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魔剣に転生したけど使い手がチート過ぎて私の存在価値が危うい  作者: ゆとりの和田
第一章 炎の精霊剣
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依頼と狩り

 「薬草摘み……引越しの手伝い……これは庭の掃除、かな?」


 「ええ、そうよ……文字覚えるの早いわね……」


 朝食を済ませ、現在私たちは依頼が貼りだされている掲示板の前にいる。枚数はそれほど多くない。治安が良いからか、あるいは自分たちで解決しているからか。翔(マスター)は一枚一枚内容を確認している。


 最初は私が読み上げていたのだが、マスターが次第に文字を覚え始め、現在はマスターが一人で掲示物を読んでいる状況だ。文字を覚えるのが早い。あまりにも早すぎる。記憶力か何かのチートも持っているのだろうか。


 「昔はこんなに記憶力は良くなかったと思うけど……」


 「前がどうだろうと、今は覚えるのが早すぎるわよ……」


 私の存在価値がまた薄まっている気がする。身体能力が高い。記憶力が良い。私はどうすれば良いというのか。


 「ところでメル……この一角牛って何?」


 「ああ、一角牛ね。といっても、文字通り額に一本角が生えている牛のことよ。最近は改良に成功して、家畜として飼われることも多いらしいけど」


 そこまで言って、マスターが手に取っている依頼書を見てみる。


 「って、なによこの報酬額……」


 そこには膨大な金額が示されていた。昨日「掲示板に大した依頼はない」と言ってこれである。宿代だけならば一年ほどは賄えそうだ。しかし、依頼書を最後まで読んでその理由に気付く。


 「狩ってくるのは野生の一角牛ね……なるほど、それは高値になるわね」


 「野生だとそんなに違うの?」


 「野生の一角牛は凶暴なのよ。狩りをするにも数人規模でやって、成功するかわからないとか。それに最近は数が少なくなっていると聞いたわ」


 数が少なくなっている動物を食べたがるのはどうかと思うが、それはそれである。品種改良により大人しくなり、飼いやすくなったが……野生の方が味は良いらしい。もっとも、品種改良したものが不味いというわけではなく、野生の方がより美味く貴重というだけである。


 「今のところこの依頼を受けている人はいないみたいだし……良いんじゃないの? マスターならこの程度こなせるでしょう」


 「メルがそう言うなら、受けてみようかな。手続きはどうすれば良いの?」


 「依頼書に魔力を流せばいいわ。……流し過ぎないでちょうだい? 少しでいいのよ?」


 マスターが魔力を流し込むと、依頼書が薄く発光し、光が収まると紙の色が薄い赤色に変化した。


 「はい。これで手続きは終わりよ。どうやら南の森で目撃されているらしいから、行ってみましょう」


 「結構簡単だね……ところで、すでに誰かが依頼を受けているものを先に解決したらどうなるの?」

 

 「早い者勝ちになるけど……トラブルの元になるからやる人はいないわ。治安が良いというか……そもそも、そういう発想をする人があまりいないのよ」


 依頼の条件を改めて見直し、近場の店で組み立て式の台車を購入した。一角牛はそれなりの大きさになるから、持ち帰るときに役立つだろう。


 「さて、それじゃあ出発しましょうか」






 森を抜け、開けた場所でマスターが荷物を下ろした。見える位置に一角牛が一頭、食事をしているのが見える。牛の体高はマスターと同じくらいだろうか。その額には名前の通り大きな角が生えている。


 「今更聞くのもなんだけど……あれって魔物なの?」


 「いいえ、違うわよ。狼の魔物を思い出してちょうだい。口から黒い瘴気を出していたでしょ?」


 マスターは思い出したのか、頷いている。


 「あれが魔物の特徴よ。狼型に限らず、魔物は体のどこかしらから瘴気を放っているの。理由まではわからないけどね」


 さて。今は一角牛のことである。一応狩りの方法があることはある。


 「一角牛はね、角を折られると急に大人しくなる特性があるのよ。一説には角が生きている証と言えるほど大切なもので、失うと生きる意志も無くしてしまうとか……でも角は硬いから」


 「角を折ればいいんだね。わかったよ」


 「えっ」


 止まる間もなく、マスターはそれなりに離れていた距離を一瞬にして詰め、角を握りしめた


 「えいっ」


 ぽきり(・・・)、とあまりにもあっけなく角は折れた。待て。待ってくれ。説明は途中だったんだ。角を折る以外に方法があると説明するところだったのに、何をやっているのだこのマスターは。


 角を折られた牛はその場に座り込み、動こうともしない。あとは台車に乗せて運ぶだけなのだが……何か釈然としないものがある。


 手際よく台車を組み立て、牛を乗せるマスターを見ながら私は帽子を被り直す。……さすがにこれ以上驚かされることはないと信じたい。信じたいが、きっとまたとんでもないことをやらかすのだろう。そんな気がする。


 「マスター、一応言っておくけど、角を折った方法を聞かれたら適当にごまかした方が良いわよ……変な騒ぎを起こしたくはないし」


 「よくわからないけど、メルがそう言うなら言わないでおくよ」


 私は軽くため息をついた。まあいい。依頼は終わった。問題なく終わったのだ。それで良しとしよう。


 







 夜も更け、宿の食堂は繁盛していた。席に着き、注文を済ませる。すると程なくしてサラダが運ばれてきた。緑、黄、赤と色とりどりの野菜が並び、ドレッシングがかけられている。


 まずは一掴み口に入れると、シャキシャキとした歯ごたえとドレッシングの酸味、そして時折感じる種子の辛みがほどよい調和をしている。やはりこの宿の食事はおいしい――




 今日よぉ、薬草を摘みに行ったら魔石を拾ったんだよ。




 一瞬、静寂が辺りを包んだように感じた。もちろんそれは気のせいであり、食堂は人々の会話で賑わっていた。声が聞こえた方に顔を向けたが、すでに別の話題に移ったようで誰が発した言葉かはわからない。だが、確かに聞こえた。思い起こされるのは寄生剣の少女だ。


 ふと気づくとマスターも同じ方向を見つめていた。二人同時に聞き間違えたとも考えにくい。やはり気のせいではないだろう。


 追跡者はすぐそこまで来ている。

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