毒の魔剣 その五
後日談。今回の後始末について話そう。当初の目的通り私たちは毒の魔剣を破壊し、よそから来たと思われる竜を討伐したわけだが―――それなりに被害は出た。
出ていた、というべきだろうか。竜が練り歩いた結果、辺りにまき散らされた毒素が原因で多くの動植物が死んでいた。幸いにも人に被害は出ていないようだが、放置して行くには森へのダメージが大きすぎる。
そういうわけで、アズールを呼び出して修復作業をさせているのであった。
「なんか僕、オチ要因にされてない?」
「気のせいよ。あなただけが頼りなんだから、頑張ってちょうだい」
適当に言ってるねぇ、などと文句を言いながらも仕事はきっちりこなしている。まあ、なんだかんだでこいつも精霊剣である。人のため、世界のためならば労力は惜しまない。アズールが手をかざせば、森林がみるみるうちに再生していく。
「相変わらず手際が良いね」
「褒めても頑張ることしかできないぜ。あと十分くらいで作業は終わるだろうから、それまで適当に時間をつぶしていてよ」
マスターがアズールの魔法の腕を褒めているが、肝心のアズールはどこ吹く風といった様子である。いや、よく見るとパーカーで顔を隠すようなしぐさをしているような気もするが――気のせいということにしておこう。
「修復作業はアズールに任せるとして、気になるのはやっぱり――」
「竜の死体ですね」
私の言葉にナナミが答える。そう、竜の死体である。倒したはずなのに死体が消えない。当然、魔石にもなっていない。
「これを見ると、やはり魔物ではないのでしょうね。外から来た生き物。そういう生物、なのかしら」
「……『星が落ちた日』の目撃証言はまだまだあります。その、言いにくいのですが」
「こういうのが他にもいるということでしょ。わかるわよ……」
わかりたくはないが。実際、今回の戦いは結構ぎりぎりの勝利だった。偶然雷が落ちてこなければ、竜を取り逃がしていたかもしれない。その場合、私も一緒に連れ去られてしまうのだが。さすがにしばらく待てばマスターたちが助けに来てくれたとは思うが、まあ、倒せるにこしたことは無い。
あの竜は何をしたかったのかも結局わからない。そう考えるとわからないことだらけである、どこから来たのか。何が目的だったのか。どういう生態だったのか。
考えても栓のないことではあるが。
「鱗とか牙とか回収した方が良いのかな? 何かに使えたりしないかな」
「そのあたりはシロウに聞いてみないと……アイツは来ていないのかしら?」
「もう少ししたら来るって言ってたよー」
アズールがこちらを見ずに答える。淡々と作業をしているようだが、こちらの会話も聞いていたらしい。迂闊なことを言っていたらややこしいことになっていただろう。
「牙にしろ鱗にしろ、結構な大きさがあるわね。採取するのも大変だし、持ち帰るのも……まあ、そもそも何かに使えるのかどうかもわからないけど」
「魔石ならば色々と使い道はあるのですが、これはどうでしょうね。魔力を帯びているわけではないようですし……と言っている間にシロウ様が来ましたね。聞いてみましょうか。……教えていただけるかどうかは別問題ですが」
振り返れば、シロウがこちらに歩いてきているのが見える。気だるそうに自身の黒髪をかき上げているところを見るに、まさか寝起きなのだろうか。
「お疲れ。大変だったみたいだな」
「ええ、まあ……取りあえずはなんとかなったけれども」
「万が一と思ってお前らを寄越したんだが、正解だったみたいだな。運が良いのか悪いのか微妙なところだが、人的被害は出てないから良しとするか」
実際、森林への被害はアズールが直しているので、実質的な被害は動物が数頭犠牲になったくらいだろう。被害規模としては非常に小さい。
「他にもこういうのがいるかもしれないんですよね……。なんというか、旅が終わった気がしませんね」
「延長戦みたいなものだがな。原初の魔物を倒した時点で少年の役目は終わっているから、正直ここから先は関わらなくても良いと言えば良いんだが」
「今更、ですよ。それに、メルと一緒にいたいなら無視できる問題でもないですし」
マスターの言葉になんだか照れ臭い気持ちを感じる。一緒にいることが前提となっているというか――まあ、私から離れるつもりもないのだが。
離れられないともいう。物理的な意味でも。
「確かに、話を聞く限りだと無視できる問題でもないな。こりゃ他のも回収しておいた方が良いか」
「……え?」
こいつ今、なんて言った?
「シロウ、私の聞き間違いかしら。他のって聞こえた気がしたのだけれど」
「他の、と言ったからな。スペアプラン用に作った魔剣は全部で七本あるんだよ」
「あと六本もあるの?!」
一本だけで大変だったのに、これをあと六回も繰り返せというのか。なんなんだこいつ。実は世界滅亡を目論んでいたんじゃないのか?
「……ええと、その、頑張ろうか」
「……そうね。頑張るしかないわね……」
こうして、残る六本の魔剣や外から来た生命体との戦いが続くわけだが。
それはまた、別のお話である。
次回の投稿は11/2(金)を予定しています




