鍛冶と役割
マスターたちが材料を集めてくれたため、シロウが剣を打ち直してくれることになった。シロウが炉に火を入れ、鍛冶の準備をしている。
「鍛え直せば、それなりに頑丈にはなるだろう。人格の方は……いじらんでもいいか。アバターの方もいじっておくか? 身長も尻もでかくできるぞ」
「余計なことはしなくていいわよ。この見た目、結構気に入ってるの」
「胸もでかくできるぞ」
「…………こ、このままで、いいわよ」
「拳を震わせながら言うなよ。悪かったって」
与太話をしながらも、シロウの作業は進んでいく。ハンマーで剣を叩く小気味よい音が、何度も何度も響き渡る。途中何度か魔石を投げ込み、それをハンマーで打ち付ける。金の魔法でも使っているのだろうか、あっという間に魔石は融け、剣の形が作られていく。
「しかしまあ、もったいねぇな。嫌だってんなら無理にはやらねぇけどよ。女は身長と胸と尻がデカい方が良いだろうに」
「精霊剣に何を求めているのよ……というかそれ、自画自賛じゃないの? 全部あなたに当てはまってるじゃない」
「まあな。前世の俺が見たら間違いなく追っかけになっていただろうに。自分でファッションショーできるから悪くないと言えば悪くないんだが」
シロウがさらに魔石を放り込む。火の魔法を使ったのか、作業台から剣に向かって炎が伸びる。
「無いよりもあった方が良いだろう。胸も、金も、家族も、友人も、恋人も。ある方が良いに決まっている」
「いったい何の話をしているのよ……」
「俺にはないものをあの少年は持っている、という話さ」
「いや、間違いなくそんな話ではなかったでしょう。あなたの性癖の話しかしていなかったわよ」
シロウが紅蓮の木の実を取り出し、がつんと一際大きな音を立てて剣に打ち付ける。魔力のこもった、赤黒い液体が木の実から漏れ、剣に纏わりつく。シロウはハンマーを打ち付ける。何度も。何度も。
「あの少年は、潤沢な魔力を持っている。土の精霊剣を十全に扱うのに、十分な魔力をな」
「……あの娘の力が、必要になると?」
「ああ。原初の魔物は、デカいからな。だがマシコットの力があれば、渡り合えるだろう。当然桁外れの魔力が必要になるだろうが……あの少年なら十分だろう」
シロウは残っていた魔石を全て使い、一定の間隔で剣を叩く。しばらく会話が止まっていたが、やがてシロウが口を開いた。
「本当なら俺一人で全部やれれば良かったんだが……残念ながら、そうはいかなかった。世界がひとつの物語だとしたら、俺はしょせんただのサポートキャラに過ぎなかったってことだ」
いや、それはどうだろうか。こんな濃いサポートキャラがいてたまるか。むしろ、シロウは黒幕側のポジションだろう。もっとも、シロウが原初の魔物を作ったとは思えないのだが。さすがにその辺りは信用している。
「世界を救うのは、主人公に任せるとするさ。完全に押し付ける形になるが、まあ、その辺りは許してくれ」
「主人公、ね。確かに、マスターは異世界転生チート主人公という感じだけど……」
「いや、違う。主人公はお前だよ」
シロウが剣を水槽に入れ、熱を冷ます。金属が急速に冷やされる音が火事場に響く。こいつは今、なんと言ったのか。
「お前が世界を救うんだよ。あの少年も主役級には違いないが、最後の決め手になるのはお前だ」
「それは、どういう」
「そのうちわかるさ。そのうちな」
剣の冷却が終わると、シロウは剣を作業台に戻し、研磨を始めた。剣の刀身は、以前よりも少し色が鮮やかになっている気がする。
「さて、完成だ。これでまた戦えるようになるだろう」
「なんか、前より綺麗になった気がするね」
マスターが剣の感触を何度か確かめ、そう評価した。悪い気はしない。
「それなりに強化したから、もう折れることは無いだろう。ついでに切れ味も良くなっているはずだ」
「ありがとうございます。この世界にきて最初の武器っていうのもありますけど、やっぱりメルが一番馴染みます」
マスターがはにかみながらお礼を言う。くそ、なんだこのかわいい生物。これで男なのだからなんだか卑怯である。自分でも何を言っているのかわからんが、負けた気分になる。
「さて、それじゃあ二人とも、表に出ろよ」
シロウが棚にあった二振りの日本刀を担ぎながら、手招きをしている。外に出ろと言っていたが、何をするつもりだろうか。
「表に出ろって、何をするつもりですか……?」
「剣を新しくしたんだ。やることといったら決まっているだろう?試し切りだよ。模擬戦だと思って気楽にかかってこい」




