11話 ゴブリンロード(1)
「さて、どうする? このまま俺が全員担当しても良いが」
「あまりリオンばかりに任せるのもなんですから、私も手伝いましょう」
「お、おい、お前ら、何を呑気に……」
ローウェンだけが取り乱している中。
突然ゴブリンキングたちが、何者かにかしづくかのように、膝を付き、頭を垂れた。
それと同時に、奥からマントを纏い、首飾りと杖を装備したゴブリンキングが出てくる。
……いや、あれは本当にゴブリンキングなのか?
「ゴブリンってのは、随分と多種多様なんだな」
「……あれは、ゴブリンロードでしょうか?」
「ロード?」
「はい。ゴブリンキングの更に上位種です」
キングの更に上位種が居るのか。
となると、ゴブリンロードの上も居てもおかしくないな。
その場合の名前は、ゴブリンゴッドか?
「に、逃げるぞ! キングだけでもこんだけ数がいるのに、その上位種なんて……! ギルドに戻って大量のAランクを集める、もしくはSランクを呼ばねぇと……!」
「そう焦るな。とりあえずは――」
俺は、ヘルハウンドのときのように、ゴブリンロードの口内に、氷魔法を使用する。
どれだけデカイ図体をしてようと、体内までは頑丈ではないはず。
ゆえにどんな化け物であっても、それは常に必殺の一撃。
――に、なるはずであった。
「GIA!?」
ゴブリンロードは、叫び声を上げるだけで倒れない。
なにより、頭を貫き、脳にまで達したはずの氷が、見当たらないのだ。
「……これは驚いた。ゴブリンロードってのは、体内まで頑丈なのか?」
「そのようですね、……っと!」
ゴブリンロードの叫び声を皮切りに、ゴブリンキングたちも動き出す。
カルラは、それをなんてこと無いように避けるが、いかんせん数が多い。
加えて俺の魔法で殺せないロードが居ると来た。
流石に、両方を一緒に相手するのは面倒だ。
「……カルラ。ロードとキング、どっちを担当したい? 俺としては、ロードがどんなもんか知りたくはあるんだが」
「了解しました。では、私がゴブリンキングを請け負います」
「感謝する。俺はローウェンと一緒にロードを外に引きつける。カルラはキングたちを押さえつけてくれ!」
「何を言って……」
俺は未だに現状を理解しきれていないローウェンを腕に抱え、洞窟の外へと走り出す。
攻撃を食らって闘志が漲っているゴブリンロードは、当然俺を追いかけてくる。
そして、それを追いかけるようにゴブリンキングたちも動き出す。
が、それを遮るように、カルラが立ちふさがる。
「リオン、此処は任されました。死なないでくださいね!」
「善処するとしよう」
それだけ言って、俺はゴブリンロードを引きつけながら、洞窟の外に出た。
洞窟を出ると、俺はローウェンを離し、ゴブリンロードと相対する。
「くそったれ! 俺は隠れているぞ!」
流石のローウェンも、俺たちが戦うことを選んだのが分かったのか、もう逃げようなどとは言わない。
「……改めて見ても、中々イカツイ姿だな」
ゴブリンキングと同レベルの大きさに、何処で手に入れたか知らないマントと首飾りに、杖。
俺は先手必勝とばかりに、先程とは違い火魔法を使用する。
――が、
「GUAAAAAAAAAAAA!!」
「火も駄目、か」
痛みから叫んでいるのかは知らないが、ゴブリンロード倒れる様子がない。
ダメージを与えているようだが、はて、あと何発ぐらい必要か。
「GRUAA!!」
「……ッ! 魔法か……!?」
ゴブリンは杖をコチラに対してかざす。
魔力の集中を感じ、俺は咄嗟に飛び退く。
次の瞬間、轟音と共に俺の横を大きな熱の固まりが通り過ぎるのを感じる。
「……あ、あ」
「これは凄い」
俺が先程まで居た場所は、辺りの木々を全て巻き込んで文字通り『焼失』していた。
近くの木の後ろに隠れていたローウェンは、それを間近で目撃したようで腰を抜かしている。
中級魔法……、いや、これは上級魔法か?
なんにせよ、こちらが火力不足で倒せないのを悩んでいるというのに、大したものだ。
1人なら避けれないこともないが、俺は後ろで腰を抜かしているローウェンを見やる。
さすがに、コイツを見捨てる事は出来ないか。
である以上、もう魔法を避けるということは選択肢から無くなる。
「GUAA!!」
「チッ、相変わらず硬いな」
幸いにしてゴブリンロードは魔力を大量に持ち、口内であっても初級魔法程度ならば何度撃っても枯れない程度の魔力がある。
それでも、絶えず動き続けるゴブリンロードを補足し、的確に口内へと魔法を連射するには、若干のタイムラグがあった。
後何度魔法を使えば、目標が沈黙するかは分からないが、最低でも5発は必要だろう。
ゆえに、コイツを倒しきるまでに後1回は、確実にあの上級魔法を受けねばならない。
「GRYAA!!」
再び、魔力の集中を感じる。
今度は避けることが出来ない。
ゴブリンロードは特段、画期的な作戦というものを使っていない。
抜きん出た防御力と、ダントツの攻撃力をもって相手を蹂躙する。
変な小細工が無いからこそ対策できなく、その強さは圧倒的だ。
並の冒険者では歯が立たず、ローウェンが必死に退却を呼びかける理由もわかる。
――ただし、今回は相手が悪すぎた。
「悪いな。お前と俺じゃあ相性が酷すぎる」
杖の先に集まった炎が放たれようとした瞬間、何事も無かったかのように炎は霧散する。
「GUA……?」
それに対し、ゴブリンロードは何が起きたという顔になる。
魔法というのは、体内の魔力を集中させ、詠唱によって作られるもの。
では、その魔力が発動する瞬間に、なにかの干渉によって一部奪われたらどうなるであろう。
答えは至って簡単。
魔法は適切な魔力と詠唱があって完成するものだ。
それを遮られたのであれば、霧散するのが道理。
つまるところ――
「もう俺に、同じ魔法は使えない」
「GUAAAAAAA!!」
魔法を撃つ際に出来た隙に、俺は再び魔法を使用する。
……格好つけて言ったにしては、俺もゴブリンロードをすぐには倒しきれないんだよな。
ゴブリンロードは、再び魔法を使おうとするが、俺は先程と同じように妨害した。
火魔法を使用してゴブリンロードにダメージを与えながら、俺はため息をつく。
「おい、ゴブリン。こっから先は、オマエが死ぬか、俺が妨害をミスって死ぬかの我慢比べだ。せいぜい気張れよ」
300年までなら我慢してやる、そう心のなかで呟きながら。




