12話 ゴブリンロード(2)
戦いが始まってから10分後。
「GYAAAAAA!!!!」
「ったく、ようやくか」
我慢比べの結果、先に倒れたのはゴブリンロードの方。
巨体が、大きな音を立てて崩れ落ちる。
俺は油断せず、遠くから魔法を何度も放ち、止めを刺す。
ゴブリンロードから発せられる魔力が消えたのを確認し、俺は肩の力を抜いた。
「た、倒したのか……?」
「ああ。時間はかかったがな」
いつの間にか俺の後ろではなく、だいぶ遠いところに避難していたローウェンが近づいてくる。
てっきりギルドに逃げ帰ったと思っていたが、そうでもなかったらしい。
「後は、カルラの方か」
洞窟内に残してきていたカルラ。
まさか負けては居ないはずだが、あちらも終わった頃だろうか。
俺は洞窟の中に、ふたたび戻る。
「……ん、リオンですか? どうやら丁度そっちも終わったようですね」
声がしたほうを向くと、そこには1人佇むカルラの姿。
辺りにはゴブリンキングの死体が何体も転がっている。
その中心に、ゴブリンの返り血で真っ赤になったカルラが居た。
……なるほど、これが白銀の剣聖か。
普段はそこまで目につかない銀髪だが、こうやって血まみれになった状態だと、彼女の銀髪はこれでもかというぐらい美しく映えた。
ゴブリンキングを何体も相手にしながら、まるで疲れた様子も見せない。
さすがはカルラと言ったところだろう。
「素材の剥ぎ取りはどうする?」
「……そうですね。数が多いので、ゴブリンキングとロードの魔石だけ回収していきましょうか」
「あいよ。ローウェン、手伝ってくれるか?」
「……はぁ。テメェらに全部任せちまったんだ。それぐらいは有り難くやらせて貰うさ」
何故だかローウェンは呆れた表情をしていたが、無視する。
そして、全ての魔石を回収した俺たちは、ギルドに戻ることにした。
その後、カルラが浴びた返り血を水魔法で洗い流したりとしている内に、ギルドに着いたころにはもう夕方になっていた。
「リオンさん、カルラさん、この魔石は一体……?」
受付嬢に依頼の証として魔石を渡すと、何だこれはという顔をされる。
「剥ぎ取ってきた魔石ですが?」
「大きすぎませんか!? あと数も!!」
ゴブリンの魔石の大きさは親指と人差し指でつまめる程度。
それに対し、ゴブリンキングはこぶし程度。
そして、ゴブリンロードの魔石は片手に乗せられないほどの大きさだった。
「ゴブリンキングが5体に、ゴブリンロードが1体です」
「キングが5……? というかゴブリンロード!?」
何を言っているんだという表情になる受付嬢。
「受付嬢ちゃん、コイツラが言ってるのは事実だ。受け入れがたいかも知れねえけどな」
「いや、ゴブリンキング1体でもAランクの冒険者が1人必要で、5体も居たら徒党を組まないと……。いや、でもカルラさんなら出来る……? っていうか、ゴブリンロードって何ですか! ゴブリンロードって! そんなの文献でしか読んだことが無いほどの伝説級ですよ!? Aランク何人集めれば倒せるんですか!!」
「リオンの野郎が1人で倒しやがった」
その返答に、受付嬢は、ふらぁ、と床に崩れ落ちる。
「嘘だと思いたいです……。ですが、渡された魔石は見たこともないぐらい大きいですし……」
「まあ、ゴブリンロードは確かにだいぶ苦戦しましたね」
「倒せること自体がおかしいんですよ!!!」
そこはまあ、相性が如実に出てしまった結果なので仕方ない。
仮に、ゴブリンロードがもっと詠唱が早い、もしくはこちらの干渉すら防ぐ結界魔法を覚えていたら俺は勝てなかっただろう(その場合は、戦わず真っ先に逃げるが)
「それで、報酬は?」
「ゴブリンロードの討伐に関しては、上の協議した上で支払います。問題は、こちらの魔石ですね……」
「何か問題が?」
「これだけ大きいと、値段が値段ですからね……。まず、買い手が付くかどうかすら怪しいレベルです。ですが、仮に売れたとしたら白金貨10枚は固いかと……」
「白金貨?」
聞いたことのない硬貨だ。
しかし、隣ではカルラが驚いた表情をしていた。
「白金貨ですか……」
「価値的にはどんなもんだ?」
「そうですね……。それだけあれば、この都市の大通りに店を構えられるぐらい、でしょうか」
「……魔石一個でそんなにするのか?」
「しますよ! というかリオンさんは自分のしたことの大きさを分かってください!」
「そうは言われてもな……」
時の牢獄レベルの事が起きない限り、どうも驚きが薄くなってしまった。
「どうします? 冒険者を引退してお店でも経営しますか?」
「馬鹿言え。俺が店を経営しても、1ヶ月で潰す自信があるぞ」
「ふふ、では今まで通り冒険者を続けますか」
「当然だ」
今は金よりも、自分の実力を上げるほうが何倍も興味があった。
と、俺たちが騒いでいたのが周りにも聞こえていたのか、段々と辺りが騒がしくなってくる。
「おい、あのウィザードがゴブリンロードを倒したらしいぞ」
「ゴブリンキングなら知ってるが……」
「その更に上らしい。報酬も白金貨10枚らしいぞ」
「白金貨!? 金貨じゃなくてか!?」
「俺、白金貨なんて見たこともねえよ……」
最初は好奇の目だったが、白金貨10枚の言葉のせいか、どうも殺気立って来てる気がする。
……はあ。ま、そんな大金持ってても意味がない。多少は慈善事業にでも金を使ってやろう。
「おいお前ら、今日は俺が全部奢ってやる! 好きなだけ飲んで好きなだけ食え!」
俺がそう叫ぶと、次の瞬間ギルド内が歓声で湧く。
がめつい奴らは我先にとカウンターに注文へ行き、既に酒を飲んでいた連中は、再び乾杯をして更に騒がしくなる。
それを見てか、カルラは嬉しそうに笑う。
「やはり、民は平和が1番ですね」
「冒険者なんて言うならず者を民に含めて良いのか?」
「良いんですよ。彼らも、この国の一員です」
心底嬉しそうなカルラ。
そんな彼女を見て、俺は口を開く。
「なあカルラ」
「はい、何でしょう?」
「お前って昔は――」
何をしていたんだ、そう聞こうとしたが、思いとどまる。
俺も自分のことを全て伝えているわけではない。
なのに、他人の過去をほじくり返す権利なんてないだろう。
俺は言おうとした言葉を飲み込む。
「……。いや、何でもない。忘れてくれ」
「?」
不思議そうな顔をされるが、ごまかす。
「さて、俺たちも飲むとするか」
「そうですね」
そう言って、俺たちも騒がしい輪の中に加わるのであった。




