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魔剣に転生したけど使い手がチート過ぎて私の存在価値が危うい  作者: ゆとりの和田
第一章 炎の精霊剣
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換金所と宿

 城塞都市ガド。その名が示すように四方を城壁に囲まれた大型都市である。レンガ造りの建物が並び、通りには人々があふれ、活気に満ちている。


 街の雰囲気に圧倒されているのか、マスターは辺りをきょろきょろと見回している。しばらくすると自分が不審者だと気づいたのか、前方を見て歩き出すが、時間がたつと再び周囲の様子を食い入るように見つめている。


 しばらく放っておくのも良いのだが――そうもいかない。


 「翔(マスター)、観光しているところ悪いけれど、換金所は次の十字路を右よ。通り過ぎないようにしてちょうだい」


 「え? ああ、うん。わかったよ」


 そう言いながらも、町の様子に興味が尽きないようである。かくいう私も千年ぶりの人里なので色々見て回りたいところである。だが、観光は後でもできる。当面の問題は、生活費を手に入れることと宿を決めることだ。


 ようやく十字路を右に回ったところで換金所が見えてきた。扉をくぐり、中へ入る。建物内はそれなりに広く、いくつかのカウンターに分かれている。


 「魔石の買取は……一番左のカウンターね。さっさと換金して、宿を探しましょう」


 「一番左……あの女の人のところかな」


 受付嬢の前に行き、用紙を受け取る。だがここで、問題が生じる。


 「……文字が読めない」


 当たり前と言えば当たり前である。異世界から来たばかりのマスターに読み書きができるわけがない。発音が日本語なのはどうなんだと思うが、それはそれである。


 マスターには今後読み書きを覚えてもらうとして、この場の問題を解決するのは簡単である。私が書けばよいのだ。私がペンを受け取り、記入を済ませる。査定が終わるまで、しばらく待機となった。


 椅子で待っている間、聞きたいことがあるんだけど――と前置きして、マスターの質問を受ける。


 「ここに来る前に襲ってきた女の子が持っていた、寄生剣? ってなんなの?」


 「少し話したけど、魔物を倒すことを目的とした、五本の剣のことよ。文字通り何かに寄生し、魔物を倒すためだけに宿主を行動させるの。……無機物にも寄生すると聞いたこともあるわね」


 精霊剣が自立して魔物を狩る剣なら、寄生剣は被害を度外視してただただ自動的に魔物を倒すことを目的として作られている。


 「魔物を倒すために作られたのなら、どうして僕たちに襲い掛かってきたんだろう」

 

 それに関しては謎である。が、仮説がないわけではない。多分だけど、と前置きして仮説を話すことにする。


 「マスターが異世界から来た、というのが影響しているのかもしれないわね。魔物も異世界から呼び出されていると言われているから……寄生剣に魔物と同じ存在だと認識されたのかも」


 「ええと……ということは……対策なし?」


 「そういうことになるわね」


 現状、遭遇しないように祈るしかない。……近場に一本いるうえに、世界のどこかに残り四本の寄生剣が存在しているのだが。


 「もしくは……こちらから破壊しに行くか、ね。寄生剣には核となる水晶があるから、それを破壊すれば機能停止に追い込むことはできるけど……」


 理屈の上では破壊可能なのだが、問題がある。認めたくはない問題だが。言う必要はないのだが、性格というか、性分なのである。黙っていればいいのに、相手が不利になるとわかっているのでどうしても素直に話してしまう。


 「でも、私じゃ寄生剣の核は破壊できないわね……」


 「破壊できないって?」


 「単純な硬度の問題よ。私はかなり初期に作られたから……その、製造方法や使われている素材が古いのよ。だから打ち合えば負けるのは私の方」


 結局、現状打てる手は遭遇しないように祈るか、逃げるだけである。などと伝えたところで、ふとマスターを見ると、腕を組み何かを考えている様子であった。


 「何か気になるところでもあったかしら?」


 「気になるということでもないけど……まあ、できるかもわからないし、そもそも戦わなければ良いだけだしね。なんでもないよ」


 話がまとまったところで、ちょうどカウンターから声がかかる。魔石の代金を受け取り、私たちは換金所を後にした。




 「ところで、お金にしたは良いんだけど……どれくらいの価値があるの?」


 「そうね……これくらいだと、贅沢をしなければ二週間くらいは暮らせるわね」


 緊急で金を稼ぐ必要はないが、のんびりしている余裕もない、といったところである。実際には雑貨も必要になるだろうし、数日休憩したら何かしら稼ぎに出る必要があるだろう。


 「少ししたらお金を稼がないとだめだね。魔物を倒す以外に何かお金を貰える方法ってあるの?」


 よくある設定だとギルドとか、などとマスターが言っている。残念だが、ギルドは存在しない。代わりとなるものはあるが。


 「魔石に比べると稼ぎは減るけど、掲示板にある依頼をこなせば少しは収入になるわ……まあ、困っていることの相談所みたいなものだから、高価な報酬を貰える依頼はあまりないと思うけど……」


 何やらマスターが露骨に肩を落としている。そこまでお約束が欲しかったのか。



 


 宿が取れるかという心配もあったが、そこは問題なかった。宿の帳簿に記入を済ませ、代金を支払う。宿の一階は食堂になっているようで、そのまま夕食をとることにした。


 「……私は食事をする必要はないのだけれど……」


 「無事に町に着いたお祝いと、ここまでお世話になったお礼ってことで。それに、一人で食べるのも味気ないしさ」


 何度か断ろうとしたが、結局押し切られる形で食事をとることになった。千年ぶり、しかも転生してから初めての食事である。いろいろ理由をつけたが、食事の魅力には逆らえなかった。


 明日やることについて相談しているうちに、料理が運ばれてきた。仕切りで分けられた鍋に、薄く切り分けられた肉。色とりどりの野菜。――私を作った鍛冶師もそうだが、私たち以外にも日本から転生や転移した人物がいるのだろう。


 あいさつもそこそこに、肉をさっとゆでる。ひょっとしたら食べる順番があるのかもしれないが、私は肉が食べたいのだ。食べたいものから食べる。前世ではショートケーキはイチゴから食べるタイプだった。同志がいるかは知らない。


 溶いた卵を肉に絡ませ、口に入れる。柔らかな肉があっという間に溶け、腹にすとん、と落ちる感触がする。適度に野菜をつまみ、果実酒を煽る。


 美味しい。


 果実酒を再び口にしたところで、ふと食事に集中し過ぎていたことに気付く。なんとなく失敗したような気分でマスターを見るが、どうやらあちらも異世界の食事に夢中になっているようだ。


 視線を感じたような気もするが、きっと気のせいだろう。


 食事をしながら今後の方針を立て、明日は観光も兼ねてまずは掲示板を見に行くことになった。

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