幕間の物語 木更津翔その4
「これで五匹目、ですわね」
スノーホワイトの拳が虎型の魔物を貫き、魔物は消滅した。あとに残った魔石を回収し、一息つく。やはり彼女は強い。メルが言うには一対一では最強、だったか。
「他の精霊剣と比べると、武闘派だよね」
「金の魔法自体、言ってしまえば金属の精製、成形しかできませんので。戦うためには自然とこうなってしまうのですわ」
思えば、金の寄生剣も攻撃手段は直接斬りつけるだけだった。他人に成り済ますことができるとはいえ、それは魔物相手には役に立たないということなのだろう。
「まあ、遠距離攻撃を基本的に持たない私としては、土の精霊剣あたりとは相性が悪いと言えますわね」
「え、マシコットってそんなに強いの?」
僕たち五人を相手にあれだけの大立ち回りを演じたスノーホワイトにそこまで言わせるとは。一体どんな精霊剣なのだろうか。
「相性の問題ですわ。マシコットは巨大なゴーレムを操れますの。皆様と戦った時のように入念な下準備ができるならともかく、私は基本的に一対一……人間くらいの大きさしか相手にできませんわ」
ゴーレム。土使い。お約束といったところだろう。おまけにこの世界では土はありふれている。僕が前までいた世界とは違って、道路の舗装があまり進んでいない。町中ならともかく、魔物が出るような場所は基本的に人の手が入っていない。つまり、土の精霊剣の独壇場である。
スノーホワイトの話を聞きながら、僕は剣を逆手に持ち背後に突き出す。剣は虎型の魔物の口を貫き、魔物は消滅した。これで六体目だ。
「シロウさんが代わりに用意してくれた剣だから使いやすいは使いやすいけど……やっぱりメルの方が手に馴染むなぁ」
「……普通は背後も見ずに魔物を迎撃なんてできませんわよ。シロウ様に選ばれただけあって、あなたも大概ですわね」
そうだろうか。メルならばもっと容易く――当たり前にやってのけるだろう。彼女は謙遜しているが、僕が戦うよりも彼女が戦った方が早いのではないかと思っている。そうならないように――彼女の担い手としてふさわしくなれるように、努力しなければならないのだが。
「……まあ、マシコットは性能はともかくとしても、性格が戦いには向いていませんわ。平和主義というか、おっとりし過ぎで争いごとが得意ではありませんの」
「だとしても、味方になってくれれば心強いけどね。僕たちには大型の魔物を倒すっていう目的があるし」
「ええ、ええ。大型の魔物の核があればいろいろできますものね。でもよろしいんですの? あなた様の世界に、メルは連れていけませんのよ」
どさりと音を立て、魔物が倒れる。僕に腹を、スノーホワイトに喉を貫かれた魔物は、静かに魔石へと変わった。これで七匹目だ。
「どういう……意味かな」
「あなた様の世界では、魔力が薄すぎますの。魔力がなければ精霊剣はその存在を維持できませんわ。愛しあう二人が引き裂かれるのは悲しいことですが……これは仕方がないことですわ」
先送りにしてきた問題が、いよいよ具体的な形になってきた。元の世界に帰るということは、そういうことなのだ。必然的にメルと別れることになる。そうなった場合――。
「そうなった場合……メルはどうなるのかな」
「さあ? ただ、あなた様が元の世界に戻れるころには、魔物のほとんどは退治されたということになるでしょうから……」
私たちは用済みということになりますわね、と言いながらスノーホワイトが八匹目の魔物を踏みつぶす。
「君は……それでいいのかい?」
「もちろんですわ」
即答だった。断言された。スノーホワイトが僕の顔を覗き込んでくる。その目には一点の曇りもない。本気で――本心で、言っている。
「精霊剣は魔物を倒すために作られましたから。役目を果たせれば、それで本望ですわ。道具として、本懐を遂げられますわ」
思い起こされるのは――今までの想い出。記憶の中のメルは、よく笑っていた。僕の話には興味深そうに相槌をうってくれたし、美味しいものを食べているときは本当に幸せそうだった。彼女が、道具だというのか。彼女を、道具と思えというのか。それは、それはあまりにも――。
「ところで、魔石の使い方はひとつではありませんの。ご存知?」
九体目。今度は僕が魔物を切り捨てた。スノーホワイトに視線をやり、続きを促す。
「大型の魔物の魔石が五つも集まれば、多少の無理も通せますわ。例えば、精霊剣を人間にしたりとか」
子供も作れるようになりますわね、などとスノーホワイトが補足する。なんとなく、悪魔のささやきのようだと思った。悪魔にはあったことはないけれど。
「人間を作るって、大抵は禁忌だと思うけど……」
「それはあなた様の世界での話でしょう? この世界に咎める人間はいませんわ。止める人間はいませんわ。それに、世界を救った勇者には、それくらいの褒美があってよろしいでしょう?」
「……メルがそれを望むとは、限らない」
「ならばあなた様が精霊剣となって、共に永遠の時を生きるという選択肢もありますわよ」
スノーホワイトが十体目の魔物を粉砕した。これでシロウさんの依頼はこなしたことになる。
「まあ、異種族のまま二人で寄り添いあうというのも、それはそれでおつなものもありますわね。なんにせよ、魔物を全て倒した後のお話になりますが」
スノーホワイトが魔石を拾い、華麗にターンをしてこちらを見つめてくる。
「さて、帰りましょうか。愛しのメルが待っていますわよ?」
次回の投稿は7/29(日)を予定しています。




