも相当頭に来ているようで、御令嬢としての立ち振る舞いが乱れてしまっておりますわね~。




