14話 スティアの目的
その後、俺たちは受付嬢に案内されるがまま、奥にある部屋へと通される。
3人がけのソファーが2つに、テーブルが1つ。
俺とカルラ。そして向き合うようにスティアと受付嬢が座った。
「改めて自己紹介をしておこう。俺はリオン。職業はウィザードだ」
「私はカルラです。職業はガーディアンです」
「我が名はスティア。職業はメイジよ。呼び方はスティアで良いわ。こっちも呼び捨てで言うから」
軽い自己紹介を済ませると、スティアは興味津々と言った感じで俺を見てくる。
こう言うのもなんだが、何度見ても少女にしか見えなく、Sランクには決して思えない。
「うーん、何度見ても不思議ね。どうやって貴方がゴブリンロードを倒したのかしら。魔力量だけを見るなら、ゴブリンキング……、いや、10体のゴブリンに囲まれただけでも負けそうなのに」
「……企業秘密だ」
「あら、つれないわね。ま、そのうち分かるでしょ。どうせこれから一緒に仕事するんだもの」
「一緒に仕事……?」
俺はその言葉を聞いて、受付嬢の方を向く。
そんな話は1ミリたりとて聞いていない。
「すいません、リオンさん。本当はもう少し早くお伝えしたかったんですが、何分ゴブリンロードの魔石の売却先で立て込んでまして……」
「……はぁ。わかりました。それで、詳しい内容は?」
「はい。今回、スティアさんをこの都市にお呼びした理由は、ゴブリンロードが出現したことに関する調査となっております。ですが――」
「依頼を受ける代わりに、私が条件をつけたのよ。そのゴブリンロードを倒した人間と一緒なら、調査をしてあげるって」
……つまり、俺たちは無理やり巻き込まれたということか。
Sランク冒険者に対しては、ギルド側も頭が上がらない。
である以上、この要求を断るわけにもいかなかったのだろう。
「なるほど。事情は理解しました。……で、スティアは何故俺たちを?」
「興味があったからでは駄目? ウィザードがゴブリンロードを倒すなんて面白そうな話、私としては見逃せなかったの」
面白そうな話、か……。
「だが、俺は魔物の生態に関する知識は無いぞ。一緒に仕事をしたところで、調査の助けになるとは思えないが」
「いいえ、それは大丈夫よ。貴方に頼みたいのは、魔物退治だもの」
「魔物退治……?」
わざわざSランク冒険者に頼まれる魔物退治とは何だろう。
少なくとも、この辺りでそんな魔物が出現したなんて言う話は聞いていない。
「そ。ただ、その為にもちょっと許可を取らないといけないのよね」
「ギルドからでしたら、出来る限りの協力はさせて頂きますよ」
「ああ、ギルドからじゃ無いわ。欲しいのは、もっと別の許可」
「と、言いますと?」
少しだけ一呼吸を置いて、スティアが答える。
「此処の領主の許可よ」
「領主……? 何をするって言うんだ?」
「ダンジョンの6階層より下を調べるのよ」
6階層より下だと……?
その答えに、俺は顔をしかめ、受付嬢とカルラは呆然とした顔になった。
ダンジョンの6階層より下は、地獄である。
それは、この付近では当然の常識となっており、俺もカルラから聞いた。
一度だけ覗こうとしたこともあるのだが、5階層と6階層を繋ぐ階段は、厳重な結界が施されており誰も立ち入れない。
1ヶ月に1度は結界の補修作業がされるほどの徹底ぶり。
目的は6階層の化け物が5階層に上がってこないようにするため、と言われている。
ゆえに6階層に行くためには、その結界を破らねばならない。
だが結界を管理しているのは、ギルドではなくこの地域一帯を支配する領主。
そのため、6階層に行くには領主の許可が必要なのだとスティアは言う。
「で、どうして俺たちまでそれに付き合わされないといけないんだ」
許可を取るのは、ギルド側からだけの働きかけでは無理らしく、スティアが直接交渉することとなった。
……何故俺まで付き合わされているのかは知らないが。
「良いじゃない。別に減るものじゃないでしょう?」
「時間とか色々なモノが減っている気がするが」
俺とスティアは、そんな事を言い合いながら領主の館を目指す。
カルラは準備をしてから行くとの事で、後から合流する手筈だ。
領主の館は、この都市の中心に位置する。
その大きさは都市の外からでも視認できるほど。
これだけ栄えている都市だ。領主の懐もさぞかし潤っているのだろう。
「許可は問題なく取れるのか?」
「取れなかったら、許可なく6階層に降りるだけよ」
「結界が施されているはずだが?」
「私に壊せない結界なんて無いわ」
「……良いのか?」
「魔物を討伐しようとして、『つい狙いがそれて結界に当たった』っていうなら仕方ないんじゃないかしら。だって事故だもの」
……事故という言葉の概念が崩れてしまいそうである。
が、この少女ならやりかねない。
というかやるだろう。
呆れながら目的地まで歩いていると、ようやく館の門までたどり着く。
門の前には鎧を着た門番が立っていた。
俺たちを見つけると、怪訝そうな顔をする。
「そこの二人組、止まれ。領主様の館に何の用だ」
「あら? ギルドから冒険者が会いに行くっていう話が来てない?」
「……話は聞いているが」
そう言って、俺たちを見る。
「話では、女性のSランク冒険者が来ると聞いている。……まさか、お嬢ちゃんがSランク冒険者とでも言うのか?」
「ふふ。まぁ、そう思うのは仕方無いわ。なにせ、この姿は仮の姿だもの」
「……そうだったのか?」
初耳だ、と俺はつぶやく。
たしかにまあ、この若さでSランク冒険者というのは驚きだったが、仮の姿というのは別の意味で驚きである。
そんな魔法があるのすら知らないが、Sランクである以上、超常現象の1つや2つは起こせるのであろう。
「本来の歳は、100を超える大魔道士。けど、今は魔力を失って少女の姿まで戻ってしまっているの」
「100を超える大魔道士……?」
その言葉に、俺と門番は驚きの顔を浮かべる。
「という設定ね。実際はピチピチの15歳よ」
「……よし、わかった。お前を館に入れてやろう。ただし行き先は牢屋だがな」
「俺も協力するぞ、門番さん」
「ちょっ、何よ! ジョークよジョーク! 離しなさい!」
「……何をしているんですか、貴方達は」
俺たちが茶番を繰り広げていると、遅れてきたカルラが追いつく。
「か、カルラ様! 実は今、Sランク冒険者を名乗る怪しい少女を捕らえまして……」
カルラ様?
門番がそう名乗ったことに若干の違和感を覚える。
「様を付けるのは止めてください。それと、その少女がSランク冒険者なのは事実です。ギルドカードを確認すれば分かることでしょう?」
「へ、ほ、本物なんですか……?」
スティアは掴まれていた手を振り払い、ドレスのポケットからギルドカードを取り出す。
「こ、これは失礼いたしました……! すぐ上の者に連絡させて頂きます!!」
「分かればいいのよ、分かれば」
「……いや、これに関しては訳の分からない事を話し始めたスティアが悪いだろ。というか、カルラは此処の門番と知り合いだったのか?」
ん、ああ、とカルラは言いづらそうに答える。
「そういえばリオンには言ってませんでしたね。私は、元々此処の領主に仕える騎士だったんです」




