道中と林間都市
ルルベルへの旅は順調に進んでいる。順調すぎるくらい順調である。なにしろこちらには精霊剣が三本と寄生剣が一本いるのだ、それも当然である。
すでに何度か魔物と交戦しているが、たいていの場合は魔物の接近にナナミが気づき、アズールとナナミが氷や木で足止めをし、マスターがとどめを刺すというサイクルが安定している。――あれ、私の出番がない。マスターが攻撃する際に剣を使っているが、それだけである。わざわざ炎の魔法を使う必要がないのだ。
これは良くない。いや、旅が順調に進むのは良いのだが、私の存在価値が危うくなっている。このままではただの美少女枠になってしまうと言いたいところだが、マスター以外はそろいもそろって私以上の美少女である。なんならマスターも女装すれば美少女になるかもしれない。
とはいえ、現状では私にできることはあんまりない。こういう時に無理にでしゃばるとろくなことにならないのは容易に想像できる。ここは耐える時なのだ。
マスターが最後の魔物を倒し、一息つける状態になった。辺りに散らばっている魔石をナナミが回収している。
「そろそろルルベルの町が見えてくるころね。町に着いたらまずは宿を探して、それから情報収集といったところかしら」
「林間都市ルルベルだっけ。どういう町なのかな」
「名前通り、木々の中に作られた都市だよ。大木をそのまま利用した建物が特徴的だねぇ。僕にとっては天国みたいなところさ」
確かに、木が多い場所はアズールにとって有利な場所だろう。自在に動かせる武器が大量にあるのだから、向かうところ敵なしといったところである。私にとっては周囲の被害が気になるので全力を出せないという難点があるのだが。
「ルルベルで採れる果物は絶品だという話も聞きます。町に着いたら食べてみるのも良いかと」
「そうなんだ。楽しみだね、メル」
「そこでなぜ私に振るのかしら」
「でも楽しみでしょ?」
「……ええ、まあ、楽しみだけれども」
完全に観光気分である。これはよろしくない。気負い過ぎるのもよろしくないが、こうも気の抜けた気分で旅をしている集団はそういないのではないだろうか。――いや、そもそも観光で旅をする人々がこの世界にはあまりいないのかもしれないが。
「話には聞いていたけど、本当に普通の人間と変わらない接し方をするのですね。精霊剣に食事は不要だとわかっているはずですが……」
セイブルが感心しているのか呆れているのかわからない調子でコメントをする。気持ちはわかる。かつて私も通った道だ。そしてこれから出会う精霊剣も通る道だろう。
「その辺りは慣れだよ慣れ。僕たちに食事は不要だけど、毒になるわけじゃないだろ? なら、楽しんだ方が得ってもんさ」
「魔石は順調にたまっていますし、お金の心配はしなくて良いかと。それならば、ショウ様のご厚意にあずかっても問題はないと思います」
アズールとナナミは慣れたものである。実際、マスターが許可しているのだから、誰も損はしていないのだ。そういうことにしよう。
ふと気づくと、木造の建物がいくつか見えてきた。ルルベルの町だろう。一軒家がちらほら見えるが、木の幹を利用している建物も多い。玄関前には梯子が立てかけられていて、樹上にある住居に出入りできるようになっている。
ツリーハウス、と言うのが一般的だろうか。子供の遊び場、あるいは大人が童心に帰る秘密基地のような町である。なかには複数の木々を支柱として利用している家もあるようだ。家先に果実がなっているところもある。
「自然が多い町だね。道路も人の手はあまり入っていないみたい」
マスターが辺りを見回している。新しい町についたのだから、好奇心が疼きだしたのだろう。いろいろな場所の建物を見ては、感心した様子でなにやら呟いている。
「観光も良いけど、まずは宿の確保をしましょうか。寝るところがないのはマスターもいやでしょう?」
「そ、そうだね。ええと、宿はどっちかな?」
「ちゃんと事前に下調べはしておいたよー。僕についてきてくれて良いんだぜ?」
アズールが一歩前に出て先導する。程なくして、問題なく宿は見つかった。部屋も空いているようである。手続きを済ませ、観光もかねて情報収集を行った。
結果として、東の方にどうやら大型の魔物がいるらしいことがわかった。同時に、その魔物を一人の少女が押しとどめているらしいことも。
「魔石を拾ったという話も聞いたし、噂の少女は寄生剣に操られているのかな」
「おそらくそうでしょうね。あるいは、ナナミのように少女を模した寄生剣なのかもしれないけど……そのあたり、シロウから何か聞いてないかしら?」
「そうですね……金の寄生剣は自在にその姿を変えられると聞いています。可能性はあるかと」
「寄生剣が近くにいるとなると、この町にとどまっているのは危険かもしれないわね。魔物に夢中になってくれれば良いけど、何かの拍子にマスターに襲い掛かってくるかもしれないわ
「その辺りは僕に任せてくれていいよ。木があれば気配の察知はできるし。セイブルも似たようなことはできるんじゃない?」
「ええ。どうやら近くには川が流れているみたいだし、それを起点に探索はできますね」
やはり精霊剣が味方にいると頼もしい。これでどうやら休憩中の憂いはなくなったようである。魔物や寄生剣を相手取るならば、万全の状態にしておいた方が良いだろう。
「それじゃあ、今日はもう遅いし、魔物退治は明日にしましょう。それでいいかしら、マスター?」
「そうしようか。それじゃあ、みんな明日はよろしくね」
マスターがそう纏め、解散となった。明日は大型の魔物との戦いになる。これだけの戦力がいればめったなことは起こらないと思うが、気を引き締めた方が良いだろう




