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魔剣に転生したけど使い手がチート過ぎて私の存在価値が危うい  作者: ゆとりの和田
第一章 炎の精霊剣
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精霊剣と寄生剣

 「迎え撃とう」

 「逃げましょう」


 全く正反対の意見が同時に出た。お互いにしばらく見つめあう形になる。

 

 「街中で襲われればとても目立つわ。……早めに宿を出て、次の町に向かう方が面倒はないわ」


 「でも、それだと次の町で追いつかれるよね? 実際、あれだけの距離を走ってきたのに、あの女の子は僕たちを追いかけているみたいだし」


 ぐ、と言葉に詰まる。確かにそれは翔(マスター)の言う通りである。今回逃げ切れていない以上、次の町に移動しても追跡してくる可能性は高いだろう。


 それに、とマスターは続ける。


 「個人的には、ここで逃げたくないんだ。というより、逃げ回って怯えて暮らしたくはない、かな。だって、ここ数日の、メルと一緒に過ごした日々はとても楽しかったから」


 マスターを見ると、大きな、そして澄んだ目がこちらを見つめている。


 「だから、ここは勝ちたい。これからもメル一緒に旅をするために。それに、大丈夫だよ。僕たちはきっと負けない」


 だってメルは最強の精霊剣なんでしょ――とマスターは言う。こちらを信頼しきった顔で。


 「ええ、そうね……そうだったわね。私とマスターが組む以上、敗北はあり得ないわ」


 最強、とまで言った覚えはない――ないが、ここまで期待されて引き下がれる私でもない。そんな性格と言われるかもしれないが、期待されれば応えたくなるのが私である。


 「寄生剣を迎え撃ちましょう」







 すぐに支度を整え、町を出た。朝まで休む選択肢もあったが、いつ寄生剣の襲撃があるかわからない以上、すぐにでも町を出た方が良いという判断だ。


 そして今、私は絶賛後悔中である。確実な勝算もないのに大見栄をはってしまった。何が敗北はあり得ない、だ。過去の私め。どう責任を取ってくれる。


 とはいえ、言ってしまったものは仕方がない。確実とは言えないが勝算はなくはないのだ。それはすでにマスターに伝えてある。簡単に言ってしまえば、強化魔法で性能差を埋めてしまうのである。


 強化魔法は対象を強くする――わかりやすく言えば、固くなるのである。その強化度合いは対象の潜在能力に作用される。もともと強ければ強化の割合も大きくなる。つまり、勝てるかどうかは私の潜在能力次第なのだが……これはもう、やってみるしかない。


 などと考えているうちに、朝日が昇ってきた。マスターの横顔が照らされ、短くそろえられた黒髪が風に揺らされる。緊張が見られないのは良いことだが、正直に言うとその豪胆さがうらやましい。私など不安で仕方がないというのに。


 「……来た」


 マスターが立ち上がり、剣(わたし)を構える。それと同時に、寄生剣の少女が姿を現した。その右手には変わらず触手がうごめき、寄生剣の水晶が朝日に照らされ鈍く輝いた。


 動いたのはほぼ同時だった。寄生剣の少女が上段から切りかかり、それをマスターが受け流す。少女がバランスを崩し、マスターが足払いで少女を完全に転倒させる。そしてマスターは強化魔法を自分(・・)に施し――寄生剣の水晶を素手で打ち砕いた。


 「……えっ?」


 いや、ちょっとまて、何をやっているのだこのマスターは。自分が打ち負けたらどうしようとか考えていた私はなんだったのだ。


 とそこまで考えて、私は気づいた。強化魔法の効果は対象の潜在能力に左右される。つまり、潜在能力の高いマスターにかければ、その効果はとてつもなく大きなものになる。つまりはそういうことなのだろう。


 もっとも、マスターがそこまで考えていたかはわからない。強化魔法というくらいなのだから、無機物にかけられないと思い込んでいた可能性もある。というかそういう勘違いをしていた可能性が高い。


 「……終わった、のかな?」


 少女の腕に絡みついていた触手はすでになくなっており、後には静かに寝息を立てる少女と、根元で完全に砕かれた寄生剣が残った。


 「……ええ、そうね。マスターの勝ちよ」


 なんだか納得はいかないが、無事に寄生剣を撃退できたことを喜ぼう。






 私たちは町に戻り、無事に少女を家に届けた。どうやら有名な資産家の娘だったらしく、多額の謝礼と思わぬ伝手ができた。


 「学術都市シャーロットへの紹介状ね。まあ、他の寄生剣の情報も気になるところだし、情報収集もかねて行ってみるのも良いかもしれないわね」


 「学術都市?」


 「魔法の最先端の研究を行っている都市よ。研究所が多くあるから、その分情報も集まりやすいし、古書店も豊富だからその中にも寄生剣の情報があるかもしれないわね。炎の寄生剣がマスターを狙っていた以上、他の寄生剣も同じように狙ってくる可能性は高いし、調べておいて損はないわ」


 魔法の研究、のあたりでマスターは目を輝かせた。意外と、というべきか、好奇心旺盛らしい。



 「他にも最果ての地、なんて呼ばれていたりもするわね。まあ、そのあたりはシャーロットに着いたら説明しましょうか」


 「うん、そうだね。頼りにしているよ」



 こうして次の目的地が決まった。国境に最も近く、最先端の研究を行っていることから最果ての地と言われる、学術都市シャーロットへ向け、準備を整えて出発することとなった。

第一章完結です。初めての投稿であり、拙い部分は多いかと思いますが、これからもよろしくお願いします。


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