木更津翔は贈りたい その一
「なるほど。メルにプレゼントを贈りたいというわけですわね」
原初の魔物を倒してしばらくたった頃、僕はふとした思い付きの下準備として、スノーホワイトを訪ねていた。スノーホワイトもどうやら暇をしていたらしく、快く話を聞いてくれた。
そして冒頭のセリフに戻るわけである。別に喧嘩したというわけではない。ただ単にきっかけが欲しいだけだ。なんかこう、先に進むためのきっかけが。
「あなた様が選んだものなら何でもいいのではありませんか? 例えばその辺に落ちている木の枝とか」
「さすがの僕でもそれはダメだとわかるし、それで喜ぶメルは見たくないかな……」
相談する相手を間違えた感がある。恋バナが好きそうだったので何かヒントでももらえればと思ったのだが。というか、スノーホワイトは先ほどからあまり乗り気ではないらしい。
「いつもは頼んでいなくても食いついてきそうなのに、なにかあったの?」
「実はさっき、メルに釘を刺されまして。次、覗いているのがバレたら口をきかないと言われましたわ」
スノーホワイトは不貞腐れたように机に突っ伏している。白い髪をもそもそと揺らしているところを見ると、どうやら本当に落ち込んでいるようだ。
「そこまで覗きにこだわらなくても……」
「私の目の届かないところでイチャつかれても、なんも面白くないんですよ!」
ものすごい勢いで怒られた。若干口調が崩れている辺り、どうやら本気で言っているようである。
「それはさておき、真面目なアドバイスをするならばシロウ様に聞いてみるのはいかがでしょうか。私たちを作ったお方ですから、ある程度の好みを把握してるのでは?」
「思ったよりまともなアドバイスだ……」
それどういう意味ですの、とスノーホワイトに詰め寄られてしまったが、仕方がない気がする。普段の言動を思い起こすと、もう少し無茶ぶりをしてくると思ったからだ。いやまあ、今考えるとやはり人選ミスだった気もするのだが、それはそれである。
「私としては、やはりあなた様の選んだものならば何でも喜ぶとは思いますが……情報収集してみるのもよろしいでしょう。少なくとも、シロウ様ならば他の精霊剣よりは参考になるはずですわ」
「そうだね。聞いてみるよ。ありがとう、相談に乗ってくれて」
お礼はノロケ話で良いですわよ、と言い残しスノーホワイトはふて寝を始めてしまった。僕は簡単にお礼を言い、部屋を出た。目指すはシロウさんの書斎である。
「んなもん俺が知るわけないだろう」
「ばっさりですね……」
シロウさんに事情を説明したところ、開口一番でこれである。僕の計画は早くも頓挫してしまった。
「他の精霊剣はともかく、メルは特別製だからな。あいつの魂は別世界から連れてきたやつだから、俺が設定したわけじゃない」
わりと重要な設定をさらりと暴露された気がする。なんとなくそういう気はしていたから、衝撃というほどではないけれど――それでも、思うところはある。
「というか、難しいこと考える必要はないだろう。あいつ多分、お前が渡したものならなんでも喜ぶと思うぞ?」
「みんなそう言いますけど、なんでも良いってのが一番困るんですよ……」
選択肢があり過ぎて絞れない。あれもこれもというよりは、あちらを渡そうとすればこちらの方が良いのでは、と思えてしまって決められない。
「それに、どうせ渡すならより喜んでもらえる方が良いじゃないですか。地雷を避けるっていう意味もありますけど、好みに合わせたものをプレゼントしたいんですよ」
「それでしたら、城塞都市のアクセサリーショップをご覧になってはいかがでしょう」
書斎の整理をしていたナナミが声をかけてきた。今日も安定のメイド服である。
「ベタではありますが、お揃いのアクセサリーを身につけると喜ぶと思いますよ。メル様、思い出の共有とか好きそうですし」
「……そうですね。検討してみます」
そういえば以前ガドを訪れた時も、ネックレスや指輪をよく見ていた気もする。まあ、あまり高すぎないものを選ぶのが無難だろう。
