預言者 その一
某月某日。いつものようにシロウの書斎に呼び出された私とマスターは、シロウから封筒を受け取っていた。飾り気のない白い封筒。どうやら学術都市シャーロットの教育機関からの手紙のようだ。中を見ていいか許可を取り、中身を確かめてみると……。
「……招待状?」
「そう。年に一度シャーロットで開かれる学会……というか意見交換会だな。それの招待状だ。魔法に詳しい有識者が集まってくだを巻く集まりだよ」
「……で、それがどうしたのよ。呼ばれたのなら行けばいいじゃない」
魔法に関する学会というのは興味をそそられるが、私が行っても仕方がない部分がある。魔力制御に長けていると言っても、私のそれはほとんど――全てと言ってもいいくらい独学である。つまりは人と議論できるレベルではない。
非常に頭の悪い説明だが、フンッと力を入れてぐわーっって感じ、みたいなやつである。そもそも他人に説明することを想定していなかったので、感覚頼りなところがある。
まあ、そういう意味では学会に顔を出してみたいという気持ちはある。最近、魔力制御の腕前は頭打ちになってきた感覚はあるし、理論立てて基礎から学び直せば新しい発見があるかもしれない。
「俺は忙しいから、お前ら興味あるなら代わりに出てくれ」
そう言いながら眼鏡を拭くシロウの顔には、わずかだが疲労の色が見える。こいつもこいつで何やらやっていたようである。何をやっていたのかは想像できるが――まあ、ある意味シロウの自業自得である。存分に働いてもらわなければならない。
「代わりに出るのは構いませんけど……シロウさんは何を?」
「残り六本の魔剣回収の準備だよ。ちなみに四本が絶賛行方不明中だ」
「アンタね……」
おそらく『星が落ちた日』の影響なのだろう。外から来た何かが、魔剣と融合するなり持ち出すなりした結果、捕捉できなくなったというところか。
「そういうわけで、魔剣については俺が調べておくから、その間お前たちは魔法について勉強するなりしてくれ。学会が終わることにはこっちも何かしら進展があるだろう」
「僕たちはいいですけど……あの、手伝わなくても良いんですか?」
「人手は足りているよ。俺とナナミ、それから精霊剣の三本も使えば十分だろう。アズールとセイブルと……マシコットか。スノーホワイトはそっちで預かってくれ」
おい。さりげなく厄介なものを押し付けるな。恋愛脳を学会に連れていってどうしろというのだ。
「学会で役に立つかどうかはさておき、単純に護衛として連れていけば良いだろう。お前らのことだし、どうせ厄介ごとに巻き込まれるからな」
「……微妙に反論しにくいことを言わないでちょうだい」
マスターもどこかバツが悪そうにしている。実際、行く先々でトラブルに巻き込まれているのだから反論しようもない。ここで「私とマスターがいればそれで十分よ」と言えればいいのだが、最近の傾向を見るに強く言えない部分がある。
戦力は多いに越したことは無い。いや、戦いに巻き込まれるの前提で話すのもおかしい気がするが。
「ちょっと行ってすぐ帰ってくるだけですから、そうそう大事にはなりませんよ」
「ナナミ。あのね、そういうところよ」
タイミングよくお茶菓子を持ってきたナナミが、いつものようにフラグを立てるような発言をする。なんというか、これはもう何かが起きることが確定したようなものではないだろうか。
ふと見れば、白髪の少女――スノーホワイトも入室していたようである。相変わらず恐ろしい目つきをしているが、その内面は恋バナ大好きなんちゃって悪役令嬢である。
そういう設定、である。
「……スノウ、今日は大人しいじゃない。いつもなら私たちの関係を煽ってきそうなものだけれど」
「ええ、まあ。お望みなら煽り倒してもよろしいのですけれども、最近は順調に関係も進んでいるようなので、ここは大人しく見守るのもありかなと」
「その心は?」
「早くどっちか押し倒さないかなーと」
小さい火球をスノウに向かって投げつけるが、当たり前のようにかわされた。この辺りはただのじゃれ合いのようなものである。当然、壁や床に当たる前に消火することは忘れない。
「相変わらず無駄に洗練された魔力制御ですわね……。私もそれなりに自信はありますけれども、ここまでのレベルではありませんし」
「まあ、ね。私のアイデンティティだし、あまり簡単に追いつかれても困るわ」
というか、魔力制御の分野で誰かに後れを取ったら私の存在価値が危うくなる。ゆえにそこだけは死守しなければならない。なんとしても。絶対に。
スノウがぱんぱんと自身のタイトスカートについた埃を払う。私の魔法の影響ではないと思うが――場の仕切り直しの意味もあるのだろう。わざとらしい咳ばらいまでつけている。
「どうしても二人きりが良いというのなら私は留守番をしていますが……手持無沙汰になるのも嫌なので、できれば同行させていただきたいものですわね」
さすがに、そういう言い方をされれば同行を拒否するのは難しい。というか、これで拒否したら独占欲丸出しの醜い女にしかならないではないか。
「僕は構わないけど……」
「……私だって構わないわよ。ええ、ちっとも気にしないわ」
ええい、口元に手を当ててにやにやと笑うな。言い返したい気分ではあるが、どうせ泥沼になることは目に見えているので沈黙を選ぶ。
たいして準備することもないため、シャーロットに向けて出発しようとしたところで、ふと思い出したようにシロウが呟いた。
「そうそう、例によってシャーロットでも死人が出る事件が起きているみたいだから気を付けろよ」
「……はいはい、今回はそういう話ね。それで、どんな事件が起きているのかしら」
十中八九、事件の元凶と対峙することになるのだろう。仕方ない。せめてヒントでも聞ければいいのだが。
「くだんって知ってるか?」
「……半人半牛の、必ず当たる預言をして死ぬ妖怪でしたっけ」
そうそれだよ、とシロウは肯定する。
「今回は牛の化物じゃないみたいだから厳密に言えばくだんではないんだが、要は人の死を予言する生き物が出没しているらしい。穏やかじゃないよな」
次回の投稿は11/9(金)を予定しています




