13話 Sランク冒険者
ゴブリンロードを倒してから1週間後。
最初の頃は祭りのように盛り上がっていたが、流石に1週間も経てば落ち着きを取り戻している。
むしろ今は、冒険者たちは別の話題でもちきりであった。
「なにか妙に冒険者たちが浮足立ってるな。祭りでもあるのか?」
俺とカルラは、ギルドの酒場でのんびりとしながら食事を摂っていた。
「どうやら、この都市にSランクの冒険者が今日にでも来るらしいですよ?」
「Sランクの冒険者が? 何故此処に」
Sランクの冒険者はこの世界に6人しか居ない。
加えて、彼らはこぞって変わり者。
それゆえ、一般的な冒険者が彼らを見ることは滅多に無い。
ゆえにこれだけ話題に上がっているのだろう。
「ゴブリンロードが現れましたからね。ギルド側が調査をSランクの冒険者に頼んだらしいです」
「なるほどな」
一応、俺がゴブリンロードを倒したと言っても、名目上は未だにCランク冒険者(ゴブリンロードの件は、まだギルドの上層部が正式に判断していないので昇格は見送り)。
まあ調査を任されたとしても、魔物の生態に関しては門外漢だ。
Sランクの冒険者に任せたほうが色々と捗るであろう。
「で、今度来るSランク冒険者ってのは、どんな奴なんだ?」
「私も詳しくは知りませんが、メイジであることは確からしいです」
「メイジ、か……」
世間的には、ウィザードの上位互換とも言われている職業。
会えたならば、中級魔法の指南や、魔力量を増加させる方法でも聞いてみるか?
見返りを要求されたとしても、ちょうど良く金ならある。
そんなことを考えた次の瞬間、ギルドの扉が大きな音を立てて開かれた。
「やあやあ、遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見なさい!」
開く音とともに、ギルド内全体に響くほどの大声。
自然と、ギルドに居る全員の視線がそちらへと向く。
「私こそは『災いの魔女』の異名を持つ、最強の冒険者! スティアよ!!」
入ってきたのは、訳のわからない事を言う、妙に顔の整った女性。
フリルが大量についた黒と赤の混じったドレスに、手には日傘。
歳は15ぐらいといったところだろうか。
決して冒険者には見えない出で立ち。
それゆえ殆どの人間が、夢見がちなお嬢様が痛々しい事をしているだけと判断する。
沈黙が訪れたのも束の間、すぐさまギルドは元のざわつきを取り戻した。
「……カルラ。都会ではああいう服装が流行っているのか?」
「いえ、そんな事は無いと思いますが……」
「ふむ……」
全員がスティアと名乗る女性を、ただの痛い娘だと判断する中、俺だけが違和感を覚える。
いや、痛い娘であるのは事実なのだが。
彼女周辺を包む、魔力の流れがあまりにも綺麗すぎるのだ。
全ての人や魔物は、魔力を身体に有する。
それゆえ、普通に暮らしているだけでもそれらは身体から無造作に溢れ出し、魔力の流れに影響した。
しかし彼女からは、それが感じられない。
いや違う……。
彼女は、身体から出る微細な魔力まで、完全に制御しているのだ。
この都市に来て様々な人間を見てきたが、こんな人間は初めて見る。
ちなみにだが、スティアは誰も彼もに無視されているのも気にせず、ドヤ顔のまま何故かこちらに近づいてくる。
「……何か用か?」
俺は、目の前まで来たスティアに対しそう呟く。
「あら? あれだけ情熱の籠もった視線を送ってきておいて、『何か用か』は酷くないかしら?」
先程の口上とは打って変わって、妙に麗しい口調。
「あんだけ目立つ事を叫んで、そんな珍しい格好をしてるんだ。他人に見られることには慣れているだろう?」
「そうね。私の外見を見てくるのには慣れてるわ。……でも、私の魔力だけを見つめてきたのは貴方が初めて」
「……なんのことやら」
スティアの言葉に、俺は顔をしかめる。
どうやれば、俺が魔力の流れを見ていたことに気付けるのだろうか。
何もかもを見透かされている、言い表せない妙な感覚。
「お隣のガーディアンも、相当な手練ね。Aランクでしょうけど、その中でも上位じゃないかしら」
「……褒めていただき、ありがとうございます」
そしてスティアは、ああ、と手を叩く。
「ということは貴方達ね。ゴブリンロードと5体のゴブリンキングを倒したウィザードとクルセイダーの二人組っていうのは」
「……そうだが、お前は一体……?」
「? 自己紹介は済ませたはずよ。私はスティア」
「いや、そうじゃなくて――」
もっと詳しい情報を教えてほしい。
俺がそう言おうとした瞬間、先程まで奥で作業をしていたはずの受付嬢がこちらに対して駆け寄ってくる。
「す、すいません、迎えを出す予定でしたがスティアさんを見失ってしまい……」
「いいえ、気にしないで。そのおかげで、この二人を話せたもの」
「おや、お二人はスティアさんと知り合いなんですか? それなら話が早くて丁度いいですね」
「俺たちは初対面です。何か用ですか?」
「はい。こちら、Sランク冒険者のスティアさんに、ゴブリンロードに関して説明していただければと思いまして」
Sランク冒険者……?
俺は、スティアと受付嬢を交互に見る。
カルラも驚いた様子で、目をぱちくりとさせていた。
そんな俺たちを見てか、スティアは、ふふん、と鼻を鳴らす。
「最初に言ったでしょう? 私は『災いの魔女』の異名を持つ、最強の冒険者。Sランク冒険者なんていう肩書もあるけど、なんかダサいんだもの」
「……まじかー」
Sランク冒険者は変人ばかりと聞いていたが、まさかこんな少女までSランクとは……。
「よろしく頼むわね、ゴブリンロードを倒した者たちよ」
「……あ、ああ。よろしく頼む」
コチラに向けて差し出される手。
俺は持ち前の冷静さ(ただ理解しようとするのを諦めただけ)で、現状を受け入れ、スティアの手を握り返すのであった。