「あー、ガドに行くなら一応用心しておけよ。少年ならめったなことは無いとは思うが」
「何かあるんですか?」
「どうも最近、事件が起きているらしいんだよ」
シロウさんは筆記の手を止め、眼鏡を机に置いて軽く伸びをした。肩がこるんだよなぁ、などとぼやいているが、男である僕にはよくわからない。
「人が溶かされているとか。穏やかじゃねぇよな」
「魔物の仕業、ですかね」
「かもな。まあ、さっさと行ってさっさと帰ってくれば余計な事件にも巻き込まれんだろ。確か居間にセイブルがいたはずだから、護衛兼移動手段として連れて行ったらどうだ?」
「そうしてみます。相談に乗ってくれて、ありがとうございました」
ついでに何か美味いものでも買ってきてくれ、というシロウさんの頼みを引き受け、居間に移動する。シロウさんの言った通り、セイブルがいた。アズールも一緒である。
「おや、どうかしましたか?」
「ちょっとお願いがあってね」
簡単に事情を説明し、ガドに連れて行ってもらえるように頼んでみる。感触としては悪くないようだ。
「ええ、ええ。そういうことなら協力しましょう。転移魔法はそれほど手間ではありませんし」
「あれ、結構難易度高い魔法じゃなかったっけ? 僕は属性以前の問題でできる気がしないんだけど」
「そこは適正と慣れです」
セイブルが自慢げに胸を張る。実際、目的地まで一瞬で移動できる魔法なので非常にありがたい。
「それじゃあいってらっしゃい。僕は特に用事ないし、ひとりジェンガでもやってるよ」
「それは面白いのかな……」
面白いよと言われては返す言葉もない。
「そういえば、残りの二人……メルとマシコットはどうしてるの? 朝から姿を見てないけれど」
「外に買い物に出かけたよ。……ええと、何を買いに行ったかは言えな……じゃなかった、知らないけどね」
なにやら思わせぶりな言い方だが、追及するのは止めておこう。彼女も彼女でやることがあるのだろう。そういえば、メルと別行動をとるのは珍しい気がする。というか、今までそんな機会あっただろうか。
当たり前のように一緒にいて。隣にいるのが当たり前だった。
「さて、転移魔法の準備ができましたよ。出掛けましょうか」
「ありがとう。それじゃあ行こうか」
寝ころびながら手を振るアズールに見送られ、僕たちはガドへ移動することにした。
「随分悩んでいますね。まあ、時間はたっぷりあるので好きなだけ考えれば良いとは思いますが……こういうのは案外直感で選んだ方が良いのでは?」
「それはそうかもしれないけど……」
プレゼント選びを始めて、すでに一時間が経過している。突き合わせてしまっているセイブルには悪いとは思っているが、あとで食事をおごることでちゃらにする約束である。
もので釣るのはどうかと思うが――等価交換というやつである。多分違う。
指輪は重過ぎるだろうし、イヤリングかネックレスにするか……? そもそも、形に残るものを贈るのってどうなんだろう。前にいた世界でも彼女なんていたことがないのでその辺りの感覚がわからない。
恋愛の攻略本が欲しい。女性にいついつこんなムードでプレゼントを渡せば好感度がいくつ上がります、みたいに書いているやつ。
完全に行き詰っている。食事をして気分転換でもしようか。
「おやおや、ショウさんではないですか? 辛気臭い顔をしてどうしたんです? 私で良ければ力になりますよ?」
悩みに悩んでいる僕の後ろから、明朗な声が聞こえてきた。どこかで聞いたことのある声だ。とはいっても、僕がこの世界で知り合った人の数などたかが知れている。
艶のある美しい金髪に、赤っぽいベストと灰色のスカート。やや低めの身長が保護欲を掻き立てる。以前見たときは肩のあたりで髪を結んでいたが、今日はストレートに下ろしている。
以前この町で出会った、炎の寄生剣の少女である。
「お久しぶりです。元気してましたか?」
次回の更新は8/26(日)を予定しています。




