預言者 その二
学会は明日の早朝から始まるため、僕たちはシャーロットの宿屋に前日入りすることにした。まあ、移動用の魔法があるため前日から待機する必要はないと言えば無いのだが、メルがシャーロットの図書館で勉強したいというので一足先に現地に行った方が都合が良いという話である。
そんなわけで再び学術都市シャーロットに来ている。印象は前に来た時とあまり変わっていない。静かな町並みに、まばらな人影。年齢や服装がまちまちなのもこの町の特徴である。
そういえばそこのカフェで買い物をしたことがあったな、などと思いながらしばらく歩くと目的の図書館に到着した。学術都市というだけあってそれなりに大きい。
「上から二段目の……そう、その赤い背表紙の本を取ってもらえるかしら」
「これだね。下巻もあるみたいだけど、どうする?」
「取りあえずはやめておくわ。使えるかどうかもわからないし……」
そう言いながらメルはかなりの早さで本を読み進めていく。一ページ一秒程度で読んでいるようだが、それで内容を把握できるのだろうか。
できるのだろう。メルならば。魔法に関することならば超の上に超を三つ重ねても足りないくらいの超一流の精霊剣なのだから。アズールあたりなら「精霊剣の皮をかぶった化物」と言うのかもしれない。
その辺りの感覚も、さすがにわかってきた。魔法を使うたびに、魔法を理解するたびに、メルの正確さと早さは異常だと実感できる。
本人は「できて当たり前」の感覚なのだろう。それだけの時間を費やしているのは事実だから、当然と言えば当然なのかもしれない。
僕も勉強用の本でも見つけようかと思ったけれども、元々勉強をするタイプではなかった上に、メルが近くにいるので集中できないことは明らかだった。
絹のような白い髪とか。傷ひとつ無い褐色の肌とか。勉強用にかけている眼鏡とか。まあ色々と気になるものが多い。
「こんなもので良いかしら。あとは宿でゆっくり読むとしましょう」
結局五、六冊の本を見繕い貸し出しの手続きを済ませる。タイトルを見る限りでは魔力の運用方法についての参考書のようだけど――僕にはよくわからない。
「スノウはちゃんと戻ってきているのかしら。町をうろつくとは言っていたけれども、心配と言えば心配ね」
宿に戻った僕たちだったが、どうやらスノーホワイトは戻ってきていないようだった。
「あの娘はなにをやっているのかしら……。まあ、めったなことは起きないでしょうけど」
「少しだけ周りを見てくるよ。メルは……せっかく本を借りてきたし、僕が戻るまで読んでいたら?」
メルは少し迷っていたようだが、やや間を開けて宿に残る旨を伝えてきた。
「マスターがそう言うなら……そうしましょうか」
少し歯切れの悪い言い方に違和感があったけれども、まあ、少し様子を見るだけだし、心配する必要はないだろう。
宿の外に出てみると、スノーホワイトはすぐに見つかった。どうやら彼女もちょうど戻るところだったらしい。変わったところと言えば――彼女の服がいつもとは違っていた。黒を基調としてところどころ茶色をあしらった、警官風のファッションである。
「あら、メルを放り出してどこに行くつもりですの?」
「君を探そうとしていたところだよ。……ええと、その服はどうしたの?」
あら、気になります? と言いながらスノーホワイトはその場でターンを決める。
「自警団の制服ですわ。この格好の方が町の人たちに聞いて回るときに都合が良いもので」
「……良いのかなぁ。怒られたりしない?」
大丈夫ですわ。とスノーホワイトは答えるが、怪しいものである。捕まったりしないと良いのだけれども。
などと考えている間に、スノーホワイトは服装を変えていたようである。警官風の服から白のシャツと黒のスカートへ。スノーホワイトは剣を金属で覆っているため、金属加工をすることで見た目を変える技能を持っている。その応用だろう。
僕は直接見ていないが、初めて会った時は僕に変装していたらしい。
「聞き込みの結果ですけれども……最近、水面に映った映像が現実になる事件が相次いでいるようですわね」
「……ちょっとイメージがわかないね」
「噴水とか水溜まりとか、そういうところに映像……大抵は事故にあう場面が映って、しばらくするとその映像通りに事故が起きるらしいですわ」
実際に未来予知しているのか、自作自演なのかは気になるけど概要は把握できた気がする。問題は誰が何の目的でやっているか、かな。
「犯人かはわかりませんけど、現場には怪しい人が出没しているみたいですわね。全身をローブで覆った長身の女性だとか」
「まあ、それくらいの格好なら探せばいそうだけど……」
「牛の骨みたいな頭をしているそうですわ」
「不審者だね」
というか、魔物じゃないかそれ?あるいは『星が落ちた日』関連の存在か。
「角が二本あるとか片方だけだとか、証言にブレはありましたけれども……なんらかの事情は知っていると見て良いですわね」
「となると、僕たちがやるべきはその不審者の捜索かな」
「ええまあ。明日の学会が終わったら、水場を中心に探すのがよろしいかと」
その後いくつか情報交換をし、部屋に戻ることにした。その途中、宿に入ったところでスノーホワイトが僕の肩を叩き、いたずらっぽく囁くように言った。
「それで、メルとは何かありました?」
次回の投稿は11/16(金)を予定しています




