17話 地獄の特訓
翌朝、日が出て間もない時間に、俺たちは再びギルドの裏庭に集まっていた。
若干の肌寒さを感じるが、支障はないだろう。
「今日から貴方の修行を始めるわよ」
「……それは良いとして、カルラが持っている箱は何だ?」
俺はカルラが持っているものを指差す。
中には、大量に瓶詰めされたモノが入っているのが確認できる。
「魔力ポーションよ。全部で40本はあるわ」
「突然スティアに頼まれましたので今は40本しかありませんが、知り合いに頼めばもっと手に入ると思います」
「昨日から、カルラには迷惑をかけて悪いな……」
構いませんよ、と微笑むカルラ。
相変わらず、本当に親切という言葉を具現化したような人間だ。
「で、そのポーションを修行に使うのか?」
「そうよ」
スティアは箱から1本のポーションを取り出す。
カルラと同じように微笑むが、何処か悪い笑みである。
「丁寧に教えるのは私の趣味じゃないわ。習うより慣れろの精神で行くわよ。中級魔法を使うのに、画期的なコツも方法もないもの」
「つまり?」
「魔力を使い果たしたら、ポーションで回復して、また使い果たすまで魔法を使う。ただそれだけ」
簡単でしょう、と笑うスティア。
「……言葉にすれば、確かに簡単そうだな」
「でしょう? じゃあ時間も惜しいし、早速始めなさい」
その言葉とともに、俺の特別レッスンが始まった。
開始してから1時間ほど経っだだろうか。
すでにポーションは2つほど飲みほした。
味は意外と甘めで、想像していたよりはだいぶ美味しい。
そして、ポーションで回復すれば魔力はすぐさま戻り、魔法を使えるようになる。
「もっと早く魔法を発動させなさい。折角の無詠唱が泣いているわよ」
「あ、ああ。分かった」
俺が魔法を使うそばで、スティアはアドバイスをくれる。
すでに陽は上ってきており、この場所を特訓で使いに来た冒険者からは好奇の目線を向けられていた。
なお、カルラはギルドからの頼みごとがあったとかで、スティアと二人きりである。
「そうその調子。出来る限り威力は強くなるようにイメージし続けなさい」
俺は頷き、火や水、風など種類を分けながら発動させていった。
それから数時間後。
太陽は真上まで来ており、額には汗がにじむ。
この辺りから、身体の調子がおかしくなってくる。
「魔法が雑になってきてるわよ」
「……ああ、気をつける」
ポーションを何本飲んだかは忘れたが、おそらく10は飲んでいないはず。
辺りにはポーションの空き瓶が散乱していた。
だんだんと、本当に魔力を回復してるのかすら分からなくなってきている。
最初は見学していた野次馬たちも、飽きたのかもう居なくなっていた。
気付くと、陽が暮れかけている。
未だに続けている俺たちを見た冒険者は、訳がわからないという表情をしていた。
体中が悲鳴を上げ、胃はポーションの飲み過ぎで吐きそうになっている。
……一体、いつまで続けるんだ?
「どうしたの? もう終わり?」
「…………い、や、まだ、だ」
もはや呼吸すら、一定の間隔で刻めない。
どうやって魔法を発動させているのか、俺には分からなくなってきていた。
精神だけならば、いくらでも耐えられる。
だが、身体は限界だと俺に対して訴え続けていた。
そんな俺を、スティアは無言で見つめている。
それから1時間後、最後のポーションを飲み干し魔力を使い果たしたと同時に、俺は気を失う。
「……呆れた。まさか全部使うまで続けるなんて。魔法の才能は一般人並だけど、精神性は狂人のソレね」
そんなスティアの言葉が聞こえた気がした。
目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入る。
隣では、カルラが椅子に腰掛けてコチラを見ていた。
「あ、起きました?」
「……カルラか。スティアはどこに……?」
俺はベッドから起き上がり、たずねる。
確か俺は魔法の修行をしていたはずだが……。
いちおう、気を失う直前までの記憶はある。
「『今日は終わり。明日もやるから、せいぜい身体を休めなさい』、だそうです。リオンをベッドまで運んだのもスティアさんですよ」
「……それは、明日礼でも言っておかないとな」
「ですね。夕食はどうします? 朝から何も食べてないですよね。何か買ってきましょうか?」
「頼む。魔力しか使ってないはずなのに、身体がボロボロでな……」
分かりました、とカルラは頷き部屋を出る。
1人部屋に残された俺は、自分の中にある魔力量を探った。
まだ完全に回復してないために最大量は分からないが、大して増えていないだろうなと言う事だけが分かる。
「努力だけでは越えられない壁、か……」
仮に300年間、この修業をしたとしてスティアを超えられるかは分からない。
ただそれでも、実感はする。
自分の中にあった限界を超えた。
俺はまだまだ強くなれる、と。




