16話 傍若無人
領主館から帰ってくると、既に陽は落ちていた。
そして薄暗いギルドの裏庭にて。
俺は魔法をスティアに見せて説明をしていた。
「見せたように、俺は大気中の魔力を使って魔法を使える。それが仮に相手の口内のような場所でもな」
「……ええ、理解したわ。貴方がどれだけ規格外の人間かをね」
呆れたような顔をするスティア。
「やはり、リオンのこれは凄いことなんですか?」
「凄いとかどうとかよりも、そんなことをしようと試みた人間がいないわ。どちらかと言うと達人芸より、曲芸。凄いって言うよりも狂っている、っていうのが正しいかしら」
「……人聞きの悪いことを言うな」
300年の集大成ゆえ、狂っていると言えば狂っているのは確かだが……。
だが、スティアの言葉を信じるのであれば、俺のように外部の魔力を操作できる存在は居ないということなのだろう。
「大気中の魔力では、どう頑張っても中級が限界。高濃度のところでも上級ってところかしら。それより上の超級や奥義は使えないの。普通、そんな曲芸じみた事を練習するなら普通に魔法の修行をするという発想になるわ」
「……なるほど。スティアさんが言うと説得力がありますね」
「というより、これだけの事が出来て、何で初級魔法を十数発程度の魔力しか無いのかしら……。もしかして魔力量の限界でも迎えたの?」
「いや、そんなことはない。が、ウィザードの限界が低いのは確かだろうな」
現に、魔力量を増やす修行を始めてから、着々と増えている。
量的には微々たるものでしかないが……。
「ウィザードという職業の限界がどの程度かは知らないけれど。それとも、ウィザードのように器用な職業だからこそ、出来ることなのかしら?」
「さて……」
まるで謎解きをするかのように、俺を見つめてくるスティア。
答えを教えるのも正直構わないが、なんだか隠しておきたくなってくる。
「教えたくないのなら、まあ良いわ。取り敢えず今日はもう遅いから、稽古は明日以降にしましょう。色々と準備しておきたいものもあるし」
「了解した。じゃあ今日はもう解散ということにしよう」
「分かりました。では、また明日ギルドで会いましょう」
俺たちはそう言って、解散した。
「……で、何でお前は俺の部屋に居るんだ?」
俺は、自分の部屋に陣取っているスティアを見て嘆く。
「此処で寝るからよ? 当然でしょ?」
「何がどう当然なんだ?」
こちらとは対称的に、スティアは涼しい顔をしている。
この部屋は、ギルドから貸し出されたもの。
ベッドの他に人が2人か3人ほど横になれる程度の広さ。
狭くはないが、お世辞にも広いとは言えなかった。
「それとも何? か弱い私に野宿をしろと?」
「いやいや、ギルドに頼めば他に部屋なんて貸してくれるだろうが! 宿の質までは保証しないが、少なくとも野宿にはならん」
「ふむぅ……。器の小さい人間ね。カルラもそう思わない?」
「いえ、私は特に……。というより、何で私も連れてこられたのでしょうか?」
部屋の入口で、困ったような顔をしているカルラ。
解散したはずのカルラを、何故かスティアが強制的に連れてきた。
「なんとなくよ」
「なんとなく、ですか……」
「あと一応、リオンが第二次性徴期の人間に欲情してしまうような性癖だった場合、助けてもらう要員ね」
「おいカルラ、今すぐコイツを連れ出せ」
あまりの傍若無人ぶりに、俺は頭が痛くなってくる。
「本当に宿がないようでしたら、私が昔から住んでいる部屋はそこそこの広さがありますよ?」
「ああ、昼間も言ってたが、カルラは元々領主に仕える騎士だったな」
「……ええ、一応」
何処か歯切れの悪い返事。
言いにくい事情があるのだろう。
そう察して、俺は深堀りをしない。
が――
「一応? 昼間の会話もそうだけど、何かあったのかしら?」
スティアはそんなもの無視して質問をする。
……付き合いは短いが、彼女がどんな人間なのかが分かってきた気がする。
「……そこまで込み入った話ではありません。ただ昔は騎士として仕えていましたが、ある時、任務に失敗して部下たちを死なせてしまい解雇されただけです」
「でも、さっきの領主は戻ってくれば良い、みたいなこと言ってなかった?」
「仮に陛下が許してくれようと、部下を死なせて生き延びた人間が、騎士の資格なんて無いと考えているだけです」
ふぅん、と呟くスティア。
「難儀な性格ね」
「……よく言われます」
「まぁ良いんじゃない? 共感はできないけれど、そういう人間は好きよ」
その返答に、俺は驚く。
てっきり、自分の理解できない考えは無下にする人間だと思っていた。
「リオン、何よその顔は。私だって、共感できない考えでも多少の理解を示す程度には、子供じゃないわよ。たしかに子供だけれど!」
「こちらの都合を無視して部屋に押しかけておいて、よく言う」
むぅ、と膨れ顔になるスティア。
ふと時計を見ると、短針は既に12の数字を過ぎていた。
「要件がないなら、もう帰ってくれ。……カルラ、スティアを頼めるか?」
「はい。では、私の部屋に案内しましょう。行きますよ、スティア」
「……ま、今日のところは大人しく帰るとするわ」
「明日来ても同じ結果だからな」
俺はそう言いながら、二人を見送るのであった。




