↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
74/78

毒の魔剣 その四

 「……炎よ」


 多少のリスクを無視してでも、まずは竜の注意を引くことにした。なにはともあれ、竜の行進を止めなければならない。もし村まで攻め込まれたらどうなるかなど、考えるまでもない。


 多少雨が降っていようと、私の炎が出せなくなるわけではない。いつものようにマスターから魔力をもらい、いつものように魔法を使ったがーーいつものように勝利、とはいかなかった。


 「……確かに全力ではなかったけれど、無傷というのはショックね」


 私の手から放たれた火球は竜の首筋に狙い通り着弾した。したが、それだけだった。薄い焦げあとがあるような気もするがーー誤差みたいなものだろう。


 「鱗が固くてダメージが通っていないね。柔らかそうなところというと……口か目かな?」


 マスターが口元に手をやりながら呟く。アドバイスというよりは独り言だろうか。マスターも魔物との戦いをいくつか経験しただけあって、こういうときのパターンは理解しているようである。


 「それじゃあ、派手なやつでこっちを見てもらいましょうか」


 イメージするのは弓を射る場面。もっとも、前世も今世も弓道などやったことはないので、本当にイメージするだけなのだが。大切なことは事実に則しているかどうかではなく、自分が想像しやすいかどうかだ。


 自分の妄想を押し付けて、現実を上書き(・・・)するのが魔法の本質だ。想像力が、そのまま魔法を創る力になる。


 要するに、寝る前のベッドの上が遊び場だった私(オタク)には、これ以上ない魔法の適正があるという話だ。


 「……炎よ」


 私の左手と右手の間でぎちぎち(・・・・)と音を立てて限界まで引き伸ばされた魔力が、一息に放たれる。


 着弾、爆発。目が眩むような閃光と、一瞬遅れて炸裂音が響く。


 「さすがメル様ですね……これだけの爆発、奴も生きてはいないでしょう」


 「あなた、わざとやってない?」


 ナナミがフラグを立てたせいーーとは言わないが、案の定、竜は健在だった。


 いつの間にかもや(・・)から出ていた竜の腕が、私の魔法を叩き落としていた。


 「……ひょっとして、時間をかけると竜が完全体になって状況が悪くなるやつかな?」


 マスターが言うように、おそらく時間がたつほど竜がもや(・・)から出てくるだろう。つまり。


 「今のうちに叩くしかないわね」


 問題はその方法である。いくつか思い浮かびはするが、やはり接近しなければ決定打は与えられないだろう。


 触れれば死ぬもや(・・)を掻い潜らなければ勝機はない。


 「おそらくではありますが、黒いもや(・・)ならばなんとかなります」


 「聞くわ。話してちょうだい」


 「触れれば腐るという特長は、毒の魔剣の一部と一致します 。ですから……」


 「魔剣を引き抜けば無効化できる、かな?」


 マスターが確認すれば、ナナミは頷いた。魔剣の特性と竜の生態が混ざった結果があれならば、魔剣を取り除けば黒いもや(・・)による即死能力は封じることができる。


 「かもしれない(・・・・・・)ってだけよね。危険すぎるわ」


 「だとしても、試す必要はあります。どのみち今の状況では近付くことすらできません」


 「……矛盾しているわよ。近付けないから困っているのに、剣を抜くために近付くなんてーー」


 「ええ。ですから、ここから狙撃します(・・・・・・・・・)」


 そう言ってナナミは拳より大きいボールを取り出した。普段から銃弾を生成して発射しているが、それの応用だろうか。


 何をするのかと思えば、ナナミは取り出したボールを垂直に、高く放り上げた。ワンテンポ遅れてナナミ自身も全身のバネを使って高く跳躍する。


 左手は前に、右手は頭のやや後ろに構えている。それはまるでーーいや、まさか。ここからどれだけ距離があると思ってるんだ。


 ナナミが腕を振り抜くと、轟音と共にボールが発射される。風を切りながら、一直線に。


 竜はーー反応しない。気づいていないということはないだろう。自分を狙っていないから無視しているのか、驚異と思っていないのか。


 とにかく、ナナミの攻撃は無事に命中した。魔剣の核にヒビが入り、砕け散った。


 「さて、これでどうなるかだけど……」


 変化は現れた。黒いもや(・・)が凝縮し、地面に水溜まりのように広がる。


 好機である。不安はあるが、攻めるならここしかない。


 マスターが地面を蹴り、竜へ近づく。ただし、竜の方も黙ってはいない。すでに両手を地面から出していて、さらにあれはーー翼か。巨体にふさわしい大きさの翼を広げようとしている。


 こいつ、飛ぶ気だ(・・・・・・・・)。


 「その前に、倒さないとだね」


 マスターが大きく跳躍し、まずは竜の片手に乗った。そこから一気にかけ上がる。目的は、竜が唯一防御した場所。


 「狙うなら……目しかないわ」


 竜の全身は固い鱗に囲まれているが、さすがに目はむき出しのままだ。剣(わたし)でも貫けるはずである。


 強い雨が頬を打つが、気にしている暇はない。雷鳴が私たちを追いたてるように響く。


 竜が二、三度腕を振り回すが、叩き落とされる前にマスターが竜の眼球までたどり着いた。


 剣(わたし)を振り上げ、思い切り突き刺す。さほど抵抗はなく、深々と剣(わたし)が竜の眼球を貫いた。


 追撃をしようとしてーーアクシデントが起きる。


 「しまっ……」


 戦いの前後から雨が降っていた。だからこそ、竜が激痛に身をよじらせた時にマスターは足を滑らせてしまった。


 そのままマスターは落下してしまう。とっさに手を伸ばしたが間に合わない。こういうとき、自分の身体能力の低さが恨めしくなる。


 竜はすでに翼をはためかせ、空を飛ぼうとしている。このままでは逃げられるーーというか、身動きのとれない私ごと移動されてはまずい。


 もう一押し。竜にダメージを入れられるものが何かあれば。


 そう思った瞬間、轟音と衝撃、そして閃光が私を襲った。


 一瞬遅れて状況を理解する。


 「……雷が、落ちたの……?」


 確かに、雷雲が近くまで来ていた。竜が空高く飛ぼうとした瞬間、避雷針(わたし)目掛けて雷が落ちたのだろう。


 たまたま。偶然。


 シロウに打ち直してもらったおかげか、私の体に影響はなかった。少し目舞いはするが、時間がたてばなおるだろう。


 竜の方はーー息絶えていた。落雷の衝撃は剣(わたし)を通じて伝わっていたのだから当然と言えば当然か。


 「取り敢えずは、助かったのかしら」


 ふと気づけば雨はやんでいた。うるさかった雷もどこかへ行ってしまったようだ。


 しばらく待っていれば、マスターの声が聞こえてきた。どうやらあちらも無事だったようである。


 雲の隙間から漏れた光が、マスターとナナミを照らしていた。軽く手を振り、私の無事をアピールしてやる。


 こうして私たちの魔剣回収作業は終わった。

次回の投稿は10/26(金)を予定しています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。